魔王様
さて、俺が今いる国には魔王がいる。
魔王と言っても『魔族のいる国を収めている王様、略して魔王』というだけで変身もしなければ特別強いわけでも世界の半分をくれるわけでもない。
一応同様にまおうと呼ばれる存在は……ゲーム時代にはこの王も合わせて三人いた。
そのうち一人はこの王様、残りふたりはPCだ。
一人はモンスター、おい今残りはPCだろと思うかもしれないがこのゲームはモンスターとしての生も選べる。
もっとも、そうなるとモンスターテイマーと言われる魔物使いの仲間になるか、人型に化けるかしないと街には入れないしまともな装備もない、なにより食べ物がまずいしたまに捕食されるのだ。
だがこのモンスターの生にはほかとは違う利点があった。
それは強くなることで群れのリーダーとなり、夏と冬に来る発情期に好きなモンスター同士 (自分を含む)を交配して新たなモンスターを作り出せる。
この交配は季節になるとPCがモンスター側にいなくとも勝手に行われて春と秋に大進撃というクエストになる。
たいていの場合人間側が勝利するが、ある時を境にモンスター側の白星が増え始めた。
それがモンスター側の魔王の誕生である。
このゲームはひと月ひと季節、つまり四ヶ月で一年となっているのだが途方も無い歳月を経て魔王は最強のモンスターとなった。
まず魔王は転生に転生を重ねて上級モンスターナイトメアに転生した。
本来転生システムは自分のレベルとステータスを初期化して種族を変えるシステムだ。
しかし、モンスター側の場合ステータスの1%を引き継いで別のモンスターに転生できるようになる。
この時選べるモンスターはレベルによって異なるがナイトメアはカンストレベルで選べるという話だ。
この時なんども転生をしていたためナイトメアとなった魔王はレベル1にしてレベル100のプレイヤーとまともに戦える程のステータスを持っていた。
とはいえナイトメアの本領はステータスの高さにはない、というか本来ならナイトメアのステータスは低い。
問題はその能力、【夢移動】と【夢喰い】の二つ。
これは睡眠中のキャラクターのもとへ移動できるスキルと、夢ごと相手の魂を奪う、どこぞのボールに収めるモンスターが使う技そのまま相手にダメージを与えつつ自分の体力を回復できるというものがあった。
とはいえ魔王はこの能力はもっぱら移動用としていた。
そして、そんなステータスでまた長い歳月を費やして何度も交配をした。
厄介と言われたモンスターの特性はすべて吸収し、結果最凶PCベストスリーに選ばれるようになった。
そして、最後の三人目の魔王は……期待させて申し訳ないが俺。
魔族最強ということで魔王の称号をGMからもらった。
うん、そのステータスの上げ方から最凶PCベストスリーに俺もいたりする。
それで魔王ツートップとか笑いものにされたりもしてる。
以上が魔王についてなんだが……俺は今ちょっと困ったことになってる。
俺はギルドを出て普通にショッピングを楽しんでいた。
楽しんでいたんだけど……事件が起こった。
それはある少女に話しかけられたことから始まった。