小話 村のお仕事
地方の村医者ともなれば、ある程度の薬は自分で調合しなければいけない。
庭に広大な薬草園を持ち、膨大な薬学知識を持つキールにとって、そんな事は造作も無い事だった。しかし、見習いにはそんな簡単な話ではない。
「それは解熱剤…こっちは化膿止め用……その根っこは鎮痛剤。それから、この二つを8:2の割合で混ぜ合わせると、喘息の薬になる……」
キールが説明しながら、薬の調合をしている。そのまま使うものもあれば、天日に干して、乾燥させたものもある。
プライムはその量に、既に目を回していた。
「えっと、これが解熱で…こっちが……?」
「全部無理に覚えなくていい。覚えられる範囲で覚えなさい」
淡々と、何処までもマイペースに、彼は言う。
しかし、プライムにも意地がある。拾ってもらって、養ってもらって、更に教えてもらっているのだ。言われた言葉は一度で覚えたいのである。
彼女はくらくらしながら、何度も何度も、出来上がったものと原料を見比べる。
キールの口元に、微かな笑みが浮かぶ。
あらかたの薬が調合し終わって、幾つものビンにつめられた。物によっては更に小分けにされ、小さな紙に包まれる。
その中に、見慣れないものを見つけた。小さなビンに、乳白色の液体。
プライムはそれを取り、キールを振り返る。
「ね、先生。これは?」
キールはそれを見て、低い声で言った。
「…それに触るんじゃない」
プライムは思わず身を竦めた。怒鳴られたわけでもないのに、体中から血の気が引く。
キールが、彼女の手から小瓶を取り上げる。
「ご、ごめんなさい……」
悪い事をしたかのように、怯えながらキールの様子を窺う。
彼は眉を顰めた。
「すまない。怖がらせるつもりは無かった」
キールは手の中で、小瓶を転がす。
「これは、毒なんだ」
「…毒?」
プライムは首を傾げる。
何故毒物が、薬棚に一緒にしまってあるのか。そんなものを、何故キールが持っているのか。
疑問が脳裏を駆け巡る。
「…だけど、使い方を間違わなければ、優秀な麻酔になる」
「麻酔?麻酔用の薬なの?」
「そうだ。だけど、一歩間違えれば、精神を破壊する強力な毒でもあるんだよ」
ビンを元の場所に戻す。それから棚を閉じた。
プライムを見下ろす。
「…君も、これからそういう薬を眼にすることもあるだろう。実際に使う事もあるかもしれない。だけど、まだ駄目だ」
プライムの表情が僅かに歪む。
だが、更に続けて言われた言葉に、思わず噴出す事になる。
「あれは高いんだ」
完結済みですが、こんな小話を数話、更新予定です。




