一話 休日の看病
設定ミスをしてしまった『イノセント クライム』第五章『嘆き』からのお話です
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誰でも読める為に週2回(日曜日、水曜日更新予定)更新しようかと思っています。
この物語の今後が合併作品『出会う奇跡に咲く道に』【https://ncode.syosetu.com/n8284db/】
私はあの時……彼を……婚約者を殺してしまった。
あの時もっと早く病院に行かせていれば、きっと彼はもっと長く生きれたかもしれない。
そう思うと、悔やむばかりで悲しい思いになってしまう。
「……ちゃん。すーちゃん」
ふと、声がした。私は頭をあげると、隣に私と私の婚約者である龍輔の幼馴染みの秀がいた。
目の前には私の婚約者だった人、石渡龍輔という名前が小さく彫られていて、その他の名が彫られた墓石があった。
その側には石渡家の大きな墓があった。私達は彼のお墓参りにきていた。
「ごめん、また泣いてしまって……」
私は目から零れていた涙を拭って、隣にいた秀に謝った。
「大丈夫? 辛いと思うけど、龍輔を殺したのはすーちゃんじゃない。誰も悪くないよ」
私は小さく頷き、目の前の墓石を見た。そして、青く澄んだ空を見上げた。
私は看護師でありながら、どうして最愛の人の命を救ってやれなかったのだろう。
三年前、私と龍輔は付き合って一年と七ヶ月少しになる時だった。季節は太陽の日差しが暑く照りつける八月。気温は高くて三十度を超す時もあった。
私も龍輔も休日だった日の事だった。私と龍輔は結婚はしていないものの同居はしていた。
休日だったのにも関わらず、この日は部屋で一緒に過ごす事にした。
本当は何処かに一緒に外に出掛けるのが楽しく過ごせるだろうけど、龍輔がゆっくり室内で休みたいと言っていたのでその通りにした。
そんな龍輔と並んでソファに座っていると、龍輔が咳き込んでいた。私は彼の咳き込む姿を見て思った。
「どうしたの? 夏風邪?」問い掛ける。
「かもしれないな。ゴホッゴホッ」
いっそう辛そうに咳き込む姿を見て、私は心配になった。
「病院に行ってきたら?」私はそう声を掛けた。
「大丈夫だ。寝てれば、治るだろ」
けれど、龍輔はそう言って寝床についてしまった。
(もう、素直に行けばいいのに)
私は、むすっと頬を脹らませて知らん顔をした。
数時間後、彼が起きてきた。
「ゴホッ、水をくれ。ゴホッゴホッ」
寝て安静していれば、咳は治まるのだと思うのだけれど、龍輔の咳は止まっていなかった。寧ろ、もっと辛そうにしている。
「水をくれ。ゴホッ。早くしろ」
龍輔の言葉に私は慌てて水を用意をした。蛇口を捻り、コップに水を注いで手渡す。龍輔は水の入ったコップを受けとって飲み干す。
私は心配そうな目でその姿を見ている。すると、それに気付いた龍輔が私を見てこう言った。
「何だよ、気持ち悪いな」
「だって、本当に辛そう。大丈夫?」
「心配するな。本当に辛いなら病院に行くからそんな目で見るな」
ポンと軽く、私の頭を叩いては撫でて他の部屋に行ってしまった。それから私達は少しばかりの会話をして過ごしたけれど 、何処か不機嫌そうに見えた龍輔の顔色を伺うと私は黙り込んでしまった。
翌日、朝起きると龍輔が既に起きていた。
「おはよう、」
「おはよう……」
椅子に座っていた龍輔が元気無さそうな声で挨拶をする。
「大丈夫?」
私は心配そうに聞いた。
「昨日、心配すんなって言っただろ! 黙ってろ、ゴホッゴホッゴホッ」
険しい顔で私のほうを向いて、怒鳴ってきた龍輔。咳をしているから、明らかに大丈夫じゃないって分かるのに。
そう呟いた私の心の声が聞こえたかのように龍輔は私をじっと見る。
「悪い、ゴホッ。朝飯食ったら、病院行ってくる」
そう言って、顔を伏せてしまった。
「そう……。私も一緒に行くよ」
返事がなかったから、伏せてしまった龍輔の肩を軽く叩く。様子を伺うと、どうも様子がおかしかった。
「はぁ、はぁ、ハァ……」
彼はとても苦しそうに息をしていて、よく見ると顔が真っ赤だった。
「龍輔……?」
ずっと苦しそうにしていて、返事をしない。私は咄嗟に龍輔の額に手を当てた。
もの凄く熱い。私は直ぐに保冷剤と体温計を準備して龍輔のところに戻った。
「龍輔、ちょっと御免ね」
近くのテーブルに保冷剤を置き、龍輔の片方の腕を上げて脇に体温計を挟もうとしたところ、龍輔に振り払われて私が持っていた体温計を掴んで自力で脇に体温計を挟んだ。
測り終わると、高熱だった。
「ゴホッゴホッ」
それから、椅子から立ち上がって何処かに行こうとしている。向かった先は寝室だった。しかし、その足取りはおぼつかずふらふらしていた。
私は龍輔に肩を貸すために側に近づいた。
「大丈夫だから、来んな。風邪うつるぞ、馬鹿野郎」
けれど、龍輔はそんな言葉を放つ。言葉が悪いけど、優しさが伝わってくる。
私は立ち止まって龍輔がベッドに辿り着くのを見守る。ふらふらな足取りで安心出来ないけれど、無事にベッドに着いたのを見ると、ホッと一息ついた。龍輔に保冷剤を手に寝室の中へと入った。
保冷剤を龍輔の頭に当てる。
「ありがとな。ゴホッ」
優しい笑顔で御礼を言ってるけど、龍輔の辛そうにしている顔を見ると私まで辛くなってしまう。たかが風邪くらいで死ぬわけでもないのに。
「今日は病院に行けないね。今からお粥作ってくるから待っててね」
私は言葉を残して、寝室を出ていった。
前書きにも記載しましたが『イノセント クライム』第五章『嘆き』から引っ張り出してきたお話です。
『嘆き』からタイトルを『願いは遠くに消えて』に変更し週2回(日曜日、水曜日予定)更新しようかと思っています。
次話更新は4/18(水)の予定です。
何かアドバイスなどあれば待っています。
今後よろしくお願いします。