七話 検査結果報告と新たな発見
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龍輔がトイレと言って病室を出た後、私は病室の前の壁に寄り掛かって本を読んで待つことにした。あれから三十分近くは経ったはずなのに龍輔は戻ってこない。
どうしているんだろう。まさか、また倒れているんじゃないかと不安になる。
「すーちゃん! 壁に寄りかかって本なんか読んでどうしたの?」
暫くすると、秀が外来を終えたのだろうか、私のほうに向かって歩いてきた。
「龍輔がトイレって言って戻って来ないんだけど、」
秀は私の言葉を聞くと、龍輔の病室に入っていった。
「すーちゃん、龍輔はどっちに行ったの?」
病室の中の様子を見た後、驚きのような声を出す秀。
「あっちに行ったよ」
私は龍輔が向かった方向を指差して秀に教える。
「ここトイレ付きの個室だよ。向こうは別の病棟か出口しかないよ。急いで龍輔を探さなきゃ」
そう言って秀は龍輔が行った方向へと慌てて駆け出した。病院で働いていれば気が付く事なのに、個室にはトイレが付いてることなどすっかり忘れてしまっていた。龍輔の行動にも気付かないなんて私が馬鹿だった。
(龍輔、なにやってるのよ。馬鹿)
秀と同様に私もすぐ駆け出して、龍輔を探しに行った。
数分後、龍輔を見つけた。その場所は、病院にある大きな庭だった。よく見ると、男の子と男の子のお母さんらしき女性が一緒にいた。
「さあ、今日はもう病室に戻るわよ」
女性がそう言っていたのを耳にする。
「りゅうすけお兄ちゃん、今日はありがとう! また明日遊んでね」
「おう、じゃあな」
そんな会話が聞こえた。龍輔が男の子と別れて後ろを振り向くと、私に気付いた。
「お、お前。なぜ、ここに居るんだ?」
見られちゃまずい場面に出くわしたようにとても驚いた表情を見せた。
「龍輔こそどうしてここにいるの?」
「どうでもいいだろ、そんなこと。コホッコホッコホッ」
「逃げた」
小さく呟いたけれど、それを無視して龍輔は背を向けて歩き出していた。それよりも私は龍輔が男の子と接していたのを見ると、子どもが好きなんだと初めて知った。今まで子どもは好きじゃないと思っていた。さっきの男の子はいつ、どこで会ったんだろう。
そうこうしているうちに龍輔のあとを追うと、いつの間にか病室に辿り着いていた。龍輔は着くと、ベッドへと真っ先に向かった。
「すーちゃん、龍輔は? あ、」
秀が焦りを見せながら、戻ってきた。焦りも一瞬で龍輔を見ると、安堵の溜め息をついた。
「龍輔、どこに行ってたの? 呼吸器外して病室出ちゃ駄目でしょ」
秀は言う。
「悪いな」
責任を感じていない龍輔の言葉。
「また、すーちゃんに心配掛けちゃ、」
「分かってる」
秀の言葉を遮って龍輔が声を発する。
「あっ、そういえばすーちゃんあのこと龍輔に言った?」
「言ってない」
私は答えると、龍輔を見た。それから、秀を見た。
「お前らなんだよ。俺に隠してることあるのかよ。コホッコホッ」
「違うよ、龍輔の検査の結果だよ。肺炎だって。だから二週間じゃ退院出来ないかもしれない」
私が言おうとしたら、秀が先に切り出した。
「そう、なのか。退院出来ないなら、それでいい。コホッコホッ」
がっかりした様子で龍輔は肩を落としてベッドに横になった。あれ? 怒鳴るほどに嫌がるだろうと思っていたのに。
「重症だから安静にしていることが条件だよ。じゃないと、死ぬよ。冗談じゃないから」
「それでも、いい。コホッコホッコホッ」
意外な言葉に私と秀は顔を見合わせて、唖然とした。私と秀は本当の龍輔なら嫌でも断る性格だと知っている。この状況が不思議に思った。
「コホッコホッ。秀、呼吸、器。コホッ」
龍輔が秀の名前を呼び、外していた手元にない呼吸器を探していた。
「えっ、龍輔?」
聞こえたほうを振り向くと、龍輔が苦しそうにしていた。
「呼吸器外してどこか行っちゃうからだよ。ここだよ」
秀がベッドに横たわっている龍輔を見ると、その近くにあった呼吸器を龍輔に渡した。龍輔は呼吸器をつけると次第に息苦しいのが治まっていったのか落ち着いたみたいだった。
「今度、外してどこかに言ったら、すーちゃんに見張ってもらうからね」
「それだけは勘弁してくれ。頼む」
「なによ、ばーか」
私は頬を膨らませた。秀が笑い出し、それにつられて龍輔も笑いだした。いつの間にか病室内は私たちの笑いで溢れた。
笑えるのは今だけだとも知らずに。
作者のはなさきです。
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次話更新は5/9(水曜日)の予定です。