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九話 悪い話と良い話

この作品は再度掲載になります(※加筆修正をしています)

なろうの別サイトになります⇒https://ncode.syosetu.com/n9450ca/57/

別の話を含めた小説『イノセント クライム』⇒https://novel18.syosetu.com/n9450ca/


加筆修正済み再掲載『願いは遠くに消えて』⇒https://ncode.syosetu.com/n8621er/

 (りゅう)(すけ)が入院して一ヶ月が過ぎていた。私は龍輔の考えている事が分からなくて、あれ以来お見舞いに行ってない。

 連絡もしていない。龍輔からも。(しゅう)からも龍輔の状態について連絡が来なかった。私からすればいいものの、連絡しようとすると手が止まって先延ばしにしてしまう。

 そんな繰り返しが続いた、ある日のことだった。携帯を開くと一通のメールが来ていた。開くと、龍輔からだった。

『忙しいのか? 明日、時間あったなら必ず来てくれ。大事な話がある』

 たったそれだけの文章。

『明日、午前中に行く』

 明日はちょうど休みなのもあり、私はすぐに返信をして携帯を閉じた。

 大事な話ってなんだろう。それだけが頭の中をグルグルと回った。

 嫌な予感しかしないのは、久々に龍輔と連絡を取ったからなのかもしれない。その嫌な予感が違う方向で当たるとは思っていなかった。


 翌日、朝起きるとまた龍輔からメールが来ていた。

『なるべく早めに来てくれ。十時までにはな』

 私はすぐさまに病院に行く準備をした。準備が整うと、掛け時計を見た。針の時刻は八時を指していた。

 ちょっと早いけど、どこかで時間を潰せばいいかな。それから、数分で家を出た。


『龍輔。すーちゃんには本当に言うつもり?』

『言うつもりだ』

『本当に?』

『あいつに連絡を取ったら、来るって言ってたから伝えるつもりだ』

『悲しませるだけはやめてよ』

『そんな事、言われても分かんねえよ』

 私が病室の扉まで辿り着くと、中からそんな会話が聞こえた。やっぱりそうだったんだ。

 私はゆっくりと扉を開ける。その音に反応するように中にいた秀と龍輔が振り向いた。

「すーちゃん」

「おう、来たか」

 龍輔の口から呼吸器は外れていたけれど、鼻の下にチューブをしていた。龍輔の姿に一度は驚いた。まだ呼吸がしづらい状態だということなのかな。本当ならばもう退院しているつもりのはずなのに……。

「大事な話って? もしかして、私と別れろって事でしょ」

 けれど、私はさっきの話を聞いて思った事を口にする。

「ちげえよ。どんな勘違いしてんだよ」

「じゃあ、呼び出したのはどうして? 別れるとか言ってたじゃん」

「いつまで引きずってんだよ。ちげえって言ってんだろ。この状態みれば分かるだろ。コホッコホッ」

 私の言葉に龍輔は否定をし続ける。今の龍輔を見ても分からない。いや、分かりたくないのかもしれない。

「すーちゃん」

「秀、悪い。こいつと二人で話してえから、出てくれねえか。コホッコホッ」

「ごめん。じゃあ治療の時間になったらまた来るよ」

 秀が完全に居なくなると、龍輔と二人きりになった。私たちは久しぶりに顔を合わせる。久々で嬉しいはずなのに、気まずい空気が流れる。

「話ってなに?」

 私はその気まずい空気に耐えれなくなって切り出した。

「聞いて驚くなよ。俺、実は再検査して分かったんだが、肺炎じゃなくて末期の(はい)(がん)らしいんだ。 余命三年あるかないかって秀に言われた」

「肺癌? 嘘でしょ」

 私は言葉を聞いて、すぐに信じる事が出来なくて苦笑いしながら言った。

「嘘じゃねえ。本当は手術って言われたが、腫瘍が大きいらしい。話し合って今日から抗ガン剤治療を行う事になった。効果があるか分からねえけど、」

 だから、さっき秀が治療って言ってたのかな。

「ちょっ、ちょっと待ってよ。どうして、今まで言わなかったの?」

「は? お前、見舞いに来ねえだろ。コホッコホッ」

「来なくてもメールやら電話やら出来るでしょ! それに秀に頼む事も出来たでしょ」

「再検査だとかで、中々出来なかった。出来たとしても、(つら)くて、出来るわけねえし。昨日、やっと、出来たんだ。あいつには頼みたくないな。コホッコホッ」

「…………」

 そう言われると、私は黙ってなにも喋る事が出来なくなった。喋れたとしても、かえって、龍輔に無理をさせてしまうかもしれない。

「悪かったな」

 龍輔が小さく呟いたのが聞こえた。

「いいよ」

「それでだな」

 龍輔は俯き、残念そうな、それとも照れてるような表情を浮かべながら言葉を続けた。

「ん?」

 私は唐突の言葉に声が出る。

「もし病気が治ったら、俺と結婚してくれ。本当は今すぐしたいが、こんな状態になって出来ねえんだ。頼んだら出来るかもしれないが、それはやめとく」

「え? 結婚って今更? でも、龍輔からやっと言ってくれたね。ずっと待ってた」

 突然の龍輔の言葉に私は驚いたけれど、笑いが込み上げてきた。

「だから、それまでの間、病人の俺を助けてくれ」

「偉そうにしないでよ」

 龍輔からの告白に嬉しくて、目から涙が零れていた。私は無意識に目を擦って涙を拭っていた。

「嬉し涙だとしてもさっき泣かせるなと秀から言われたんだが、まあいいか」

 そう言って、龍輔は慰めるように私を抱き締めていた。私も抱き締め返す。私は、この時思っていた。

 時がゆっくりと流れて欲しい、と。

作者のはなさきです。

九話目投稿完了しました。良ければ感想、ブックマーク、アドバイス、評価などよろしくお願いします。

次話更新は5/16(水曜日)の予定です。

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