最終話 願いは遠くに消えて
この作品は再度掲載になります(※加筆修正をしています)
色々加筆修正してますが、言い換えやある日付を修正しました。
【日付:2/15 14:37⇒6/15 9:00】
そして、最終話を迎えました。良ければ、最後まで読んで頂けると幸いです。
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それからあっという間に五日、十日、一週間、一ヶ月と月日が経っていた。
それは突然の事だった。いや、本当はいつ起きていても、おかしくなかったはず。最近、龍輔の様子がおかしかったからかもしれない。
「龍輔、起きて」
私は朝一に龍輔の病室を訪れて、目を瞑って寝ているであろう龍輔に声を掛けた。
「…………」
いつもなら私の呼び掛けに目を覚ますのだけれど、今日は数十秒たっても起きてこないし、反応がなかった。
「龍輔、龍輔!」
何度、呼びかけても反応がなかった。ただ寝ているだけだろうと思っている反面もしかしたら良からぬ事が起きているのではと不安が押し寄せてきた。
「すーちゃん、どうしたの?」
病室に秀が入ってきて私の様子を見て不思議そうに問い掛けてきた。
「龍輔が起きない。ただ寝ているだけかもしれないけど、もし何かあったらどうしよう」
「え?」
秀は私の言葉を聞くと、龍輔に駆け寄って様子を伺うと、診察をし始めた。
「呼吸が止まっている。すーちゃん誰か呼んできて!」
慌てた様子を見せた秀が私に向かって指示を出した。
「そんな、」
私は呟いて、動けずに固まってしまった。頭では分かってはいるのに、混乱で身体が動かない。秀が私のほうをチラッと見た。
「すーちゃん、なにしてるの。このままだと龍輔が死んじゃうよ。そんなの嫌でしょ。早く!」
懸命に処置をし、大声で怒鳴りつけるように叫んだ。この時、私と秀はナースコールのことなど忘れていた。私は我に返って直ぐさま病室を出て駆け出した。
あの龍輔が死ぬなんて嫌だ。私の我侭になってしまうかもしれないけれど、お願い、死なないで、龍輔。
私はナースステーションに着くと、器具を準備し、数人の看護師に声を掛けて病室に戻った。患者一人に対して数名で対応するのもと思っていたけれど、呼吸が止まってどのくらい時間が経っているのか分からなかった。それほど深刻な状態なんだと思い知らされた。
私も何か手伝おうとした。けれど、準備は出来てもその場に立つと、何も出来ずに他の看護師に追い出されてしまった。廊下で暫く待つことになった。
暫くすると、病室から数人の医師や看護師達が出てきた。そこに秀もいた。
「すーちゃん」
秀は廊下にいた私を見つけると、元気なさそうな表情をしていて俯いていた。私は急いで病室へと入っていた。
そんなまさか、龍輔は……。病室に入ると、龍輔は人工呼吸器を付けられ、管が繋がれていた。龍輔の命はなんとか助かったんだ。私は一先ずホッと安心した。
それも一瞬の事だった。
「すーちゃん。龍輔の命は助かったように見えるけど、実は龍輔の肺はかなり弱っていて、自発呼吸が出来ていない状態なんだ。もしかしたら、その、もう、」
「…………」
秀は途中、何かを言いかけていたような気がする。何をいいかけていたのか聞きたかったのに、私は衝撃のあまり、どんな言葉を口にすればいいか分からなかった。
龍輔の意識はもう戻らないかもしれないという事実にすぐには受け入れることが出来なかった。
「すーちゃん。すぐにはじゃないけど、龍輔自身はもしもの事があったら、なにもしないでくれ。何かしたら、管を全部外してくれって言ってた。その意味、分かるよね。龍輔の親にも聞いてみるけど最悪、」
「……」
私は秀の言葉を最後まで聞く前に無言のまま病室を飛び出した。聞きたくない、龍輔が死ぬなんてこと。
私は今後のことを考えた。龍輔ともう一生過ごすことが出来なくなる。そう思うと悔しくて、どうすることも出来ない未来しか想像出来なかった。
それから、二週間が経とうとしていた。残念だけれど、龍輔の目は覚めないままだった。
「本当に、いいんですね?」
「はい、大丈夫です。あの子を楽にしてあげてください」
「分かりました。それじゃ、外します」
「はい」
龍輔の親と秀が会話しているのを私は黙って聞いていた。本当は目が覚めるまで待ちたいという自分の思いを隠すように。
「六月十五日。時刻、午前九時、」
それしか耳に残らず、後の事は耳を通り過ぎていった。
「すーちゃんのせいじゃないよ」
「分かってる。だけどあの時、気付いてれば、もっと早く病院に行かせていればって思うと、」
「龍輔はそんなこと思って欲しくないと思うよ。実は、すーちゃんには言うなって言われてたんだけど、龍輔の肺の腫瘍は脳に転移してたんだ。ほら、言葉や手を動かすのおかしかったでしょ。可能性は有ると分かっていたんだけど、検査をしてみないとってなって。だから、あの状態はいつ来てもおかしくなかった。もしかしたら、呼吸が止まっていたのには脳にも異常があったのかもしれない。だから、すーちゃんは悪くないよ」
「でも、」
「すーちゃん、龍輔は俺の分まで生きろって思ってるよ、きっと。だから、落ち込んでると龍輔が怒ると思うよ」
秀にそう言われても、どうにも前を向けない私がいた。だって本当は、龍輔と一緒に願いを叶えるはずだった。ずっと一緒にって。
私、私たちの願いは遠くに消えてしまった。私の手遅れが原因で恋人を殺してしまったんだ。絶対、龍輔が許すはずがない。
ごめんね、龍輔。こんな私がいつか幸せになる日が来るのかな。私は涙を流しながら、雲一つない青空を見上げた。
願いは遠くに消えて -end-
作者のはなさきです。
最終話【十六話】投稿完了しました。
『願いは遠くに消えて』を読んでいただきありがとうございました。
まだ連載中の『忘却の中で』を読んでいただけると嬉しいです。
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