四話 続く咳と意地
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それから二、三ヶ月が過ぎた。龍輔の風邪も治った、と言いたいところだけど、一度は留まった咳がまた出始めていた。
「コホッコホッ」
数十秒に一回は咳をしている。辛くは無さそうに見えるのに私はつい心配してしまう。
「龍輔、また病院に行こう。風邪じゃない気がする」
「大丈夫だ、コホッ。でも、咳留めは欲しいな。
「なら、今行こう。準備して」
「は? 今かよ⁉︎」
「私、夜勤だから今しかないよ」
こう言えば、必ず龍輔は私と行くと思っていた。しかし、予想外の言葉が返ってきた。
「悪い。明日一人で行くことにする」
「どうして。今行かないと!」
私は内心悔しかったけれど、緩まず強気で言う。
「うるせえな、タイミングがあるだろ。コホッコホッ」
言葉を残して、龍輔はどこかに行ってしまった。行かないでと思っているのに、龍輔はお構いなく一人で行ってしまう。私は少しばかり期待していたけれど、それは意味のない事だとも心の中で思っていた。
暫くして、龍輔は手になにか入った袋を持って戻ってきた。
「病院、行って来たの?」
私は尋ねる。
「ああ、」
嘘をついている分かりやすい相槌だった。
「袋の中、見せて?」
龍輔は私に向かって袋を投げるように渡してきた。突然渡すものだから、落としそうにはなったものの上手く掴むことが出来た。
袋の中を見ると、市販の咳留めの薬とペットボトルの水が一本だけが入っていた。私の予想通り、病院には行っていなかった。
「病院行かなかったんだね。どうして?」
「行かなくても咳さえ止まればいいと思ったからだ。だから心配すんな」
「あー、そう。なにかあってからじゃ遅いんだから」
私はその場を離れた。
そう、なにかあってからじゃ遅い。でも、その一方で心配し過ぎなのかなとさえも思っていた。いつの間にか時間が過ぎていき、私は夜勤へと出発した。
夜勤から帰宅すると、龍輔は寝ていた。それもそう、夜勤に向かう時は外が暗かったけど、帰ってくる頃にはすっかり日が昇っていた。おかげで途中に日の出を見れた。
それから数ヶ月後の事だった。まだ、龍輔の咳は続いていた。それに時々、なにかに耐えるように歪んだ顔をする。
「どうしたの?」と聞いても、
「なにもねえよ。大丈夫だ」と返事が返ってくるだけ。私には言えない何かを隠しているような、そんな気がした。
そんなある日、私は見てしまった。部屋のテーブルに置かれている袋の中身。たくさんの市販の薬やマスク。病院に行かないでこんなに買い込んで、一体どうしてしまったんだろう。
すると、部屋の入り口から龍輔が現れた。私は龍輔が現れた事に直ぐに気が付いてテーブルに置かれた袋と龍輔を交互に黙ってみていた。
「な、なんだよ」
慌てている龍輔。
「なに、この薬。病院に行かなきゃ駄目だよ」
「行く余裕なんてねえんだよ」
私は龍輔の言葉に呆れた。本当は行きたくないからだ。
「行きたくないなら、秀呼ぶよ?」
「呼ぶなよ。つか、そんな事したらあいつの仕事の邪魔だろ。やめろ。コホッコホッ」
どこか必死になっている龍輔を見ていると、なんだかにやけてしまった。けれど、にやける一方で心配してしまう。龍輔は一向に病院に行く気配はない。
意地を張って私の言葉を聞かせても無理。だからといって、無理に行かせるのも……。どうやっても病院に行かせる事は出来ない。
ここは諦めていつか自分で行くのを待つしかないと思った。それが後悔する事になるとは今の私は知らなかった。
作者のはなさきです。
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次話更新は4/29(日曜日)の予定です。