十四話 プレゼント
この作品は再度掲載になります(※加筆修正をしています)
✩色々加筆修正してますが、今回は特にニット帽を渡した年月を修正しました。
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私は感情的になってしまって、龍輔をベッドに押しやった。龍輔が病人だという事を忘れていた。
「ごめん」
私は謝ったけれど、龍輔は背を向けて黙っているだけだった。
「…………」
私達の間に沈黙が流れる。
「龍輔大丈夫? 用事があるからすーちゃんに頼むよ」
沈黙を破ったのは秀だった。秀は龍輔に言うと、私の顔を見て『頼んだよ』と合図をするような表情をし、病室を出て行ってしまった。
取り残された私は龍輔と二人きりになった。二人で話せる機会が出来たのに龍輔はベッドで横になっている。
「龍輔、大丈夫?」
私は横になっている龍輔に声をかけてみた。返事はない。
「ねえ、私も行くよ」
病室の扉を開け、退室しようとした時だった。
「待て、ここに、居ろ」
私は振り向くと、龍輔が辛そうな顔で私を見つめていた。
「ごめん、私も用事があるから」
それでも、私は扉を開けて病室を出ていこうとする。不意に後ろから物音がした。気になって私は音のした方へと振り向いた。龍輔がベッドから起き上がっていた。上手く立ち上がれなかったのか床に倒れていた。
「龍輔!」
私は心配になって龍輔の元へと駆け寄った。次の瞬間、龍輔は私の腕を掴んだ。
「帰る、なよ」
そう言われた後、私はあまりにも驚いて固まってしまった。そんな龍輔を見るのは、つい最近見たけれど、普段はあまり見ない一面だった。
いつもは「帰れ」と追い返される始末。でも、それは強がった性格だと私には分かる。それが普通の龍輔。いつもと違う龍輔の言葉に違和感を覚えた。もしかして何かあったのかな。
「分かった、もう少しいるよ。だから、離して」
私が言うと、龍輔は黙って私の腕から手を離した。再びベッドに横になった。
その後、私が声を掛けても龍輔は黙っていた。暫く沈黙が続き、数分間があっという間に過ぎた。結局 、一時間後に私は病院を出てそのまま家に帰った。
翌日、私は寄り道をして病院に行くことにした。あるものを買って龍輔に渡すために。
病院に辿り着くと、いつも通りに龍輔がベッドにいた。今日は秀は来ていなかった。
「久々だな。なぜ、来た?」
まだフードを被っていた龍輔は私が病室に入ってくるのを見ると、溜め息を零した後、言葉を発した。
「来ちゃいけなかったの? 私、帰る」
私はわざと背を向けた。扉を開けて出ていこうとした。
「待て、よ」
龍輔の声を聞くと、私はどこか安心した気持ちになって振り向き、龍輔に向かってあるものが入った袋を投げて渡した。
「お、おい。なんだよ」
突然、投げたせいか龍輔は慌てだした。それから、袋を上手くキャッチし不思議な顔をした。
「危ねえじゃねえかよ。これ、なんだよ」
「開けてみれば分かるよ」
「まさか、お前はいったい何を考えてんだよ。俺を殺すつもりか」
殺すとは人聞きが悪い。何かを疑うように私を睨みつけつつも袋の中身を確認する龍輔。
私は龍輔が袋の中身を開ける様子を見ていた。気に入ってくれるかな。不安げになりながら私は待っていた。
中から出てきたのは、龍輔が好きな色のダーク系の赤色のニット帽だった。今は五月とこれから暑くなる季節。
けれど、病院内は天気がいい日は日光で日差しが当たり、暖かいがさほど暑くはならない。なぜなら、適度な温度で病院内は保たれている。だから、脱げにくいニット帽でもいいかなと思った。
「どう、かな?」
私は恐る恐る龍輔に聞いた。龍輔はニット帽と私を交互に見た後、被っているフードを脱いで素早くニット帽を被った。
「ありがとな」
私に微笑みかけて優しそうな声で言った。気に入ってもらった。私はホッと安心して龍輔に微笑み返す。
突然、龍輔が私に手招きをした。私がそれに反応して近づくと、龍輔は一度私を強く抱き締めた。次の瞬間だった。
「お前ってやっぱいい奴だな。愛してる」
龍輔が『好き』ではなく、『愛してる』という言葉を私の耳元で囁くと、不意に私の頬に何かが触れた。それは龍輔の唇だった。龍輔の行動に私はドキッとした。
「私も愛してる」
私はそっと抱き締め返した。
作者のはなさきです。
十四話目投稿完了しました。
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次話更新は6/3(日曜日)の予定です。




