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十五話 火花散る2人に

この作品は再度掲載になります(※加筆修正をしています)

色々加筆修正してますが、今回は特に加筆多めです。

抗がん剤治療をこの回で終了に修正しました。

突然ですが、次回で最終話です。(前掲載が16話で終わりのため)


なろうの別サイトになります⇒https://ncode.syosetu.com/n9450ca/63/

別の話を含めた小説『イノセント クライム』⇒https://novel18.syosetu.com/n9450ca/


加筆修正済み再掲載『願いは遠くに消えて』⇒https://ncode.syosetu.com/n8621er/

 突然、扉を叩く音が聞こえた。

「二人とも、こんなところで抱き合うなんてラブラブだね。あはは」

 私と(りゅう)(すけ)が扉の音に応えようとする前に、病室の扉を開けて平然と中に入ってきた(しゅう)。秀は私たちを見て苦笑いしたと思ったら、遠い目をして蔑むように言った。

「チッ」

 不意に舌打ちするのが聞こえた。舌打ちがしたほうを振り向くと、龍輔が苛立ったような表情をしていた。龍輔は私から離れてベッドに横になった。

 龍輔と秀は目を合わせていないのに、なぜか二人の間には、見えない静かな火花が散っているみたいだった。

「二人とも!」

私はその空気に耐えれなくなって声を上げた。

「なんだ?」

「どうしたの、すーちゃん?」

 二人は私の声に直ぐに反応した。それもほぼ同時だった。

「おい、秀。なぜ今も、まだ、(すず)()を、そう呼ぶんだよ。鈴香は、渾名で、呼んでいないだろ。今すぐに、やめろ」

「どうして今更の事を? 今すぐになんて変えれないよ」

「言わなくても分かるだろ」

 二人が啀み合ったように会話をしている。私はそんな二人に呆れてため息を漏らし、病室を出ていこうとした。その瞬間だった。

「おい、どこ行くんだよ」

「どこ行くの、すーちゃん」

 私を引き止めるように二人は直ぐに反応した。それが私には重なるように聞こえた。

「ごめん。この後、仕事なんだ」

 振り返らず背中を向けたまま言うと、扉を開けてやっと退出した。この後に仕事なんて嘘だった。

 本当は今まで見たこともない幼馴染みの二人が少し怖かっただけ。廊下を少し歩いた後、誰かいると思い、後ろを振り向いた。けど、誰もいなかった。

 振り向いたのにはきっと誰かいて欲しいと心のどこかで思っていたからだと私は歩き出した。そうして、私はそのまま家に向かった。


 それから、ある事情で忙しく、龍輔のお見舞いに行けなくなって、気付けば五日が経っていた。その忙しさも昨日でようやく終わったところ。

「鈴香さん、今日までありがとうね。向こうの病院でも頑張ってね」

「はい、今までお世話になりました」

「なに言ってるんですか、先輩。自分の事しか考えられない人は無視して行かせるべきですよ」

「そんな事言っちゃ駄目よ。次、働く病院に彼がいるのよね。あまり無理しないでね」

 私の言葉に同僚は悪いように言ったけれど、先輩はそれを否定した。私は悪いように言われた言葉よりも先輩の言葉が気になった。

「なぜ、それを」

「婦長が鈴香さんと同じくらいの男の人と話しているのを聞いたわ」

「え、それって」

 私はそのことを知ると思わず声を出してしまった。男の人と聞いて私はその人が秀だと思った。

「どうしたの、浮かない顔をして。さあ、最後のひと仕事頑張ってちょうだい」

「は、はい!」

 そうして、数時間経った後、私は最後の職場を去った。


 翌日、私はある病院で簡単な自己紹介をして、ある人と一緒にあの場所へ向かった。そう、ある病院とは秀が働いている病院だった。そこには、龍輔も入院している。私は自己紹介を終えて数分もしないうちに、病室の前に着いた。秀も一緒に。

「すーちゃんはここで待ってって、」

 秀が私に向かって言うと、目の前の病室の中へと入っていった。

『龍輔、気分はどう?』

『お、おう。今のところ、大丈夫だ』

 たったそれだけの会話を聞いた後、直ぐにその言葉が聞こえた。

『今日から担当看護が変わるから、今呼ぶね』

『……』

『入ってきていいよ』

 秀が廊下に立って待っていた私に手招きをした。それに応えるように私は病室の中へと入った。

「よろしくね」

 龍輔に向かって優しく微笑んだ。

「ちょっと、待て。どうして、お前が、ここに、居るんだよ」

 突然の事に龍輔は驚いた表情をして、息苦しいのか話しにくそうに言葉を発した。それに今までより声が掠れていた。

 そういえば、私が二人から逃げるように病室を去ったあの後に抗ガン剤治療をやめたと聞いた。治療していても何も変化が無かったらしい。残ったのはあまりに残酷な運命だった。

 もしかして、この声の掠れも癌が徐々に進行しているせいなのかな? 私は龍輔の容態の変化を見逃す事が出来なかった。

「すーちゃんが仕事としてお世話に来たくらいでそんなに驚くこと無いよ。これで頼れるでしょ」

 龍輔の様子を落ち着かせようと秀が笑顔で言った。

「秀、お前、知ってた、のか。コホッコホッ」

「だって、教えたら反対するの分かってるからさ」

「余計な、事、しやがって。コホッ」

「龍輔、ごめん」

「お前は、謝る事、ねえよ」

「でも、私が決めた事だし」

「…………」

 龍輔は私の言葉に黙ってしまい、一度私を見つめた後、呆れた顔をして布団を被って横になった。それから、数時間ほど病院で龍輔の看護を終えたあと家に帰った。

 最初はほとんど側にいて様子を伺ったり、部屋を出る時の援助くらいしか出来なかったけれど、それでも龍輔は嫌がらずに私を頼った。

 龍輔が入院している病院に勤めていれば、龍輔とはこれからずっと一緒に居れる。それは、私の単なる我侭でそんなことをさせまいとするかのように、現実を突きつけられることになるとはこの時は思っていなかった。

作者のはなさきです。

十五話目投稿完了しました。

良ければ感想、ブックマーク、アドバイス、評価などよろしくお願いします。

次話更新は6/6(水曜日)【最終話】の予定です。

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