新たなる旅立ちってヤツ
天冥の塔が顕現したと言う。ボクがこの異世界に転生してきた始まりの場所であり、直ぐに消えてしまった、天界に繋がっているという塔。世の中が乱れて、救世主が誕生した時に出現し、登りきって天界に到った者には神の力が授けられるとの伝説があると、今は亡きみーちゃんが教えてくれたあの塔!!!!
それが常に出現していて、誰でも中に入れる様になったという。それで、冒険者や自称救世主の人達が登ろうと殺到しているらしい。しかし、中には魔物やら罠やら危険がいっぱいで、多くの冒険者や自称救世主の人が命を落としているんだってさ。
それでもたくさんの人があの塔に挑んで行くのだから凄い。そう、未知のものへの憧れは誰にも止められないのだ。
ボクは、この話を聞いてワクワクしてしまい、行きたくて、行きたくて、堪らなくなった。新しい面白そうなゲームがリリースした時のあの感覚である。これを言っても、多くの人は分からないかも知れないが、ボクにとっては踊りだしたくなるくらいに、めちゃくちゃテンションが上がる事なのである!
「天冥の塔にかけられていた永きに渡る封印が解かれたのって やっぱり 神の使徒であり 救世主である ツバサちゃの事を神様が呼んでいるからっしょ! これは行かなくちゃだよ ウチも早く会ってみたいなー♪ 」
エマちゃが興奮して、食い気味に捲し立ててきた。顔が近いよ。照れるな。
神聖ミライリアも国を挙げて、ボクを正式なる救世主として天冥の塔に送りだす準備をしている。
これはまぁ、正直ピンチである。本当の本当に大大大ピンチである。だって、ボクが本当は救世主でも神の使徒でもないってみんなに知られる可能性が大なんだもの。そうしたらボクは居場所を失う。嘘ついていたって糾弾されて命まで取られるかもしれない。
でもボクは自分でも驚く程に落ち着いていて、まぁ、これもなんとかなるだろうと、楽天的に考えていた。
今まで常に崖っぷちで生きるか死ぬかの瀬戸際だったわけで、それに比べれば今はむしろヌルゲーなんだよね。
とはいえ、油断はしない。ゲームと違って、ゲームオーバーになってしまったら、コンテニューはできないのだから、油断は大敵だ。できるだけ慎重に、細心の注意を払わなければならない。
ボクはゲームをする時は攻略サイトを隅から隅まで目を通しておくタイプだ。だけど、当然の事ながらこの異世界に攻略サイトはない。
なので、有益そうな情報を知っていると思う人に聞いてみることにした。ボクの周りには、多分誰よりも天冥の塔に関して詳しいであろう者が二名いる。ルネ導師とストゥツガルドである。
先ずはルネ導師に聞いてみた。生きた伝説と呼ばれるくらいの魔法使いだから、天冥の塔に関してもきっと膨大な知識を持っている筈だ。
「ワシはなんも知らんよ」
ルネ導師は、そう言った。
「生きた伝説の魔法使いなのに知らないんですか?」
「ワシは自分が知らない事を知っている それは凄いことじゃ」
「はぁ そうですね」
「間違っちゃダメだよ ワシが不勉強な訳では無いのじゃ たくさん調べた しかし 正確と呼べるような記録は一切無かったのじゃ 」
「そんな事あるの?最初の白き魔女様は天冥の塔に登って 神様の力を得て 世界を平和にして この神聖ミライリアを創ったんじゃないのですか?」
「もちろん そういう伝説や物語りは沢山残っておるよ それこそ わんさとの しかし 実際に何があったかを知るための一次資料と呼べるような有益な情報のある記録は一切 残っておらん 一切じゃ まるでそこで歴史が分断しておるようにの これがどういう事かわかるかの?」
「意図的に情報が消されているって事ですか?」
「ご明察じゃの」
「じゃあ 誰に聞いても わかんない感じですか?」
「そういう事じゃな」
「それは 困っちゃったな」
「なぜじゃ」
「だって 何があるのか 分からないなら 最悪 死ぬかもしれないじゃないですか」
「そうじゃな 確かに何があるか分からんし 最悪 死ぬかもしれんな しかし だからこそ やり甲斐があって 面白いじゃろ」
そう言って、ルネ導師はニヤリと笑うのであった。