ごく当たり前な日常 十三
市川駅 南口前 ペデストリアンデッキ 3階
市川駅南口前にはペデストリアンデッキが2階、3階と二つ存在している。
2階のペデストリアンデッキはこの市川駅南口前の広場を両サイドから囲む巨大な棟である東側のザ・タワーズ・イースト、西側のザ・タワーズ・ウエストと直結している。
3階のペデストリアンデッキには屋根がなく、そこから駅前広場を見渡せれるようになっている。2階と比べて幅が広く設計され、その中心には縦に何本かの樹木であるシマトネリコが植えられ、その一本一本の木を丸く囲むように少し低めのベンチが設けらている。さらにはプランター等もあり、緑豊かな空間となっている。
そんな緑豊かな空間には似合わない男が一人ベンチに座り込んでいた。
ベンチから立ってみれば180cm以上はあるであろうな高身長を思わせ、日頃から鍛えているのか、現在着ている服が今でも破れてしまうかのような筋肉質な身体の持ち主だった。
その男は左腕に装着している腕時計を必要以上に、何度も何度も現在の時刻を確認していた。
「後二分ってとこか。早くあのビッチを犯してやりたいぜ。久々だからな、今夜は長引きそうだぜ。ヒヒッ」
発露してることに気付かず、強面な顔のせいか、その笑いが一層下卑た笑いに引き立たせていた。
下品極まりないこの男の名は久保田寿明。
この久保田のいうビッチというのは飲み屋街に存在するキャバクラ『To Heaven』に務めている人気No.1キャバ嬢の麗華のことである。
久保田は今から一時間前にTo Heavenに客として訪れていた。
その久保田の相手がNo.1キャバ嬢の麗華だったのだ。
共にに酒を交わした際、二人の距離は一気に縮まり、麗華は久保田を仕事からあがった後自分の家にどうかと誘った。
誘われた久保田は、既に麗華の魅力に心を奪われ、迷わずイエスと答えたのだ。
そして二人は集合場所と時刻を決め、久保田は麗華が来るのを待ち続けていた。
現在の時刻は0時59分。
麗華との集合時間は1時となっている。
集合時間が迫って来ると同時に、久保田の鼻息は徐々に荒くなっていく。
彼の欲は『性欲』。
「はぁ……はぁ……あ~早く、早くやりてーよ! 待ち切れねーぜ! ヒヒッ!」
森閑としていた場所を下卑た笑いを響かせて掻き消すと同時に、時計の長針が動き始めた。
時刻は1時。
集合時間となった瞬間、久保田の下卑た笑い声の他に、微かながら音が聞こえ始める。
コン……コン……
徐々にその音はより鮮明に、ハッキリと耳に染み込んでいく。
コツン……コツン……
するとザ・タワーズ・ウエストがそびえ立つ西側の方から、人影らしき者が久保田が座っているベンチへと向かっていた。
ゆっくり、ゆっくりと。