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お裁きタイムがやってきた

「……いかがでしたか」


 大神に微塵の同情もなく、技をきめている天照あまてらすがつぶやく。二体は思わずすくみあがった。


「新しい神はまだ力も弱く、なかなか救うべき民の声を聞くことができません。慣れるまで、私の神具をお使いなさい。それが民の声を拾ってくれます」


 なるほど、それで一気に声が聞こえてきたのか。秋葉あきはは納得したが、まだ聞きたいことがあった。


「こういう場合、どちらを助けるべきなのでしょうか」

「助けたいと思ったのなら、両方おやりなさい。性根の腐った輩を放置すると、後で苦労しますよ」


 天照が不敵に笑った後、ボキッと鈍い音がした。これ以上グズグズしていると飛び火してきそうなので、秋葉たちは速やかにその場から消える。


 どちらを先に助けるか議論した結果、天目あめのが勝った。二体は目を閉じ、声の元へ移動する。


 店の中は狭かった。寝台と家具を入れれば二人は暮らせるくらいの空間に、商品棚がひしめいている。


「扱ってるものに統一性がないな」

「最近よく下界にある店だよ。こんびにって言うんだって」


 周囲を見回している天目の腕を引っ張って、秋葉は騒動の中心へ向かう。


 店の出入り口と平行に作られた会計棚の前で、だらしない格好の男女が文句をぶちまけている。会計を担当しているのはまだ若い女の子で、耳を真っ赤にして罵倒に耐えていた。


「ねー、千円足りないって言ってんじゃん。とっとと渡せよ」

「そうよ。あたしだって見てたもん」

「でも、確かに八千円お返しして……」

「そんな証拠がどこにあんのよ。カメラでも見る? どーせ体で隠れて映ってないだろうけど」


 周りの客と店員も、どう助けに入ったらいいのかわからず、うろたえている。ただ、秋葉と天目は同時に肩をすくめた。


「「セコっ」」


 同じ感想を漏らし、苦笑いする。


「こんなところで若い子いじめて金むしろうって、恥ずかしい気持ちにゃならないのかねえ」

「きっと自力じゃ千円も稼げないほど、頭が悪いんだよ」


 秋葉が言い捨てて、祝詞を唱える。商品棚や水がかき消え、辺りが闇に包まれた。


 かさかさ、という紙がこすれ合う音が聞こえてくる。次第にその音は大きくなり、倒れていた男女が目を覚ました。


「ん~、ここどこよ?」

「さっきのコンビニだろ? 停電でもしてんじゃね」

「やだ、サイテー」

「店員もクソ、店もクソ……って、うお、何だこれ!?」


 男が何気なく下を見て、声をあげた。女そっちのけで、這いつくばって紙を拾い始める。


「ちょっと、何してんのよ」

「だって、見ろよ。下、全部万札だぞ」

「えっ!?」


 女も目の色を変えた。自分たちの下にあるのが全て高額紙幣だと知ると、奇声をあげる。


「やったあ」

「これで俺たち、金持ちじゃん?」


 彼らはしばらく、夢中で札を衣服のあちこちにねじ込み始めた。秋葉たちは機を見計らって、二人の前に進み出る。


「お兄さんたち、何してるの?」

「ガキ、邪魔すんじゃねえよ」

「それよりさ、あんた何か袋持ってないの、袋。コレ入れて帰るんだから」

「……やめといた方がいいんじゃない?」


 札集めに夢中になっている二人を、秋葉は冷たくいなした。


「は? あんたらももしかして、これ欲しいの? でも、最初に見つけたのはウチだからね」

「ガキにゃ金なんかいらねーだろ。あっち行けよ」


 男の方が、めんどくさそうに手を振る。それと同時に、彼の指が一本ずつ、地面に向かって落下した。


「ああ、その紙。すっごくよく切れるから。だからやめとけって言ったのに」


 天目がほくそ笑む。男の絶叫を聞いて、連れの女が顔色を変えた。あわてて自分だけ逃げだそうとするが、彼女も派手にすっ転ぶ。


「あ……あたしの足……」


 女は、足首から先が丸々なくなっていた。わななく彼女に向かって、秋葉は首をかしげてみせる。


「おや、なんでそんなに悲しむの? お金が手に入れば、満足なんでしょ? たとえどんな目にあっても、人をどう扱っても」

「こんな体になってまでいらないわよ! あたしの足、返してよっ」

「ふーん」


 秋葉はまじまじと彼女を見つめ、手を打った。


「じゃ、こうしよう。元の世界に戻してあげる。そのかわり、彼氏をちゃんと止めてくれる?」

「する、するからっ」


 女が首を縦に振る。その時、天目が戻ってきた。


「そっちも話はついたの?」


 天目がうなずいた。秋葉はそれを確認して、指を鳴らす。瞬く間に暗闇が消え、コンビニが再び姿を現した。


「あ、あれ……戻ってる……」

「終わった……のか」


 男女は体を寄せ合い、互いの無事を確認し合う。安心したのか、男は額の汗をぬぐっている。


「全く、変な夢だったよな」


 どうやら、全て夢だったという結論にしたようだ。人間がたどり着く結論としては、特に奇をてらったものではない。気を取り直した男は、急に態度が大きくなった。


「あー、ムカつく。おい、こんな変な夢見たのもお前のせいだからな。慰謝料払ってもらうぞ」

「そうよ。コンビニってもうかってんでしょ? サービスしてね」


 男女は早くもさっきの誓いを忘れ、店員につめ寄った。しかし次の瞬間、彼らの顔は真っ白になった。


「……サービス、とはこのようなものでよろしいでしょうか?」


 微笑む店員の顔は、いつの間にか夜叉のそれに変わっていた。逃げようとする男女の首筋を、夜叉の長い爪がつかむ。


「やっぱりクズは反省なんかしないね。一回見逃してあげたってのに」


 会計台の奥から現われた秋葉が、せわしなく鋏を鳴らす。それが彼らへの、死刑宣告だった。



☆☆☆



 秋葉たちが処刑を終えると、ちょうど下界の『警察』と呼ばれる人間たちが店にやって来ていた。彼らは淡々と仕事をこなし、呆けた男女を店の外へ連行する。その間に秋葉たちは祝詞を唱え、場を清めた。


「これにて落着っと」

「僕の方も忘れないでよね」

「……分かった分かった」


 絶対に忘れていたのだろう。妙な間をあけながら、天目が頭をかいた。そんな彼をにらみながら、もう一件の場所へ移動する。


 今回の現場はさらに大きな店であった。生鮮食料・生活雑貨が特に豊富で、利用している客も女性が多い。売り場とは別に倉庫や従業員詰め所が並んだ場所があり、裏から店を支えている。もめ事は、その裏で起きていた。


 六畳程度の小さな部屋に、人がひしめいている。店員が二人に学生一人。それと、学生の両親らしき男女だった。


 盗みを働いたのは学生のようだ。しかししおらしくしているどころか、後ろの両親がまくしたてるのを面白そうに見ている。


「不細工かつ頭の悪そうなガキだな」


 学生のにきび面を見ながら、天目が鼻を鳴らした。


「大事にしたところで、何を成してくれそうにもないが」

「現実を思い知るのって難しいよね。特に親は」


 人間界では、秋葉たちをよそに交渉が進んでいた。ちっとも話を聞かない両親に呆れた店員が、電話に手をかける。


「とにかく、うちは万引きは全部警察に報告していますから」

「呼ぶか? やめておいた方がいいよ。警察の人間は、同業者に甘いからね」


 父親がせせら笑った。背広の胸から、黒い手帳を取り出す。そこには桜の紋と、金で彫られた漢字三文字が並んでいる。


「あれは、なんだ?」


 天目が首をかしげた。


「治安部隊の、身分証明書かな」


 秋葉が説明してやっているうちに、部屋の中ではどんどん話がこじれていた。


「私は警部でね。この辺の警察にも顔がきく。訴えたところで、損をするのは店の方だと思うよ」

「どういうことですか?」

「……これから万引き犯を捕まえても、誰も来てくれないなんてことになったら、どうする?」

「そ、それは」

「小売店はどこも悪質な万引きで困ってるそうじゃないか。うちのなんて見逃してもたいしたことないだろう。ここで手を打たないか」


 自分の子供も万引きしたくせに、すさまじい言い分である。天目はすぐに祝詞をつぶやき始めたが、秋葉はちょっと変わった方法で復讐したくなってきた。あの手帳については面白い情報を知っている。


「ね、話があるんだけど」


 秋葉が作戦のあらましを説明すると、天目は困った顔になった。


「やるのはいいが、話すのはお前が担当するんだろうな」

「もちろん。天目にできるとは思ってないよ」


 首をしめられた。


「……それだけ大口叩くからには、必ず成功させろ」


 きつく釘を刺されて、秋葉はうなずいた。首がまだちょっと痛む。


 それから、二神は姿を変える。天目は下界の服にあまり理解がないが、なんとかそれっぽい仕上がりまでこぎつけた。秋葉たちはおもむろに部屋の扉を叩き、踏み込む。


「あ、警察……」


 立ち上がって秋葉たちを迎えつつも、店員はいぶかしげな顔をした。呼んだ覚えはないのに、何故ここに。そんな困惑が見てとれる。


 しかし、挙動不審になっているのは、店員だけではなかった。自慢げに手帳を見せていた父親も、妙にもじもじしている。


「万引きがあったと通報がありましたが、この子でいいのかな? ゆっくり話を聞きますね」

「ま、待て。ほら、コレ」


 この期に及んで、父親はまだ手帳を差し出す。しかし秋葉は、それを見ても平然としていた。自分の胸元からさっき作った手帳を出し、開く。


「ほら、あなたも開けて、中を見せてくださいよ」

「はあ?」

「もう十年以上前から、警察手帳はこういう縦開きのタイプに変わってるんですよ。ちゃんと中身を見せずに、勝手なことをする輩が増えたもんで」


 秋葉が言うと、父親の目が激しく動き出した。


「そ、それはけしからんな」

「全くですよ。で、あなたのは何故まだ旧型なんです?」

「わ、私は警部だからな!! 旧型が好きだと言ったら、そのままにしてくれたんだ」


 分が悪くなった父親だが、まだ頑張ろうとする。横の妻から「何やってんのよ」と言いたげな、きつい視線が飛んできたからだろうか。


「ほう。失礼ですが、警部だとすると、キャリア組ですか?」

「私は……ああ、そうだよ」


 父親は自分からドツボにはまってくれた。秋葉はこっそり笑いをかみ殺す。


「おかしいですねえ。キャリア組なら、遅くても三十代には警視になっておられてもおかしくないんですが」

「え」

「知らなかったみたいなお顔ですね。でもまさか、国家公務員試験に通ったキャリアの方がそんな。あれはとんでもなく難しいですので。例えば」

「い、いや。私はそんなものは受けてない」

「ノンキャリアってやつですね」

「そうだね。仕事が忙しくて、そんな分類なんて覚えていられないだけだよ」


 黙れ暇人。


「ノンキャリアとなると、それはそれで珍しい存在ですね」

「はい?」

「ノンキャリアなら、退官まで勤めてもせいぜい警部補までの出世が多いんです。この辺りで警部にまでなった方なら、有名人でしょう。署に問い合わせて」

「うるっせえんだよ!!」


 逃げ場を失った父親が、ついに切れた。


「どうかしました?」

「迷惑だってんだよ! 問題なんか何も起きてねえんだから、とっとと帰れ!」


 秋葉は口元をつり上げた。ここでようやく、今まで見ているだけだった天目が参加してくる。


「なに、おっさん、聞かれたら困るのか。もしかしてカタリ?」


 絶妙に腹が立つ笑顔で、天目が父親につめ寄る。父親の顔から脂汗が流れ出した。秋葉はその後ろで、祝詞を唱える。


 場が暗転。天目を殴りつけようとしていた父親の手が、空振りした。一家はまとめて、秋葉の作った裁きの場へ飲み込まれていく。


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