ヘタレ獣はヘタレを脱する?
短めの予定なので、染太くんへの桜月の贔屓が半端ないです。
本文も短めですがきりがいいので。
そういえば、あの朝もあったかい腕の中で目が覚めたっけ。
先に起きたあたしが無言で叫んで逃げ出してなぜかうやむやになったあれは、ほんとに夢だったのか。
服は着てたけど、身体中痛くてダルくてーー特に下半身ーーパニックになったまま、あたしは熱を出した。
知恵熱だよね。わかってるよ。
あわあわしてる染太くんに申し訳ないなぁとか思いながら、下がるまでお世話になったっけ。
あれが夢じゃないのなら、なんで染太くんはなにも言ってくれなかったのかなぁ。
「……ようやく手に入れたと思ったら、朝起きて逃げられてた俺の身にもなれよ。熱出すくらい嫌だったのかと思ったら、もう言えないだろう」
そんなこと言われたって、好きだなんて言われてないし。
「言った。お前だってあたしも、って言ってた」
……いつ?
「やってる時」
「そんな記憶吹っ飛んでる時のやつ覚えてられ……な、い?」
あれ?
あたし夢見てたんじゃないの? なんで返事が返ってくるの?
「そもそも、あの朝お前が逃げなかったらこんなややこしいことにはなってない」
あたしのせい? てか、なぜ会話が成立するのか。
「…………ーー!?」
目の前に、鼻がくっつくほど近くに染太くんがいた。身体は彼の腕に囲われて動けない。
「そめ」
「芽以」
うわ、名前呼びヤバい。なんか腰がしびれる。
「あれ、覚えてるのか?」
「……夢かと」
今さら確認したあたし達は、お互いため息をついた。
うん。誤解があったみたいだ。
「俺があの日どんな気持ちでお前に告ってあそこまでもっていったと……!」
なにやら慟哭が聞こえますが流しましょう。ええ、聞こえませんがなにか?
好きじゃない人と一緒になんか寝ないもん。
夢だと思ったんだもん。そんな都合のいい現実あるわけないって。あたしが妄想しすぎてとうとう触れる夢見たんだ、と無理矢理納得させたあの時のあたし! なんで染太くんにちゃんと聞かなかったの!
でも聞くのはもっと怖かった。なに言ってんの、バカじゃね? とか言われたら再起不能になってた自信がある。
いつから、なんてわからない。
そんなのどうでもよくなるくらい、近くにいた。一緒にいた。
好きになるには充分だった。
カッコイイとこも、ちょっとヘタレなとこも、照れると早口になって耳がほんのり赤くなるとこもーーこれめっちゃかわいいの! 怒られるから言わないけどーーどれを見ても好きだと思った気持ちは変わらなかった。
「芽以」
枕に顔を埋めて叫んでた染太くんは、いつの間にか起き上がってあたしを見てた。
「なんか色々とコンチクショウなことがあるが、それは後回しだ」
いつもと違う、なにかを覚悟したような瞳。てか、コンチクショウなことってなに?
「芽以、お前が好きだ。俺と結婚しよう」
「うん、あたしも好きだよ。って、え?」
なんか最後の言葉おかしくなかった?
そしてあたしは何気なく、そこに気づかずに返事しなかった?
「うん、と言ったな」
「染太くん、それ騙し討ち」
にやり、とそれはもう嬉しそうな笑顔で宣う染太くんは、前言撤回しようとさしたあたしの口を問答無用でふさいだ。
「んっ? ぅんーー!」
うぎゃー! はむはむしないでなめないで痛くないけどかまないでーー!
「まっ、そめ、やぁ!?」
舌入ってきたし!! 待て待て待って! 経験ないあたしにはハードル高いからそれ!!
染太くんは容赦なくあたしの中を舌で暴れてく。追いかけられてつかまって絡まったそれに、ビクンと肩が跳ねた。
「ーーーーっ!」
息ができません染太くん! 意識が飛びそうです。
力なくはたはたと染太くんを叩く。叩く? 触るの間違いかも。それくらいぐったりとしたあたしに気づいたのか、ようやく唇を離してくれた。
「芽以、大丈夫か?」
閉じていた目元を優しく指が撫でて、頬を包む。
そっと開けた瞳に映るのは、心配そうな顔の好きな人。その瞳の中に押さえられない欲情の色を見つけてしまって少し戸惑うけど、嫌じゃない。
「……ん」
こてん、と力の入らない身体を染太くんの胸にあずける。うん、嫌じゃない。むしろ安心する。
着やせするのか、思ったより筋肉のついてる身体は難なくあたしを支えてくれた。
……ん? なんか変。なんで背中に触れる手の感触が布越しじゃないんだろう。
「……っ! っうにゃあぁぁぁぁ!?」
なんで! いつの間にパジャマ脱げてるの!?
思わず胸を隠すけど、その手を染太くんにつかまれてバンザイさせられる。
「これなんの羞恥プレイですかーー!!」
自信もって見せられる身体してないのにーー!!
「離して見ないで記憶から消してーー!」
「嫌だ」
「っ!?」
「あれから何年待ったと思う。もう遠慮しないし離さないし全然飽きないから見るし」
「っぅや?」
ドサッとベッドに押し倒されて、見上げる染太くんは真剣な表情で。
「だから、全部ちょうだい?」
全部持ってかれました。
容赦もありませんでした。
染太くんは野獣のようでした。足腰立たなくなるまで抱き潰されました。
「かいしゃいけない~」
声までかすれてるなぁ。
「なに言ってる。一週間は行かなくてもいいぞ」
は? なにそれ。
「罠張るのに一週間って区切ったろう。その間は出張に行ってることになってる。会社に連絡来たときのためにな」
なんて用意周到な。でもぺーぺーの平社員なのにそんなことして大丈夫なのかなぁ。
「お前うちの会社の親会社どこだかしってるか?」
あきれたような染太くん。そんなあきれなくてもいいじゃない。ただれてるくせに。
ベッドからおろしてもらえないし、どこ行くにも抱っこだし、てかベッドとお風呂とトイレしか行かせてもらえないし、食事は運んでもらってるし……染太くん。あなたあたしをどうしたいの。堕落させたいの?
「知ってるし。“SOMEYA”で……」
……うん、知ってる。“SOMEYA”はうちの会社の親会社で染太くんのお父さんの会社です。
お兄さんとか叔父さんとかの一族経営だけど、一族至上主義なわけではなく、実力でのしあがった強者揃いの人達だ。
跡継ぎではないけれど、染太くんも将来的には親会社に行くんだろうなぁ、と思う。
てことは。そっち方面から手を回したってこと?
「染太くん、意外と策士?」
「意外とは余計だな。まあ、そんなわけで時間はたっぷりあるぞ?」
ギラリと獣のような瞳で笑う。やらしいよ? 染太くん。
「俺がどんだけおあずけくらったと思ってる。まだまだ足りない」
あれだけやってまだまだですか!?
どんだけ体力ありあまってるの!?
「芽以」
「ぅひゃっ!」
うわーん! ごめんなさいもう無理ですっ。む、りだってば! 聞いてる!? 聞いてーー!
その連絡が入ったのは何日目のことか。今一ただれた生活のせいか感覚がおかしくなってるみたいだ。日常に戻れるかなぁ。
「準備できたか? 行くぞ」
あたしをそんなぐでんぐでんに溶かした張本人は、カジュアルにシャツとジャケットを着こなしてーーあれ絶対高いよーー髪をかきあげた。
う、無駄な色気が一瞬であふれたよ。
「うー、ほんとにこれ着て出かけるの?」
あたしは染太くんが用意したワンピースーーこれも絶対高い!ーーを着てる。
朝、というか昼? 抱き潰されてようやく起きあがれたと思ったら、有無を言わさずお風呂につれてかれて上から下まで洗われてーーなにこの羞恥プレイ!ーーバスローブ一枚でリビングのソファーに放られて。
そこで初めて知らない人達がいるのに気づいた。
ハンガーラックにかけられた色とりどりの服と、メイク道具、ドライヤーを持って待ち構えてる人達。
みんな女性だけどなんかプロ? っぽい人達に髪をブローされながら服をああだこうだあっちがいいいやこっちの方がーー最終決定は染太くんですよ? もちろんーーなんて着替えて、ヘアメイクを同時進行すること約一時間。
別人のようなあたしを上から下まで眺めると、ひとつうなずいた染太くんは、やりとげました! な人達と達成感を共有してーーのけ者感が半端なかったです。寂しい、いじいじーー出かけるぞと宣った。
そもそもどこに行くのかすら知らないんだけど?
いってらっしゃいませ、の言葉と共に送り出されて染太くんに手を引かれてエレベーターへ。
下に降りる密室の中、突然首に吸い付かれてびくっと肩が跳ねる。間違いなく見える場所につけられたであろうキスマークをべろりと舐めた染太くんは、ここで始めてしまうんじゃなかろうかと思うくらい艶っぽくて。
美形はなにしても美形だなんて詐欺だとか現実逃避してるあたしをよそに、チンと軽やかに扉が開いた。
「お待ちしておりました」
真島さんがマンションの入り口に車を横付けして待ってた。
「進展は」
「こちらに」
短いやりとりの後書類を受け取った染太くんはあたしを後部席に押し込んで自分も乗り込む。
真島さんの運転で車が走り出すと、書類を確認してくくっ、と笑った。
「期待を裏切らないな」
期待? なにがそんなに楽しそうなの?
「すぐわかる」
疑問だらけのあたしの額に口づけてーー甘々だよ!ーー染太くんが呟く。
「ショータイムの幕開けだ」
おかしい。また始まったぞ。
桜月の「書きたいシーンに中々たどり着かない」病。発症です。
次回やっと書きたいシーンに突入予定。
予定は未定ともいう(笑)