小話 遠くに在りて想うもの
「ねぇ、先生」
プライムが、すり鉢を扱ぎながら、キールに声をかけた。
薬棚の中身を確認していたキールは、振り返らないまま、返事をする。
「何?」
「先生は昔、オウリツガクインって場所にいたんでしょう?」
「通ってたね。それがどうした?」
「その学校は、とっても大きな街にあるって聞いたよ。どんな場所?」
キールは眉を顰めた。気を悪くしたわけではなく、考え込んでしまっているのだ。
プライムは後ろからでも解るその気配に、苦笑してしまう。
小さな笑い声が聞こえ、シルフィーラが現れた。キールの代わりに答える。
「石造りの…こことは違う意味で、綺麗な都よ」
「シルフィも、知ってるの?」
「ええ。キールは、ローゼンハーツに住んでいたから」
シルフィーラはプライムの前で身を屈めた。にっこりと微笑む。
「お城もあって、城壁があって…外壁から街を見下ろすと、町全体がタイル模様みたいなとっても綺麗な街。色んなお店もあって…ないものはない場所ね」
「…でも、亜人種はハクガイされてるんでしょ?」
シルフィーラの身の上話は聞いている。
亜人種は奴隷扱いだ。貴族が金で売買して、どんな酷い扱いをしても、法には触れない。
彼女は首を傾げた。
「今は、それほどでもないはずよ」
そう言って、振り返る。
キールは溜息を吐いた。
「法改正があったからな。表向き、奴隷売買は禁止されている」
「おもてむき?」
「直後に街を出てしまったからね。今どうなっているのか、知らないんだ」
腕組みをして棚に体を預け、彼は言った。
プライムは不思議そうにキールを見上げていた。
「先生、帰らないの?」
キールはシルフィーラと顔を見合わせた。それから、困ったように笑う。
「僕が居なくなったら、ここが困るだろう?」
どこか寂しそうな笑み。
プライムは首を傾げる。
彼女は知らない。
彼らが、どんな想いであの都を後にしたか。
年老いた…恩ある人を、一人置き去りにして。
お読み頂き、ありがとうございます。
次の更新は来週になると思います。
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なんか脂汗が出てきた……;;




