【イレギュラー】
俺は高校では部活に入らない。
俺のスポーツ人生は中学3年の大キライな野球で幕を閉じた。
それが何でだよ、何でこの汗臭い体育館でハンドボール部の見学なんだ?
全ては、隣に居る、プチ幼馴染みの樹のせいなんだが。
俺の高校生活は、勉強とゲームと少しの恋に成就するはずだったのにっ。
「ほらっ?行くよ丘山。」
「はぁ…見学だけなんだよな。」
「そうよ。別に見学=入部って決まりはないんだし、いいじゃん。」
まぁ、そうだな。樹が何でハンドボール部の見学に来たのかはわからないけど、付き合ってやるか。
帰れそうにもないしな。
「おっ!新入生だな!見学ありがとう、存分に我がハンドボール部の熱気を体感していってくれ。申し遅れたが、私は競作高校ハンドボール部主将の鈴芽拓也だ、宜しく。」
うぉっ、ちょっと暑苦しそうな人だ。
「私は1年A組の樹真矢です。宜しくお願いします。」
「俺は1年D組の丘山です。」
「真矢ぁー!本当に来てくれたんだね。」
「由香先輩っ!来ちゃったよぉ、由香先輩のお誘いじゃ断れないですよぉ。」
なんだ、この美しいお方は、
「おい、樹、その、そちらの方は。」
「あっ、君が真矢が言ってた子ね。歓迎するわ。私はここのマネージャーをやってます、3年の立花由香宜しく。真矢は挨拶抜きでもいいね。」
「もちろんっす。由香先輩っ。」
綺麗だぁ、綺麗以外のところが見つからない、そう言えば真矢が言ってた子って、樹変な事言ってないだろうな。
「おーい!お前ら足止まってるぞ、次ランパス!2年もっと声だせ!」
「拓也、あとは私が、見学生案内するわ、て言ってもどうやら今年の見学生はこちらの二人だけみたいだし。」
「そうだな、それじゃ、由香、真矢さんの事頼む。えっと丘山くんは俺だな。今怪我とか調子悪いとことかない?」
「いや、別にありませんけど…」
「よしっ!サイズはソトと同じくらいか…外ヶ谷っ!ジャージ貸せっ!あと着替えようのシャツ何でもいいから。」
「おぃっす!」
「はいっ、これ、そこの部室で着替て。」
「えっ!?でも見学だけなんですけど、着替える必要ないような。」
「丘山くん、これも何かの縁だ。例え君が入部する、しないにしろ、この体育館での時間はかけがいのない青春だ。僕と共に汗を流す事は青春とは呼べないかい?もしそうなら謝るよ、今まで僕達がここで送ってきた時間は青春とは呼べないのなら。」
「いや、そういう訳じゃ、」
断れないだろっ、そんな言い方されたら。
それに由香さん。
「真矢ぁ、相変わらず彼氏いないの。」
「由香先輩みたく綺麗じゃありませんから!」
「あははっ、変わんないねぇ真矢は。」
俺も仲間に入れてくれ、由香さん。
樹、この恨みは大きいからな、学食3回はおごってもらうぞ。
「なら問題ないね。さぁ着替えて。」
「は、はい。わかりました。」
何故、見学だけのはずが、部室で着替えてるんだよ、それにあのキャプテンめんどくさいだろ、あぁもうっ!
「ちゃっちゃと終らして腹痛いとか言って帰ろっ!」
「丘山っ、あんた、嘘ついて帰ったら学食5回おごってもらうからね。」
「うわっ、樹何でいるんだよ。」
「あらっ!丘山くんいい上半身してるわね。ウフッ。」
「由香さんまで!」
「ここが部室ね、真矢。次は倉庫案内するから。ごめんね丘山くん覗いちゃって、期待してるわよ。さぁ真矢。」
「丘山っ逃げたら、承知しないから。」
樹のやろう、くそぉー!しかも由香さんに上半身見られたぁ、恥ずかしいけど、由香さんになら全部見せてもいいかも。
「なんか気持ち悪い顔+鼻血でてますけど。」
「げっ、まだ居たのか樹、早く行けよ。」
「青春、ガンバっ!」
「うるせぇっ!」
俺は今ジャージを来てる。脱スポーツ人生を背中に掲げた制服を脱ぎ捨て、暑苦しそうな青春に袖を通し、絶望というジャージのチャックを閉め、希望という由香先輩の美しさを心に焼き付けながら。
つづく