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旅の終わり

 戦いは熾烈を極めた。何人もの冒険者が命を奪われる中、俺たちパーティーは奮戦した。そして、かなりの活躍ぶりを見せた皆の力のおかげもあって、無事にこの窮地を脱することができたのだった。

 

「ふいー、流石に疲れるわ」


 俺が額の汗を拭う真似をすると、それに釣られてか他の面々も疲れをにじませながらもくったりと座り込み始める。

 

「ご主人さま、疲れました……」


 トゥーリらホムンクルス達も、同じように座り込む。その状況の只中で、一人平気な顔をして立っているものが。ディーだ。

 

「なかなか手応えはあったけど、どうにか撃退出来たわね」


 手をパンパンと叩いて汚れを落とすように一人呟くディーに、向かって、俺はーー。

 

 立体魔法陣カストを起動していた。

 

「な、何をするのマサヤ!?」


「そうよマサヤ、気でも狂ったの!?」


 ぎょっとするディーと、ラウラだったが、俺はその言葉に取り合わずディーだけを睨んで問いかけた。

 

「ディー。お前、魔王軍の関係者だろ?」


 俺の言葉に、ビクリと震えるディー。しかし、そんな反応はなかったかのようにディーは俺にこびたように笑う。

 

「あはは、何を言い出すかと思えば、そんなこと――」


「あるよな? さっきのモスゴブリンとの戦い。俺たち人間と対峙した時と、お前とでは明らかに態度が違っていた。それはどう説明する?」


「そ、それは、私の力に恐れをなして――」


 しかしそんなディーの言葉を遮り、俺は首を振った。

 

「ディー、俺はこれでも勇者なんだぜ? 相手の本質を見抜く力だって備えてる。お前が魔族なのも、もうとっくにバレてるんだ」


「くっ――」


 ディーは悔しそうに呻きながら、一度うつむいたかと思うと、顔を上げ、不敵に笑った。

 

「いつから気づいていたの?」


「最初からだ。一目見たときから人間とは違うということは解っていた。だから、ずっとお前の事を注意していたんだ」


「そう、もう隠しても無駄ってことね――」


 彼女はそういうと、一瞬で全身を覆う突風に巻かれたかと思うと、その真の姿をあらわにした。

 

「私こそが魔王。魔王ディスラード14世だ。よくぞ見抜いたな、勇者よ」


 未だ起動中のカストを前に、魔王は堂々と名乗りを上げた。余りの急展開に、周囲の人間はついてこれなくなっている。

 

「さて、魔王さんよ。ようやくご対面出来たところで、俺から一つ提案がある」


「提案だと? 私をこの場で滅却すれば、人類は勝つのだろう? さあ、やってみろ! 魔王が勇者に負ける――それが世の理だというならば、従うまでのことだ!」


 大仰に手を広げ、自ら俺のカストを受け入れるように宣言した魔王に。俺は、片手で頭をガリガリとかいて呆れたように罵った。


「全く、何勘違いしてんだ!! 誰もそんなこと言ってねえだろうが!」


「えっ?」


 虚をつかれたようにポカンとした魔王に、俺は言ってのける。

 

「ここには魔王がいる。そして、その最前線で戦っている国の王まで揃っている。なら、やることなんて一つだろ?」


「なるほど、王と私とで決着をつけるということか」


「だーっ!? なんでそうなる!? 俺は、お前たち魔族と和平を結ぶための交渉のテーブルに着けって言いたいんだ!」


 その言葉に慌てたのは、オッサンだった。

 

「ま、まてマサヤ! いきなり和平交渉だと? 今この場で討ち取れば我ら人類の勝利ではないか!」


「やってみろよ、オッサン。その時には――俺が新しい魔王となる」


 極大の殺気に反応するように、俺の維持しているカストが一回りズンと大きくなる。その破壊力を知っているオッサンは、ひっと短く悲鳴を上げながら後退った。

 

「マサヤ、あんたが人類の敵になるっていうの?」


 比較的落ち着いた声音のライラに、俺はけっと悪態をつくように吐き捨てた。

 

「もうたくさんなんだよ!! 殺し、殺される世界。永遠に奪い合う世界。果てしない憎悪の連鎖。断言するぞ、今ここでこの魔王を仕留めたところで、魔王軍は総力をあげて人類領に攻め込むだろうな。全面戦争になって勝った方が得られるのはなんだ? 大きく損耗した同胞を大量に抱え込んで、飢餓に苦しむ人民か!? そんなもの、俺が許しはしない!! もう嫌なんだ、俺は!! 何もかも消え失せ、ただ一人焦土に佇むなんて孤独は!! イヤ……なんだ……」


「マサヤ……」

 

「ご主人さま」


 俺はいつの間にか頬が濡れているのを感じた。それが、自分でも知らない内に流れ出た涙とは気づくのに少々の時間を要した。

 

「ふ。ふふふ、ははは!! まさか、人類、魔族共通の最強の敵が勇者だとはな!」


 さもおかしそうに、魔王は笑った。

 

「いいだろう。どの道このままでは人類、魔族双方ともにただではすまぬ。私自ら、交渉の場につくことをここに誓おう」


「だ、そうだ。どうする、国王さんよ」


 俺の呼びかけに、事情を知らない冒険者が数名ぎょっとしていたが、国王はふーっと長く重い溜息をつくと、俺を恨めしげに睨んだ。

 

「全く、つくづくお前等呼ぶのではなかったと後悔しておるよ。この世界のことは、この世界の住人でやれ、か? 自分の言葉すら覆すとは、大した勇者だよ、お前は」


 嫌味を言われたがどこ吹く風、俺はニヤリと笑い返した。

 

「こんな格好の機会を捨ててたまるかよ。俺は、好機を逃がす男じゃないんでね」



 かくして、世界を二分していた魔族と人類の戦いはあっけなく終焉を迎えた。国王と魔王の会談は滞りなく進み、お互いの領有権に多少の時間を割いたが、それも呆気なく片付いた。会談を見張っていた俺がイライラに任せてカストを出現させたのが効いたのだろう。こうして戦争は終わり、魔族は大人しく自領にこもり、人類もまた決められた領界を出ることはなかった。

 

 それから数週間後。終戦パレードが行われ、この世界についに平和が訪れたのである。とはいっても、犯罪者やモンスター等の脅威はまだまだあるし、完全な平和とは言えないが。少なくとも、無駄な争いが起きることはなくなったのだった。

 

 それからのこと。ホムンクルス達は俺の世界についてくると言って聞かなかったが、それが不可能であることを告げると、絶望した表情を浮かべていた。しかし、俺はそんな彼女たちをライラに託すことにした。初めこそ酷い扱いをしていたが、今ではすっかり打ち解けて、彼女らの寿命が尽きるまでの面倒は任せろと請け負ってくれたのだ。

 

 肩の荷が降りた俺は、ようやく自分の世界に帰ることになった。見送りには王族総出、ホムンクルス達や騎士たちの姿も見える。

 

 ただの見送り――そう思っていたが、ライラがすっと前に出てきて、ポツリとつぶやいた。

 

「ねえ、本当に――帰っちゃうの?」


「ああ、ここは俺がいていい場所じゃない。俺のやり残した事も終わった。あとは、お前たちに任せる」


「そんな――」


「ライラ」


「何よ」


 ちょっと拗ねたようにそっぽを向きながら、彼女が返事をする。俺はそんならしい姿に苦笑しながら、言葉を続けた。

 

「俺が次に遊びに来るまでに、いい国にしとけよ?」


「――っ! も、もちろんよ!! アンタがびっくりするくらい素敵な国にしてみせるんだから!」


 泣き笑いのような表情で、ライラは、最後に一言つぶやいた。

 

「またね、伝説の勇者様」


 ――かくして。俺の後悔と雪辱を晴らすための、第二の異世界旅行は、終わりを告げたのであった――。

ただただ、収束のみを目指した終わりです。

ご覧いただきありがとうございました。

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