五話 我慢の限界に
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それから数週間が経った。相変わらず、龍輔は大量の市販の薬だけで咳を留めようとしていた。最近ではどこか痛いのか痛み留めを何種類か増やしている。
そんな時だった。仕事の途中に一件の電話が掛かってきた。
「はい、もしもし」
「すーちゃん、今すぐ僕の病院に来て! 龍輔が運ばれてきて。とにかく早く来て!」
そこで電話は切れた。幼馴染みの秀からだった。
それより、龍輔が? そんなまさか……。
けれど、秀の声は妙に焦っているように聞こえた。嘘だと信じたい。私は直ぐに龍輔が運ばれた病院へと向かいたかった。それも叶わず。なぜなら、今は仕事中だったから。
そこで、上の人に頼んでみる事にした。
「あの、すみません。大事な用事があって今すぐ早退したいんですが」
「困るわ」
予想通りの返事が返ってきた。答えは最初から分かっていた。仕事は仕事。でも、龍輔の事も心配だし。
そんな複雑な気持ちでは仕事に集中出来ない。それでも何とか仕事をこなそうとした、その時だった。
「なにか理由があるのよね。早退いいわよ」
婦長さんだった。
「婦長、なにを言ってるんですか!」
側にいた私の先輩が慌てた様子でそう言う。
「いいじゃないの」
「ありがとうございます」
私は頭を下げて御礼を言った後、更衣室で着替えて急いで秀の病院へと向かった。
秀の病院に辿り着くと、秀が待っていた。
「龍輔は?」
「こっち」
秀がそう言うと、私はある個室に案内された。
案内された場所は表に『三〇三号室 石渡 龍輔』と書かれた札があった病室だった。不安な気持ちで扉を開ける。予想外の事態を目の当たりにするかと思っていた。
「なぜ、お前が来るんだ。仕事の筈だろ」
ベッドに身体を起こした状態の龍輔が部屋に入ってくる私を見て怒鳴りつけるように言った。案外、元気そうに見えたけれど、龍輔の口元には呼吸器が装着されていた。
「え、秀から龍輔が運ばれてきたって聞いて、」
「あいつかよ。いいから、来るんじゃねえ。今すぐ仕事に戻れ」
折角来たのに龍輔の言葉が心に鋭く刺さった。
「龍輔、それは無いんじゃない? 心配して来てくれたんだよ」
私の後ろで秀の声が聞こえてきた。
「勝手に、呼ぶなよ。俺は、この通り、大丈夫だ。明日、退院するからな」
龍輔は装着されていた呼吸器を外して平気だという事を見せた。私にはそれが無理してるって分かってるのに。
私は無表情で龍輔の側まで近づいて手を挙げる。
「すーちゃん?」
次の瞬間だった。部屋に音が響いた。気が付けば、私は龍輔の頬を平手打ちで叩いていた。
「痛えな。なにすんだよ」
龍輔は赤くなった頬を触りながら、私を睨みつけてきた。
「あのね、私がどれだけ心配したと思っているの! いつも無理してばかり。ちゃんと病院で診てもらうまでの間、入院だから。頑固な龍輔野郎」
正直、我慢の限界だった。これ以上龍輔を放って置けないと思った。
次の言葉を静かに待っていたけれど、数秒間の沈黙が流れた。平手打ちなんて、やりすぎたかな。そう思っている最中、唐突に龍輔が口を開いた。
「分かった、悪かったな」
「分かればよろしい」
私は上から目線で言ってやった。すると、また睨まれた。
「そうなると、検査入院で一週間から二週間くらいだね。覚悟しといてね、龍輔」
秀が笑顔を浮かべながら言った。私には秀の笑顔に恐怖を覚えた。
「は? そんなに入院しなきゃならないのかよ。こんな退屈なところにそんなに居られねえよ」
「我慢するしかないよ。龍輔が寂しくないように毎日お見舞い行くから」
「来なくていい」
即答だった。
「なにか言った?」
わざと聞こえていないふりをした。
「な、なんでもねえ」
龍輔は今さっき私に平手打ちをされた事を思い出したのか、少しばかり怯えているような姿が私の目に映った。
「すーちゃん、ちょっと」
不意に秀に手招きされて、退室した。
「秀、鈴香に余計な事すんなよ。コホッコホッ」
退室する際に、背後で龍輔がそう言った。
「するわけないよ。呼吸器は付けといてね」
秀は冷静に答えていた。
そして、退室した後に少し離れた場所で秀は立ち止まった。第一声の言葉を口にする。
「ねえ、すーちゃん。龍輔の事だけど、呼吸困難の後に意識を失って運ばれたけど、最近変だと感じた事はなかった?」
呼吸困難? 意識を失った? 私はその言葉に衝撃を受けた。
本当は予想していたのかもしれない。
作者のはなさきです。
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次話更新は5/2(水曜日)の予定です。