火葬場のフナカッタ
神聖ミライリアには奴隷が多い。その理由はそれだけ多くの国々を侵略して、人から、土地から、その富まで、全てを奪って来たからに他ならない。
奴隷の存在意義は、神聖ミライリアの核となる膨大な魔力源の一つとなる事にある。彼らはその首にある奴隷を象徴する首輪から、毎日毎日一定量の魔力を強制的に奪われる。その魔力は各所に点在する魔力貯蓄塔に送られ、風や火や水や光といった原初的な魔法から、複雑な機械の動力源まで、ありとあらゆるものに使われる事になる。
奴隷達には、魔力源の永続的な確保という点から、健康的で文化的な日常生活が保証されている。もちろん奴隷であるから主人に所有物として使われる事になるが、それはどちらかと言えば副産物である。所有者であっても、国の共有財産という認識は持っおり、戦争などの緊急事態下において、命を落とすまで魔力を吸い上げられるという事もあるが、平時においてそれほど、理不尽な扱いをされるという事はまずない。
奴隷の人権を保証しようという動きも活発であり、国もこれを後押ししている。もちろん、それは奴隷の反乱を防ぐという観点において行われている事ではあったりするが⋯当然、国が所有する奴隷も多い。そして、彼らの中には重要でない公共の施設の管理を担当する者もいる。
フナカッタという奴隷がいた。巨漢で何事にも動じない無口で強面な男だったが、本当はおしゃべり好きで気弱な男だったが、空気を読むのが得意な男だったので、子供の時についてしまった最初のイメージを守り続けている頑なな男だった。
彼は無縁墓地で住み込みの仕事を任されていた。無縁墓地には誰かと知れない死体が毎日毎日運ばれてくる。彼は丁寧に、死体を整えて、手を合わし、火葬するという事を毎日毎日人知れずに繰り返していた。
ある日、死体の損傷がかなり激しい女の子2人と男の子1人が運び込まれてきた。当然の事ながら、誰だか分からない。しかし、未だかって見た事のないほどの生々しい傷が、非情な残酷な拷問を受けたことを物語っていた。
「これは酷い なんと可哀想に⋯」いくら悪いことをしたとはいえ、こんな子供にこんな事をするなんて⋯きっと神はお許しにならないだろう。
そんな事を考えながら、フナカッタはいつも以上に丁寧に死体を綺麗に整えて、魂が救済されるよう深い祈りを込めて、火葬炉に遺体を納めて、火をつけた。
しばらくすると、火葬炉の扉をトントンと叩く音が聞こえた。
「すいません 開けて貰えませんか? すいません 誰かいませんかー??」
女の子の声だ!フナカッタは心臓が爆発するくらい驚いたが、自分は何事にも動じない男だと思い込んでいたので、全く表情を変えなかった。そして頼まれたので、空気を読んで火葬炉の扉を開けた。
中から、おっとりとした感じの裸の女の子が出て来た。
「ありがとうございます♪♪♪」
彼女はそう言うとフナカッタに軽く会釈をした。それを見てフナカッタは会釈を返した。女の子はそのまま何処かへ消えていった。
フナカッタは自分は無口な男だと思いこんでいたので、飯を食べるのを忘れるほど誰かにこの事を喋りたかったが、誰にも喋らなかった。そもそも、人と会う事もほぼ無いので、この事は誰にも知られることは無かった。