【ラン】
何でこうなるんだよ。
「はぁ、」
俺はジャージに着替え、ため息と共に部室を出た。
「おっ!準備万端、そのみなぎるやる気は青春の灯火、さぁ手始めに走ろう。」
準備万端って、俺は何も準備してませんけど。
どっちかと言うと、
「心の準備がまだ…」
「何か言ったかい?丘山くん。」
「いや、何も、」
「よしっ。着いてきたまえ!」
結構、強引だな、拓也先輩。なんかどこからも悪気が感じれないっつーか、真っ直ぐっつーか、めんどくさいっつーか。
由香「すっかり気に入られたようね。」
樹「なんか、そうみたいですね。久々に見たなぁ、丘山の走ってるところ。」
樹はそういうと少し微笑みを浮かべた。
由香「ふーん、そっかぁ、真矢の青春はもう動きだしてるみたいね。青春ガンバ!」
樹「ゆっ由香先輩!ちょっとおちょくらないでくださいよぉ!」
由香「あははっ、ごめんごめん、」
樹「もぉー!」
おい、樹交代だっ、お前が走れ。あと一回でも由香先輩の美しい笑い声が聞こえたら、選手交代だっ。
この蒸し暑いキャプテンは樹、責任を取ってお前が相手をしろ。
拓也「時に丘山くん。」
丘山「はっはい!」
拓也「何かスポーツはしていたのかい?結構、基礎が出来上がった体格に見えるが。」
丘山「野球を小学、中学終わりまでやってました。」
拓也「野球かぁ、一つのボールに幼少期の思い出を捧げた訳だ。どれ程の練習をしてきたかは、身体を見ればわかるよ。立派、立派。」
丘山「そんなカッコいいもんじゃありませんよ。嫌な思い出ですよ…」
拓也「そうかなぁ、まっ、何があったか聞くほど、僕と丘山くんとの絆はまだ固くなさそうだ、これから絆を深めて、いつか話しておくれ。」
丘山「いつか話してって、まだここに入部したわけじゃ、」
拓也「あっそうだね、こりゃ失敬。てへぺろ。」
いやっ、わかってないだろ、絶対。
拓也「うん!身体も暖まったところでボールを使ってキャッチボールをしようか。由香!ボール一個こっちにくれっ!」
由香「はいさぁ、真矢ごめん、ボール、キャプテンのところに持ってって。」
樹「はいさぁ!」
拓也「おっ!ありがとう真矢さん。」
何でお前が来るんだよ、由香先輩指名だろうが。
空気を読め、そして、解読し、俺の元へ由香先輩をっ、
拓也「行くぞ、丘っ!」
丘山「はっはい!」
バシッ!
これが、ハンドボール用の球か、バレーボールの球を一回り小さくした感じかな、握りづらいな、つーかキャプテン今、丘って言ったよな?
ヤバイぞ、急激に距離を縮められてるような。
このままだと、めんどくさい事になりそうな。
拓也「ナイスキャッチ、よしっ!丘っち、今度は投げてくれ。ヘイ、パス。」
おっ、丘っちとは誰だ、俺か。
恥ずかしいだろ、由香先輩に聞こえたら、
樹「早く投げなよ、お、か、っ、ち!」
いっ樹っ、お前という奴は…
丘山「樹、頼む。今は、今だけは俺の視界に入らないでくれ。」
樹「なんでよ。」
丘山「お前に全力でボールを投げてしまいそうだ。」
由香先輩が俺を見て、笑っている。
樹よ、お前をもう友と呼べなくなるかもしれない、俺が喋らなくなったら、それは、精神が崩壊したという合図だ。
つづく