十一話 強がりと怒り
この作品は再度掲載になります(※加筆修正をしています)
もしかしたら、見直しでおかしな部分に気付き今後大幅に修正するかもしれません。
ご了承ください。今回は"トイレに行く"を"売店に行く"と修正しています。
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『大丈夫?』
『最近、気分悪いんだが、治るのか? 俺の病気。コホッ』
『気分悪いのは抗ガン剤の副作用のせいだよ』
『これじゃ、鈴香に合わせる顔がないな……。来ないようにさせねえと、』
『そんなこと、言うもんじゃないよ。今はすーちゃんを頼りにするべきだよ』
『迷惑掛けるだろ。それに心配もな』
『そう言ってたら、またすーちゃんに嫌われるよ』
『んな事ねえだろ』
そんな会話が扉の向こうの病室から聞こえてきた。龍輔は私のことを思ってか、この間私の前であんなに我慢していて、私が居なくなった瞬間、苦しそうに吐くようにしていたのかな。
やっぱり、私が思っているように強がりだよ。本当、バカ龍輔。
私は扉を開ける。病室に入る私を龍輔と秀が驚いた表情で見ていた。
「さっきの会話、聞いてたのか?」
「さっきって何のこと話してたの?」
二人に私は聞こえてないつもりでそう答えた。
「知らないならいいんだ」
少し安心したように龍輔はホッと胸を撫で下ろしていた。龍輔の様子に私はちょっぴりがっかりした。
「なに、気になるじゃん。何を話してたの?」
「龍輔が無理してるって」
「なんでもねえよ。秀、余計な事を言うな。コホッ」
秀が私の問い掛けに答えてくれてたのに、それを遮って言葉を覆い被さるように話した龍輔。弱い部分を隠そうとしている。なぜ、隠そうとするのだろう。
「龍輔の馬鹿!」
私は唐突に声を上げる。
「なんだよ」
私の声に怒鳴りも驚きもせず、溜め息交じりに龍輔はそう呟く。
「そうだ。悪い、ちょっと売店に行ってくる。コホッ」
突然、立ち上がって売店に向かおうとする龍輔だけれど、足元がふらついているようにみえた。
私は龍輔の元に駆け寄って手を貸そうとした。しかし、龍輔はそんな私を無視し、体制を立て直し病室を出て行った。
「あ、またあの男の子に会いに行くんじゃ!」
私は思い出したように言ったけれど、同じ病室に居た秀が私を引きとめようと肩を軽く叩いて首を横に振った。
「もう大丈夫だよ。龍輔は本当に売店に行ったんだと思うよ。売店には行ってもいいって許可を取ってるから。気になるなら、龍輔を追いかけてみるといいよ。怒られると思うけどね」
秀はとても冷静だけども苦笑いをしていた。秀がそう言うのなら、大丈夫なのかな?
でも、もし、男の子と遊びに行ってたら体調が悪くなるだろう。
「秀、ごめん。私、龍輔のところに」
「分かった。僕はちょっと外来に行ってくるね。ちょうど、交代の時間だし」
私と秀は龍輔の病室を後にした。
売店の前まで来ると、私は壁に寄り掛かって中から龍輔が出てくるのを待った。周りからみると、不自然な気もするけど、それでも中に居る龍輔を見つけると無理に声を掛けるのは悪い気がして待ってみることにした。
数分後、売店の中から龍輔が出てきた。
「は? なぜ、ここにお前が居るんだよ」
龍輔は私を見ると、驚いた表情をし、怒鳴るように言った。
「龍輔が心配だったから」小さな声で呟く。
「心配するな」
予想通りの言葉が返ってきた。その言葉から強がりだと私には分かる。
「もっと、頼ってもいいのに」
続けて呟くと、龍輔は不思議な表情を見せて一瞬固まったかと思えば、苦笑いしながら口を開く。
「秀と同じ事を言うんだな。頼りにしなくて悪かったな」
龍輔はそう言っていたけれど、私には言っている意味が分からなかった。
「まあいい、一緒に戻るぞ」
「うん」
「どうしたんだ?」
「よく病室にいるなって思って。あの男の子に会いに行かないの?」
「…………」
私が男の子のことを口に出すと、龍輔が急に黙ってしまった。数秒間、無言が続く。そのまま私たちは病室に向かって歩く。唐突に龍輔が立ち止まった。
「帰れ! 今すぐ帰れ」
低い声で怒鳴った。
「どうして」
「もう、お前に話すことねえ」
どうやら怒らせてしまった。
「二度と俺に会いに来るな。じゃあな」
そう言って龍輔は立ち去ってしまった。私は分からないまま、数分間その場に立ち竦んでいた。
作者のはなさきです。
十一話目投稿完了しました。良ければ感想、ブックマーク、アドバイス、評価などよろしくお願いします。
次話更新は5/23(水曜日)の予定です。




