09話 王子様をぶち殺して
「撃てえッ・・・!あの少女を絶対に逃がすなぁぁぁッ」
神聖ミライリア軍が誇る白銀銃騎士団は一斉放射を繰り返していた。だが銃弾をは全て少女の目の前で止まり床に落下し当たることはない。床には大量の薬莢が散乱している。その中をゆうゆうと少女は歩く。
「死ねえぇぇ バケモノめええぇぇぇッ!」
王宮の警備も兼ねる白銀銃騎士団分隊長ブラウン・シュルツは震える手で銃を乱射していた。
気持ちよく寝ていたブラウンは夜中に叩き起された。なんとユリウス殿下が惨殺されたという。いったいぜんたいあの少女は何者なのだ!?多くの仲間が殺された。それも一瞬にしてだ。なにをされたのかも分からない・・・
「逃げたい」
ブラウンは逃げたくて逃げたくて仕方がなかった。膝はガクガクと震えている。現に多くの兵士が武器を投げ捨て逃走していた。たが私は誇り高き白銀銃騎士団の分隊長だ。逃げるわけには行かない。そう言い聞かせ大声を出し自分を鼓舞する。
背中をみせたら殺られる・・・それを私は戦場で学んだ。
戦場で一度でも逃走をすればそれまで戦況が互角だったとしても一気に戦いは一方的なものとなる。相手が逃走をはじめれば背中から弾を撃ち込むだけでいい。こちらが攻撃されることはまず無い。敵はただの的となるのだ。殺るか殺られるかの命の取り合いから一変しあとはただ蹂躙するだけだ。これは実際に戦場に出てみないと実感はできないかもしれない。
しかしだからこそ敵前逃亡は重大な軍規違反となる。我が神聖ミライリアでは敵前逃亡は死刑だ。また奴隷に限って言えば敵前逃亡をしようとしたものはその場で射殺することが出来る。これらは特段に重い処罰ではない。どこの国でもだいたいそうである。
なぜなら結局たとえ戦力で相手を上回っていたとしても1人の敵前逃亡が伝播して味方が総崩れとなれば負けてしまうこともあるからだ。誰でも死にたくはないが逃げるという選択をすることで逆に自分が死んでしまうということもある。何よりもその結果、戦争に負けてしまい家族が殺され国が滅びるそんなことさえありえるのだ。
ブラウンは絶対に敵に背中を見せないという信念を貫き通し銃を乱射し続けた。周りにいた部下たちはある者は殺されある者は逃走しもう残っているのは自分だけになった。
「うおおぉぉぉぉぉぉッ・・・!!!」
それでも私は銃を撃ち続けた。人は私を狂っていると言うかもしれないが、狂わなければ殺し合いなどできはしない。
「!?」
急に少女が転んでひっくり返った・・・!?
どうやら自分で自分の服を踏んでしまって滑ったようだ。
「きゃ・・・ッ」
可愛らしい女の子の声だ・・・それでも銃弾は依然として彼女に届く前に全て地面に落下してしまう。
しかし変わった服装をした少女だ。男物のダボダボ過ぎる白いシャツを一枚だけ羽織っている。袖も長すぎて手が見えない。つくづく不気味な少女だ・・・
「カチッ カチッ カチッ・・・!?」
遂に銃弾が尽きてしまったか・・・殺られるッ・・・そう覚悟を決めたが・・・少女は私をチラッと見ると走ってその場をあとにした。
「私は助かったのか」
しばらく呆然と私はその場に立ち尽くしていた。
「しかし・・・甘いな甘すぎる」
あの場で私を殺さないとは・・・そう言えば抵抗しない者はわざわざ殺しはしていなかった。少女だから当然と言えば当然だか・・・それが命取りだッ!
ブラウンは気持ちを切り替える。相手は見た目はあどけなさの残る少女だか皇太子であるユリウス殿下を殺害し多くの同胞を殺した大罪人だ。国の威信にかけてになにがなんでも殺さなければならない。ブラウンは追跡を開始する。王宮と王都を結ぶ石橋の通路へと急ぐ。道中にはおびただしい兵士の死体と打ち捨てられた武器が残っている。
「なにか使えそうなものは無いか?」
ブラウンは辺りを物色して使えそうな弓を手に取る。王都に逃げ込まれたら厄介だ。急がねば・・・
やっと石橋が見えてきた。王宮の正門には大きな穴があいている!?
「なんという魔力だ・・・」
少女は背中を見せひとりで石橋を走っている。マズイもう少しで王都に着いてしまう。近くで追っている者は誰もいない。
「まったく兵士どもはなにをしているのだ」
ブラウンは弓矢に『魔力付与』を施すと少女の無防備な背中に狙いを定め静かに弦を引く。大きく弓がしなり弓矢は空を切り裂き少女に命中した!!!
「やったか!?」
少女はバランスを崩し水路へと落ちていった・・・
翼ちゃんは他に着るものがなくユリウス殿下が床に投げ捨てた彼の上着を着ています。翼ちゃんの身長は140cmくらい。ユリウス殿下の身長は180後半の設定です。