魔王二人
さて、俺はレンを連れてギルドに舞い戻った。
もちろんレンの登録のためだ。
俺たちは未だに倒れているおっさんを無視して受付のおばさんにレンの登録を頼み、今は待機中だ。
そのあいだに色々な話を聞いた。
レンがこちらに来たのは半年ほど前、と言ってもGMにあった日は俺と同じだった。
またこう言うトリップものの王道としては俺たちはゲーム時代より過去か未来に飛ばされるのが普通だが年号は同じだったそうだ。
そして、他に誰かが送られてきた気配はないが俺がこっちに来たとき何か巨大な力が現れたのを感じたそうだ。つまり誰か来たら気づけるということだ。
そして最後に、この世界には俺たちの存在を知る人物は誰ひとりとして存在しないということだった。
レンは最初モンスターの集落を目指したそうだ。
その時道すがら出会ったモンスターと話をしたところ、モンスターはより強いモンスターに従うが魔王なんてのは魔族を収めている奴のことだ、と言われたそうだ。
そのため集落に行くのを断念。
金や装備はゲーム時代に一般プレイヤーを倒して奪ったものや、NPCの村々から略奪したものが山ほどありそれを使って細々と生きてきたそうだ。
そして、俺がこっちに現れた時の巨大な力を探して放浪していた所うまく出会えたというわけだ。
「いや~こっちに来たのがあの【聖騎士】様とかでなくてよかったよ~本当に」
レンがお茶をすすりながらそう呟いた。
レンの言った【聖騎士】様とはゲーム時代打倒魔王と叫び、勘違いから俺たちがいる国の魔王さまに切りかかり斬首されたり、低レベルのくせに1000のモンスターに襲われる村を救うイベントに参加して真っ先に食われたり、モンスターであれば他とえ魔物使いの所有するモンスターすら殲滅対象であらゆるプレイヤーから嘲笑と怒りと憎しみと嫌悪を込めて【聖騎士】様(笑)と呼ばれている人物のことだ。
ちなみに俺がこっちに来る直前のモンスター大進撃イベントの際は「せめてステの一つかレベルカンストさせて来い、それが無理なら十万過因してレア武器でももってこい」と言われてた。
そしてこれまた余談だが風俗に通いまくっているらしく一部では【性器氏】様(笑)とも呼ばれているとかなんとか。
「あれがこっちに来たとしても真っ先に殺されて終わりだろ、死亡回数だけなら大したもんだからな」
件の聖騎士様は絞回数ならカンストしている。
というか死亡回数カンストはさほど珍しくない。
ただし、個人成績欄には二種類の死亡回数が記されている。
痛覚のオンオフだ、これでおんの状態でやればステータスは飛躍的に伸びる。
俺はどっちもカンストさせてあるけど痛覚をオンにした状態のが圧倒的にステータスの伸びが良かった。
その勢いはざっと三倍位。
そして聖騎士様は痛いのが嫌いらしく痛覚オフでプレイしているらしい、以前一回個人成績を見せてもらった際に痛覚オンでの死亡回数は7と微妙な数字で止まっていた。
詳しく聞いたところうっかり痛覚をオフにするのを忘れていたらしい。
「それでもほかならぬアヒトとで当て良かったよ……いや~心細かった」
「俺も知り合いがいて嬉しいよ、何もないところに放り出されてちょっと泣きそうだったんだ」
「泣くなら胸でもかそうか?」
「泣かないけど是非頼もう」
「すけべ」
「スケベで構わんからその胸で抱いてくれ」
そう言って俺はレンの手を握った。
正直なところ相当心細かった。
それを紛らわせたかったのもあるが何より知人がいたことに安心した。
そしてそれ以上に、自分以外に不老不死がいたことに安堵した。
ゲーム内の設定が生かされているなら俺は間違いなく不老で、能力的に不死だ。
それはレンも同じで不老のキャラクターにして不死の能力を持っている。
少なくともこれで、どちらかが離れようとしない限り永遠を共に過ごすことになるのだろう。
「この女たらしが……宿についたら……ね?」
そう言って顔を赤くしたレンはとても可愛らしかった。