表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

ヘタレ獣は囲いこみに入る

新しいお話です。

溺愛からは離れられない模様(笑)

 それ、に気づいたのは偶然だった。


 元々あたしはそんなに几帳面じゃないけど、たまたまその日化粧品をキレイに並べてみたのだ。


 朝珍しくそんなことをして会社に行って。

 帰ってきたら、なにかが違った。


 最初は、ん? くらいの違和感。


 でもお風呂を洗って、あれ? なんでこんなに濡れてるの?

 トイレに入って、あれ? こんなにペーパー減ってたっけ?

 ベッドを見て、あれ? こんなにぐしゃぐしゃにしてたかな?

 その下のゴミ箱に、あれ? なんでゴミーーしかもティッシューー増えてるの?


 ……さすがに大雑把なあたしでも分かった。


 誰かが勝手に使ってるのだと。




「……お前、馬鹿か」

 翌日、同僚の染太くんにランチがてら相談すると、あきれたため息とともに吐き出されたのが、それ。

「馬鹿は否定できないなぁ」

「問題はそこじゃない」

 うわ、残念な子を見る目はやめて。美形にそれやられるとさすがにへこむ。

「いいか、よく聞け」

 染太くんはあたしにも分かりやすいように説明を始めた。ありがたい。

「鈍いお前でも気づいたということは、昨日が初めてじゃないはずだ。最初は証拠を残さなかったんだろうが、何回もやっていて、お前に気づかれないのをいいことに証拠隠滅をやめたんだ。シャワーを使い始めたのなら間違いないだろ」

「……染太くん、プロファイラー?」

「……お前以外なら誰でも気づくぞ」

 にぶにぶの実食べただろ。言われて、なにそれでも鈍いのはみんなに言われるしでも仕事はそんなことないのになぁ、なんて考えてたら染太くんに鼻をつままれた。

「いひゃいよ」

「……お前、これからどうするんだよ」

「これから? ……あー、さすがにあそこで暮らそうとは思わないよ。引っ越しするよ、物件見つけてからだけど」

「今日からは?」

「んー、ホテルは高いし加東っちのとこは狭いし悪いしなぁ」

 あたしの部屋ではある。だが誰が勝手に使ってるのかどうやって入ってるのかわからない以上、普通には暮らせそうにない。

 貴重品とかには手をつけられていなかったものの、いつ盗まれるかわからないし。

「ん、ちょっと待て」

 染太くんはスマホをいじり始めた。どこかにメールしてどこかに電話をかける。

 あたしはおとなしく待つ。長い付き合いで彼がなんとかしてくれるのを知ってるから。

 我ながら甘えてばっかりなのに、文句を言いつつ染太くんはいつも面倒を見てくれる。

 小学校から一緒の幼馴染み、染谷太一。彼を染太くん呼ばわりするのはあたしだけだ。

 高校も大学もあたしよりランクの高いとこいけたのに、いつの間にか同じで。就職の時もほぼ同じとこを受けた。

 志望してたとこにあたしは落ちて彼は受かったのに、なぜか同僚になってて。

 そんな長い間、あきれても見放さないでいてくれるのはどうしてかな、と思うたびに、期待して裏切られるのが怖くてこの関係を崩せないあたしは、鈍いというより臆病者だ。

「中里、段取りできた。とりあえず定時であがって荷物まとめよう」

「うん。ん?」

 段取り?




「まだか?」

「ちょっと待って、もう少し」

「一週間分くらいはまとめろよ。プロジェクトも大詰めで帰ってはこれないだろうし」

「うん。あ、染太くん冷蔵庫の中どうしよう?」

「保存食以外は持ってけ、給湯室でなんか作れるだろ。……いや、俺が作る」

「ひどいなぁ、あたしだって料理くらい作れるよ」

「できたか?」

「んー忘れ物ないかなぁ」

「あったら買ってやる。早くしろ」

「わぁ、染太くん優しいー。じゃあストッキング買って」

「これ以上無駄な時間をすごしたくないし、それはせめて自分で買え」

「ひどっ」

 バタン


「……あれで引っ掛かるのかなぁ」

 エレベーターに乗って思わずつぶやく。

「明日には喜んで居座る準備してやってくるさ」

 小さく染太くんが言う。あたしにしか聞こえないそれは警戒してのもの。

 まさかエレベーターまで盗聴されはしないだろうけどね。

 そう、あたしの部屋、盗聴器がしかけてあったのだ!

 なにそれドラマ!? 今はネットで簡単に買えるんだって。

 実際、染太くんの雇ったーーらしいーー探偵さんによって二つ見つかった時は動揺したよ。

 犯人は盗聴であたしのスケジュールを把握して、侵入していたらしい。

 なので、逆に罠をしかけておびきだそうということになった。てかなってた。

 さっきの一週間は帰りませんよー、はそのためのアピール。つまり嘘。

「大事なものは持ってきたか? あと通帳とか貴重品も」

「うん。一週間分の荷物だからねー、あとは処分しても惜しくないくらいの、あ、それを買ったお金は惜しいなぁ。気に入って買ったのに」

 でも、もうベッドではあれ以来寝れないし、家電も触るのに躊躇う。化粧品はもったいないけど買い直した。それくらい生理的嫌悪が半端ない。

 それに気づいた染太くんが服以外の荷造りのほとんどをやってくれた。

「犯人共に請求してやるよ。倍で」

「頼もしいです」

 キャリーケースもバッグも持ってくれてる染太くんは自信満々に言った。

 ところで。

「あたしは今日からどこに?」

「……お前聞くの遅すぎないか、それ」

 車に乗せられてーーてか運転手さんつき? なにこのセレブ的乗り方ーーのんきにたずねたあたしに、やっぱりあきれた染太くん。

「真島」

 運転手さんの忍び笑いに染太くんが低く呼びかけた。

「失礼しました。太一さまがあまりにも年相応だったもので」

 ん? 染太くんはいつもこんな感じですが?

「中里さまにだけでしょうね」

「真島」

 小さい頃から見てる運転手さんは真島さんと言う名前だった。てか、昔と全然容姿に衰えがないんですけど!? イケメンさんのチートなのか。それとも染谷一族のなせる奇跡とか。

「中里、真島は俺より3つ上なだけだ。お前が昔見たのは父親の方」

 染太くんがあたしの顔を見ただけで答えてくる。染太くんもチートだと思う。

「お前が顔にですぎなんだ」

 そっか。


 連れてこられたのは上が見えない程高いマンションだった。いや、万なの? まさか億?

「中里、こっち」

 え、ここ染太くん家? え、コンシェルジュさんいるし!

 ……しかも最上階って、ペントハウスとかいうやつ?

「そういえば、染太くんお坊っちゃまだったね」

 忘れてたけど。

「それを忘れてられるのはお前だけだよ」

「あー、肉食獣なお姉さま怖かったねぇ」

 染太くんは染太くんなのにねぇ。

 そう言ったあたしを目を細めて見る染太くんは、なんだか無駄に色気があった。

 うん、ありすぎじゃないかな。だから狙われるんだと思う。

「だから、部屋はあまってる。好きなだけいていい」

「感謝っす。キッチンは使っていいの?」

「ああ。ついでに俺のも作って」

「あたしのでいいなら」

 さっきの言葉は忘れてないぞぅ。

「楽しみだ」

 ふっ、と笑って頭を撫でる大きな手。

 だからフェロモン駄々漏れだってば!


「……染太くん?」

 あたしは部屋の入り口で固まった。

 あたしが借りた部屋には布団がなかった。夕食を終えてシャワーを借りて、さあ寝てしまおうとした時気づいた。遅い。

 染太くんに呼ばれた部屋にはどでかいベッド。キングとかクイーンとかいうやつ?

「染太くんそんな寝相悪いの?」

「それほどではない。ーー誰かを連れ込むためでもないぞ、念のため」

 次に聞こうとしたのを先回りされた。

「ベッドは明日にでも入れさせるから、今日はここで我慢しろ。なにか希望はあるか?」

「お金ないからパイプベッドでいいです」

「……寝るのきつくないか」

「そりゃこんなすごいのに寝てればね。贅沢は敵なのですよ」

「そうか。寝るぞ」

 話聞いてる? 聞き流してるよね。そんな眠いの?

 あたしをベッドにあげた染太くんは真ん中に枕をひとつ置いて、転がった。

「おやすみ」

「うん、おやすみ。今日はありがとね」

「ん。お前俺以外の奴のベッドに素直に入るなよ」

「いくらなんでもそれはしないよ」

 染太くんだから一緒でも平気なんだよ。言わないけどね。

 そもそも染太くんのベッドに入るのは、これが初めてじゃない。


 高校の時、一度だけ。

 仲のいい友人達と染太くん家ーー実家の方。すんごい大きな平屋建てだったーーに泊まったことがあった。

 夏休みの課題をするために集まってーーみんなほぼ染太くんのを丸写しにーーそこに台風がぶつかって、まれにみる大型の台風に、染太くんが心配したのだ。

 二人づつ部屋割りをしてあまったあたしは一人で。寂しいから染太くんの部屋に押しかけてーー危険性を考えてない? そうとも、そんなの思いつきもしなかったさ! 染太くんの好みから確実にずれてると思ってたもん。

 あきれた染太くんは、それでも紳士的につき合ってくれて、そして。

 先にダウンしたのはあたしだった。

 うろ覚えながら、染太くんがベッドに運んでくれたのはわかった。

 頭を撫でてるその手のあったかさにへにゃりと笑った記憶もある。

 だから、あたしの記憶力は確かだとは思う。思うけど、自信がない。

 だって、染太くんにキスされたなんてどう考えても夢だとしか思えないし。

 何度もされるその唇の感触に、力が抜けた。

 夢でもいいと思った。

 好きな人に触れられるなら、夢でもかまわないと妄想でもいいと心底願って。

「芽以……」

 掠れた声にこもった想いは間違いじゃないと信じた。


 身体中に触れる大きな手に、唇に反応して跳ねる肩を腰を、なだめるみたいに撫でられて。

 意思に反してあふれる涙をやさしく拭われた。

 そっとそこに触れる手は少し震えて。それ以上に震えるあたしの中に小さくない刺激を与えた。

 キスされながら中を解されて、あふれてきたなにかに怖くなって。

 しがみついた、思ったよりがっちりした身体は、あたしをぎゅうっと抱き締めて。

 ゆっくり入ってきたそれの圧迫感に息が止まって。

 優しく、だけど容赦なく揺さぶられるその痛みと、痛みじゃないナニかにパニックにを起こして。

 あたしは意識を手放した。





染太くんがどるほどヘタレなのかは、あんなことしといて未だ恋人じゃないから(笑)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ