十話 副作用の始まりと涙
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突然、病室の扉が開く音がした。
「龍輔」
「秀、悪いな。もう少しこいつと話す時間をくれ」
「わかっ、」
「あ、ごめん。私、また来るね」
私は秀の言葉を遮り、背を向けて早々と病室を出て行った。
「ちょっと待て」
龍輔の大きな呼び声に気にも止めず、背を向けたまま歩き出す。
「待てって言ってるだろ」
後ろから再び声が聞こえ、不意に手首を掴まれる。
「なによ。ちゃんと治療は時間通りに始めなさいよ」
「時間は延ばしてもいいって秀から許可もらっただろ」
「いつ許可もらったの? 覚えがないけど。また来るから、早く治せバーカ」
私は恍けて、龍輔に向かって言った言葉が棒読みになってしまう。そして、掴まれた手を振り払いその場を去った。
廊下を歩いている最中、思う事があった。龍輔が末期の癌? 嘘に決まってる。体の強い龍輔がなるわけがないと思っていた。でも、龍輔のお父さんがそうだったように、もしかしたらと嫌な予感はしていた。
これから先、龍輔のために何が出来るのだろう。私は気分が沈んだまま帰っていった。
数日後、私は龍輔のお見舞いに行った。そんなに日が経ってるわけでもないのに、なぜか久々にお見舞いに行く感じがした。
病室の扉を開けて入ると、龍輔がベッドの備え付けテーブルに顔を埋めていて、なんだか様子がおかしかった。
「龍輔」と私は声を掛けてみたけど、龍輔からの反応がない。側に寄って、もう一度声を掛けてみる。
「龍輔」また反応がなかった。
「龍輔!」
すると、ようやく三回目の呼び掛けに答えた龍輔は顔を上げて私のほうを向いた。
「どうした?」
不思議そうにそう問い掛けた龍輔の顔を見ると、体調が悪そうに見えた。顔色がいつもより良くない。
「どうしたのはこっちの台詞だよ。体調大丈夫?」
「大丈夫だ」答えるも、また顔を埋めてしまった。『大丈夫』と答えた龍輔は言葉とは裏腹にとても具合が悪そうな感じがして、私は心配になった。
「とても大丈夫に見えないんだけど、」
「…………」
龍輔は黙っていた。私は何も出来ず、龍輔の様子を伺うばかり。
そうして、数分だけ過ごして私が病室から出て扉を閉める。引き留めようとしない龍輔に違和感を感じた。
「おえっ」
中から嘔吐する声が聞こえた。きっと、私の前では無理をしていたんだ。私は病室には戻らず、スタスタと廊下を歩き出した。廊下を歩いていると、すれ違いに秀に会った。
「すーちゃん! ちょうど来てたんだね。帰るところ?」
私は無言のまま、秀を見る。
「どうしたの? また龍輔と喧嘩でもしたの?」
秀は私の様子に何かを察したのか問いかけてきた。
「喧嘩、してないよ。秀、龍輔の病状聞かせて」
「んー、ここじゃ話しにくいから、僕についてきて」
秀は本当の事を言おうか言うまいか、とても困ったような仕草をして唸った。だけど、手招きし私についてくるように言った。
数分後、着いた場所はある一室だった。狭い空間だったけれど、詳しく聞くには悪くない場所。
「龍輔の病状の事だけど、龍輔から聞いたよね? 肺癌だって事、」
「うん、」
「龍輔の場合、進行が早くて抗ガン剤で治るか分からないんだ。おそらくあと一年半あるかも分からない。けど、色々ある中の治療で抗ガン剤治療をしたいって龍輔の希望で進めてる。限界はあるだろうけど、すーちゃんのために頑張るって」
「え、ちょっと待って。龍輔が言うには三年あるか分からないって」
「それは……」
秀は口篭もり黙ってしまった。
「嘘ついたの? 龍輔はどうなるの?」
「……」
私の疑問にまだ黙っている秀。私の目からは自然と涙が零れた。
「すーちゃん?」
「ごめん」
「すーちゃんが謝る事ないよ。ほら、おじさんもそうだったでしょ。龍輔、煙草は吸わないって言ってたし、遺伝性の癌だと思うんだ」
だからって、どうして龍輔が……。それから、私は部屋を出て、病院の施設内を歩いてから病院を後にした。龍輔のところには行けなかったけれど、それでも気を紛らわすために庭に出ると、気分が晴れた気持ちになれたような気がした。
作者のはなさきです。
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次話更新は5/20(日曜日)の予定です




