01話 奇跡はきっと起きるよ!
祭り囃しで目を覚ました。蒸し暑い部屋。汗が頬を垂れる。体がだるい。そうか今日は夏祭りか・・・
「ピッ ピッ わっしょい わっしょい ピッ ピッ わっしょい わっしょい ピッ ピッ わっしょい わっしょい ピッ ピッ」
家の前の道を今まさに神輿が通っているようだ。夏祭りは好きだった。夏がくるというだけでワクワクドキドキした。夏休みが来るのが待ち遠しかった。
いつからだろうか夏の暑さが苦痛になったのは・・・
「もうすぐ夏休みか 世間はだけど」
ずいぶん学校には行ってない。ずーっと夏休みである。昨日も朝チュンが聞こえるまでスマホゲームをしてそのまま寝落ちしてしまった。時計を見るとお昼の2時過ぎだ。この時間は母親はパートに行ってるので家には僕しかいない。お腹が空いたので居間に降りてテーブルに置いてある冷めきった朝食を食べることにした。
「味が薄い」
ブツブツと文句を言いながら、ほうれん草のおひたしを食べていると上からヘリコプターのプロペラ音が聞こえてきた。はじめは小さな音だったがどんどんと大きくなる。
「うるさい!うるさい!うるさい!」
爆音が室内に響きわたる。我慢出来ず耳を塞ぐ。その瞬間天井が崩れ落ちてきた。耳を劈く爆裂音。身体が吹き飛ばされる。
「あれ 僕 燃えている?」
なんか現実味を感じない。そう思ったのは一瞬だった。我慢出来ない痛みに容赦なく襲われる。苦しい。死んでしまいたい。死ねない。死ねない。死ねない・・・
どれくらいたったか。痛みが麻痺して頭が逆に冴えてきた。急に死への恐怖を感じ始める。
このまま僕は死ぬのか?
なんとあっけないのだろうか。逃げっぱなしの人生だった。何をやるわけでもなく。すべてを人のせいにして。彼女もできず。家に引きこもって。親を悲しませて。ずっとゲームばかりしていた。
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」
このまま終わりたくない。しかし今さら後悔しても無駄だった。もう僕には明日は来ない。どんなに願ってもどんなに強く望んでも絶対に避けることができないことがある。
それは「死」だ。死は絶対だ。意識が途絶える・・・
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光だ。光が見える。気がつくと雲一つない空のような空間で僕は宙に浮いていた。死後の世界とか信じていなかったけどここは天国だろうか?奇跡ってあるんだな・・・死は絶対ではないんだ。
突然声が響き渡る。
「控えろ 神の御前なるぞ」
女の子の声だ。あたりを見渡す。だが姿は見えない。
「どこを見ておる こちらだ」
下の方から声が聞こえる。そうか。この空間は上下がないんだ。金髪の美少女が宙に浮いている。その後ろには人の形をした巨大なモノが同じように浮いていた。不思議な光景だ。
歴史の教科書に載っているギリシャやローマの彫刻のような見た目だが、とにかくめちゃくちゃデカい。たぶん東京ドームよりデカいんじゃないかな。両手を広げていてまるで十字架にかけられているかのようだ。
神・・・なんだろうか?頭上に何色もの光の輪がありその後方にはさらに巨大な紅い光の柱が十字を描くように走っている。
「控えろと言うておるだろ 跪け」
怖っ。跪けといわれてもどういう風にするのが正確なのだろうか。そもそも宙に浮いているし・・・
土下座?土下座をするべきか?いやそれは嫌だ。
ふと、神を見ると巨大な目でギョロリと睨まれたような気がした。目が紅い。ゾッとする。早くしないと・・・パニクった末に土下座をする。
「大いなる父はお前の声を聞き届けると仰られた 望みを叶えてやろう 己の成したいこと成せ されば道は拓かれん」
光が溢れ僕はまた気を失う・・・
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目を覚ますとそこは草原だった。草の葉が風に揺れている。後ろを振り返ると巨大な塔が聳え立っている。塔は空高くどこまでも伸びていて先が見えない。
ここはどこだろうか?
手には杖が握らされている。とんがり帽子をかぶりいわゆる魔法使いの格好をしている。もしかしたら異世界にやって来たのだろうか?あの女の子?たぶん天使?は望みを叶えてやろうと言っていた。確かに異世界に行きたいという願望はあったけど・・・
「あ!いるいるー!」
「お〜い」
高校生くらいの男女の3人が手を振りながら近づいてきた。男は勇者の格好。女の子は戦士と魔法使いのような格好をしている。
「こんにちは〜♪」
女の子が声をかけてきた。
「・・・こんにちは」
「君も アレ・・・目が覚めたらココにいた感じ?」
今度は男の方が話しかけてきた。僕は極度の人見知りだ。状況が全く把握出来ず強い緊張が走る。
「あ はい」
「落ちついて 俺達は君の味方だ。ここはヴァンヘルニアいわゆる異世界ってやつだよ!君は漫画やアニメみたいに転生したんだ」
マジ!?やっぱりそうなんだ。ボクは異世界にやってきたんだ!
「名前なんていうんですか? ウチはエリカっていいます」
戦士の格好をした女の子に問われる。
「ボクは翼といいます」
「ボクっ娘だ かわいい! よろしくね 翼ちゃん」
エリカが手をだし握手を求めてくる。本当に久しぶりに女の子を触ったわ・・・いや違うそこじゃない。
ボクっ娘?ボクっ娘?って言ったよね!?いや気が付いてはいた。ボクが女の子の格好をしているという事に・・・
「私はみぅです みーちゃんって呼んで下さい。翼さんよろしくお願いしまーす♪」
魔法使いの格好をした巨乳のおっとりとした感じの女の子が挨拶をしてくる。
ボクは体に意識を向ける。胸が僅かだが盛り上がっている。下は・・・ない・・・
女の子!?女の子になったのボク!?
「俺はヒロだ。どうやら翼ちゃん 魔法使いになったみたいだね 実は俺らも1回死んでこの異世界に転生してきたんだ」
「私達 転生者同士で協力し合って生活していまして 翼さんももし良ければウチに来ませんかー? 色々とこっちの世界の事を教えてあげることができますよ♪」
いろいろなことが起こりすぎていて頭が回らない。でも異世界に1人で投げだされた中でこんな事を提案されるなんてボクはツイている。お金だって持ってないわけだし助かった。なんていい人達だ。
「えと それでしたらお願いできますか?」
3人の顔がパッと明るくなる。
「OK!じゃあついてきて 俺らの屋敷に案内するよ」
翼は3人について行くことにした。みうはその様子をチラッとみて少しだけほくそ笑んだ。
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