2日目 どうしましょう。
大変お待たせしました、2話目の投稿です。
※改稿以前からお読み頂いている方は全くお話が変わっていますので
1話からお読みください。
明けて翌日。早速謁見の間とやらに呼び出されて行ってみると、この国の文官や武官等の重要人物らしき人々が俺をうさんくさそうな眼で見てきた。他にも昨日は見かけなかった数の衛兵が厳重に周囲を取り囲んでいるが、それを指示したであろうおっさん自身無駄だとは想っているのだろう。俺にとってもその方が都合がいい。そして昨日の事はなかったことにして、改めて自己紹介から始まった。
「よくぞ我等が召喚に答えてくれた、救世主殿。ワシが国王のアルバート・デリカだ」
「よくぞおいでくださいました。娘のラウラ・デリカです。昨晩は良く眠れましたか?」
何気ない言葉の中に毒を織り交ぜつつ微笑むラウラ。今の言葉の正しい意味はよくもやりやがったなこの野郎で間違いないはずだ。
「我が国の状況を説明しよう、勇者殿」
そしておっさんから、この世界の状況とやらを聞かされた。
今、この世界には2つの大陸と6つの国家があるらしい。
2つの大陸を分ける長大な川、パントリー川を境に、西側の大陸にはカトラリー聖王国、グラス公国、ヴァイン帝国。大陸の東側にはギャレー王国と、ここデリカ王国、そしてディスラシア魔王国。
「現在、我がデリカ王国とギャレー王国が人類圏の盾となってディスラシア魔王国に対抗している状態だが、如何せん状況が余り良くない。そこで藁にもすがる思いでお主を召喚させてもらった」
「ディスラシア魔王国ってのはどんな国なんだ」
俺様キャラを作っているので、仕方なしにわざと横柄な態度を取る。おっさんはぴくりとヒゲを震わせたが特に言及はせずに、俺の質問に答えをくれた。
「魔族達が支配する、魔の国だ。そこへ行って生きて帰ってきた者はおらん。歴代の勇者達以外はな」
真っ直ぐに俺を見つめながら言い切るおっさん。しかし魔族ねぇ……。
「魔族ってのは人間とは違うのか?」
「あのような者共と一緒にしないでもらおうか!」
続けての質問に応えたのはおっさんではなく、右手側の列に並んでいた武官の一人だった。見るからに鍛え抜いてますと言わんばかりにごつい身体に重そうな鎧を着こなし、立派なあごひげを蓄えた偉丈夫が吠えかかってきた。
「大体先程からなんだ、貴様の態度は! それが王族に対するものか、この無礼者!」
それを見て慌てたのはラウラだ。
「良いのです、バルト! この方は救世主なのですから、ここは特別に私の顔に免じて……」
「しかし!」
「お願いします、バルト。ここは抑えてください」
ラウラの懇願にバルトと呼ばれた男はようやく折れる。
「それで、聞きたかった答えなんだが」
「ああ、そうであったな。魔族の特徴はその耳が多少尖っている、肌が異様に白い、そして目を引く特徴は側頭部に生えている角と、胸元にある魔核だな」
おっさんの答えに、俺はよく解らずにまた尋ねた。
「魔核ってのはなんだ?」
「魔核というのは、……そうだな。お前、救世主殿に魔核を見せよ」
おっさんが部屋の隅に控えていたメイドさんの一人を呼びつけた。
「かしこまりました」
「えっ、このメイドさん魔族なの?」
思わず演技も忘れて素で驚いた俺に、おっさんは首をふる。
「そうではない。その説明も後でする」
「そうか」
そして俺の目の前にやってきたメイドさんは、くるりと反転して背中を向けてくる。そして服の襟首をぐいとひっぱって肩甲骨の辺りを俺に覗かせるように押し広げた。一瞬ぎょっとしたが、更に驚いたのはそのメイドさんの背中の肌に直接埋め込まれるように光を反射する綺麗な薄緑色の鉱石だった。
「それが魔核だ。その者はホムンクルスなので、背中についている。だが魔族はそれが前側、胸元にあるのだ」
「じゃあ、魔族とホムンクルスは同じ種族なのか?」
「……一説にはホムンクルスの祖を生み出したのが魔族だとも、神が魔族に似せてホムンクルスを作ったのだとも言われている。もう何百年も前の話で真相は解らないがな」
……たかだか数百年前の記録がないのだろうか? 地球にだって中世ヨーロッパの時代には、既に紀元前の記録や伝承が残されているというのに? 俺はどこか納得のいかないものを感じたが、それに対する答えは得られそうになかったので、黙っていた。
「なるほど。それで俺の具体的な役目は?」
「まずは旅をしてもらう。先程話に出てきたカトラリー聖王国、グラス公国、ヴァイン帝国、ギャリー王国のそれぞれの王に会ってもらわねければならぬ」
おっさんの説明に俺は待ったをかける。
「おいおい、ちょっと待てよ。今は前線が不味いんじゃなかったのか? そんな悠長なことしてる場合なのかよ」
俺の反論に、おっさんは眉間に深いシワを刻んで呻くように答えた。
「ワシとて出来るならば一刻も早く前線に出てもらいたいが、そうはいかぬ理由があるのだ」
「理由って?」
「いまある正当王家全ての代表に認められた者しか勇者として“機能”しない、と言われている」
「うん? どういう意味だそれは」
「言葉のままの意味だが? 認められぬ者、勇者としての資質に欠けている者は決して魔王を討ち果たす事が出来ぬと、そう伝承に残されている」
「迷信か?」
「いいや、残念な事に事実だ。我が王家に伝わる古文書にも、他王家に伝わる伝承も全て一致しているのだからな」
これは……、面倒な事になった。俺はここを出れば多少は演技せずに済むと思っていたのに、他王家の前でも同じ振る舞いをしなければいけないとは。正直に言って疲れるだろうし、何よりバレると不味い。俺が難しい顔で唸っていると、何を勘違いしたのかおっさんはなだめるように取り繕った。
「そう難しいことではない。正統王家の者にあってパパっと祝福の呪印を授かるだけだ」
「パパっとって、簡単に言うけど、俺様が勇者です、そうですかではこちらへって、簡単に行くものなのか?」
「ワシの書状を持てばよかろう。今代の王達に苛烈な者はおらぬ。ワシも何度か顔を合わせた事があるからな」
そうか、よくよく考えれば俺の企み通りに行けば何の問題もないんだった。これはいらない心配をしてしまったと想い、苦笑いだ。
「解った。それじゃあ今から行くのか?」
「その前にお主の身分を確定させねばならぬ。悪いがもう少し待ってくれ」
気が逸る俺を引き止め、おっさんが合図をすると俺の目の前に、透明な水晶球のような魔道具が台座に乗せられて運ばれてきた。
「なんだこれ」
「まあ、勇者様はご存知ありませんか? これはステータスを測る魔道具ですよ」
「なっ!?」
俺は絶句し、思わず運ばれてきた目の前の爆弾を見つめしばし思考が固まってしまう。
「流石に勇者様でも初めて見るようですね。使い方もお教えいたしましょうか?」
ここぞとばかりに嫌味を連発する姫の言葉も頭を素通りしていくほどに俺は焦っていた。ヤバイ、ヤバイヤバイ! これでステータスを測って実は大したことがないなんてバレたら、あの王族二人の態度が一気に変わるのは目に見えている。今までの腹いせに何されるか解ったものでもない。
「使い方は流石に解らんな。どうすればいい?」
内心の焦燥をおくびにも出さないで、ポーカーフェイスを保つ。初めて俺が教えを乞うた事にラウラは一瞬口端を釣り上げかけたが、にこりと微笑んでささやかな毒を吐いた。
「勇者様のお役に立てて光栄ですわ。その魔道具に手をかざして、オープンステータスと唱えてください」
その程度の意趣返しに一々腹を立てたりはしないが、俺はどうしたものかと脳内で目まぐるしく考えをまとめようとした。割と必死だった。
「……? どうされたのですか、勇者様」
ラウラが怪訝そうに俺の顔を伺ってくる。何かを探るというよりは、純粋に疑問に思っての行動なのだろう。俺はこれ以上誤魔化す術を思いつかず、半ばヤケになりながら手をかざし、呪文を唱えた。
「オープンステータス」
すると、目の前の何もなかった空間に半透明なスクリーンのような物が1つ出現し、文字が羅列されていく。異世界召喚のお約束か、俺にもこの世界の文字が読めるようになっており(そもそも最初から会話は出来ていたわけだが)一応その内容を確認していった。
名前:加苅 聖也
種族:人間
性別:男
年齢:17
職業:召喚されし者
レベル:1
HP:60/60
MP:50/50
知力:35
腕力:40
敏捷性:35
体力:40
魔力:50
スキル
異界の魔術 LV???
この世界の理を凌駕する異世界の魔術。
称号
救世の勇者
終わった。俺の本当の力が白日の下に晒されてしまった。俺のステータスを見て、官僚達はざわざわとざわめいている。当然だろう、恐らくのこの世界の平均的な人間のステータスと遜色ないのだから。
「こ、こんなデタラメな事があるのですか、お父様!?」
ラウラもまた俺のステータスを見て顔色を変えていた。それは怒りによるものか、頬が紅潮して眼尻を釣り上げていた。
「このステータスであのような芸当が出来るはずは……」
一方のおっさんは納得がいかないのか、しきりに首をひねっている。
先程無礼だ何だと息巻いていたバルトとやらを窺うと、嘲弄するように俺を見下していた。粋がっていた相手が取る足らないと知ってさぞかし気分が良いのだろう。
「オホン! と、とにかくマサヤ殿のステータスは解った。これからの旅、辛く長いものになると思うが心くじけぬように」
いっそ哀れみすら滲ませる声でおっさんがそう締める。
オッサンの一声に、ざわついていた観衆は次第に落胆の声へと変わっていった。実に現金なものだが、現実的な脅威を取り去ってくれるかもしれないという期待があったのだから仕方ないかもしれない。ある程度場が落ち着いてから、再びオッサンが旅立ちを促してきた。
「それではマサヤ殿。改めて魔王を討滅する為の旅に出てもらおう」
そこで、俺は昨日の内に考えていたある事を実行に移すことにする。
「旅に出るのはまあこの際しょうがない。だが、流石に一人は嫌だ。死んでしまう」
「ふむ……確かにこのステータスではな。誰か連れて行きたい者でもおるのか? 救世の旅だ、誘われた人間も否とは言わぬだろう」
俺はもうダメ元で、しかし表面は今更意味のない余裕を装って演技を続ける事にした。
「良かったよ、そう思ってくれて。じゃあ、アンタとアンタ、一緒に来てもらおうか」
そうして俺が指差したのは、ラウラと、オッサンだった。指名された二人は呆気に取られ、同時に口をぽかんと開けて間の抜けた声を上げた。
「「はぁ……?!」」