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イベント

2017ハロウィン DMF

作者: 日次立樹

 広いキッチンには甘い香りが漂っている。じりじりと音を立てているオーブンの中にはパンプキンタルト。今年のカボチャは甘かったから、きっとおいしいタルトが焼き上がるだろう。


 パーティルームに運び込んだ丸いテーブルには紫のチェック模様のクロスが掛けられ、席にはキャンディとカードが置かれている。

 天井からはコウモリや魔女、星をかたどったモビールが吊るされている。窓には蜘蛛の巣模様のレースを掛けた。

 ピー、とタイマーが時間を知らせる。オーブンを開けて、タルトの焼き上がりをみる。取り出したタルトに串をさして中まで焼けているかどうかも確認。

 それから、食器や飲み物が十分にあることを確かめる。よし。


 最後に玄関を出て、門の横に転がしてあったかかしを立たせる。

 かかしの頭にはカボチャをかぶせる。目と口をくり抜いたカボチャはなかなかの出来だ。ろうそくのように炎が揺れるライトをカボチャの中に入れ、明かりをつける。

 今日は10月31日。彼は鼻歌を歌いながら屋内へ戻っていった。





 街のあちこちに飾られたカボチャのランタンに明かりが灯っていくのを、ランディは二階にある自室からわくわくした気持ちで眺めていた。

 今日はハロウィンだ。子供たちは仮装をしてランタンが掲げられた家々を回り、お菓子を貰う。

 ハロウィンの日に家々を回る子供たちは2つのグループに分けられている。6歳から12歳までの年少組と、13歳から16歳までの年長組だ。


 ランディは去年まで年少組だった。年少組は大人の引率がついて(実際はお目付け役みたいなものだとランディは思っている)、午後6時から8時までの2時間だけ街を練り歩く。普段夜更かしなどさせてもらえない小さな子供達は大いに喜ぶが、少し大きな子供たちはつまらないと思っている。何せ結構な人数で歩くので、少し後ろのほうで友達と喋っていたりすると、引率の大人たちにせかされるのだ。そしてまだ8時なのに早々に家へ帰されてしまう。

 年長組は引率がつかないし、日付が変わるまで遊んでいられる。だから去年は早く誕生日が来た友人たちが羨ましかった。

 しかし今年は違う。ランディも13歳になって、年長組の仲間入りだ。

 早く時間にならないかな、とランディは何度も部屋の時計を確かめるのだった。


 5時半に、妖精女王の仮装をしたメグがランディを迎えに来た。メグは11月生まれのランディより2か月ほど誕生日が早くて、去年から年長組のメンバーだった。二人で集合場所の広場へ向かう。

 広場につくと、もうほとんどのメンバーがそろっていた。みんな早く回りたくて仕方がないらしい。ランディも貰ったお菓子を入れるための袋を握りしめた。


 6時を告げる鐘が鳴って、年長組のリーダーであるマックスを先頭にランディたちは歩き出した。年長組はランディを含めて13人だ。吸血鬼や包帯男、フランケンシュタインなど思い思いの仮装をしている。

「Trick or Treat!!」

 掲げてあるカボチャのランタンは全て手作りで、一つ一つ顔が違う。あそこの家は下手だ、あれはゼンエイ的だ、エリックのところは妹が作った、あのカボチャ割れてる。そんなことを言いあいながら家を回っていく。ランディは抱えている袋がどんどん重くなっていくのが嬉しかった。


 最後の家の人はランディたちの持っている袋がいっぱいになるまでクッキーを詰めてくれた。

 この後はなにをして遊ぶのだろう。誰かの家でパーティーでもするのだろうか。ランディがそう思っていると、マックスたちが細い路地へ入っていく。どこへ行くのだろう。

「もう一軒、お菓子をくれる家があるのよ。行きましょう!」

 ランディはメグに引っ張られ、彼らの後を追った。


 その家はカボチャのランタンの代わりに、門の横にカボチャ頭のかかしが立っていた。三角の眼にギザギザの口、シンプルだがなかなかの出来だ、とランディたちは言いあった。玄関にはWELCOMEと白い字で書かれたコウモリ型のボードがかかっている。


 コンコン、とマックスがドアを叩く。すぐにドアが開いた。ランディは一番後ろに立っていたのでその人の姿を見ることができなかった。

「Trick or Treat!」

「やあ、よく来たね」

 その人はランディたちを招き入れた。するとランディにも彼の姿が見えた。彼はねじ曲がった角と白い仮面、それから黒いマントをつけていた。何の仮装だろうか。


「パーティをするのよ」

 メグが弾んだ声で言い、ランディの手を引いた。

 パーティルームの飾りつけはとても良かった。天井のモビールでは星々の間をコウモリや魔女が飛び交っていて、窓には蜘蛛の巣がかかっている。席には一人一つキャンディまであった。

「さあ、座って」

 全員が席に座るとジュースとパンプキンタルトが配られた。

「「Happy Hallowe'en!!」」

 皆で乾杯をする。彼が作ったらしいパンプキンタルトはとても甘くておいしかった。


「去年もここでパーティーをしたの」

 メグが嬉しそうに言った。

「思いっきり騒いでもJBはママみたいに怒ったりしないのよ!」

「JBって?」

「彼のことよ。みんなJBって呼んでるの」

 仮面の彼はJBというらしい。


「JB!この子今年が初めてなの!」

 メグの呼びかけに、追加の飲み物を用意していたJBがランディのほうへやって来た。

「ランディです」

「初めまして、ランディ。楽しんでね」

 低い声は若いようにも、年をとっているようにも聞こえた。ランディはJBが白い手袋をしていることに気づいた。

「JBっていくつなんだろう?」

 ランディはメグに聞いた。


「800歳くらいかな」

 その声が聞こえたらしく、JBは答えた。

 800歳?聞き間違いかと思ってランディはJBを見つめる。

 カラーコンタクトをしているのか、光の加減か、JBの眼は赤く見えた。

「800歳の悪魔」

 JBが言った。つまりそういう設定の仮装をしているということらしい。悪魔だから角なのか、とランディは納得した。結局JBが何歳なのかはわからなかったけども。


 ランディたちは大声で喋ったり歌ったりしながら、お腹いっぱいになるまでタルトとお菓子を食べた。

 途中でエリックが椅子の上に立ち上がって踊り出したけど、メグの言った通りJBは全然怒ったりしなかった。


「ふわぁ」

 誰かが欠伸をした。それにつられてマックスもエリックも欠伸をした。メグも小さく欠伸をした。ランディも急に眠くなってきた。

 そういえば、今は何時だろう?10時の鐘は聞いた気がする。11時はどうだっけ?

 ひづけがかわるまえに、かえらなきゃ、いけない、の、に……。



「おやすみ」

 最後の一人が目を閉じた。パーティルームはすっかり静かになった。

 今年もにぎやかで楽しいパーティだった。そろそろ彼らを帰してやらなければならない。

 JBは不思議なメロディに乗せて呪文を紡ぐ。

「さあ、パーティは終わりだ。家に帰っておやすみ」

 JBが玄関のドアを開けると、子供たちは眠ったままそれぞれの家へと帰っていった。





「ランディ、いつまで寝てるの?あんまり遅いと朝食抜きだからね」

「今起きるよ、ママ」


 昨日は一体何時に帰ってきたんだっけ。ランディはまだ眠い目をこすりながらベッドから出る。勉強机の上には昨日の戦利品のお菓子袋が横倒しになっていた。いくつかは机の下にも落ちてしまっている。ランディは散らばったキャンディーやクッキーを拾って机の上に置く。

 すると、一枚のカードが目に入った。

「何だろう、これ」

 黒いカードに金色の文字で『happyHallowe'en』と書かれている。それから、『JB』とイニシャルだけのサイン。いつもらったのか全く思い出せない。誰かの悪戯だろうか。


「ランディー、はやくしなさい!」

「はーい!」

 カードを机の上に置いて、ランディは階段を下りていった。

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