心の電話
「何してたの?」
『ん、映画見てた。明日返却しなきゃいけない映画のDVD、まだあったの忘れててさ』
「そっか。映画好きだもんね。どんな映画? またアクションもの?」
『いや、ホラーサスペンスみたいなの。男の浮気に逆上した女が化物になって主人公を襲ってくるんだ。本当は女の方の誤解で、男の方は全くの無実だったのに』
「何それ、全然面白くなそうじゃない」
『いや、これが結構面白いんだよ。女の化物が突然現れたりとかベタな脅かし方してくるんだけど、すれ違いがあって切ないとこもある』
「へぇ……どうする? 私もそんな風に化物になって襲ってきたら」
『そうだな。笑ってお前なにやってんのって冷静に突っ込むかな』
「つまんないの」
『内心ビクビクでガタガタ震えてるだろうけどね。ただでさえ恐ろしいお前が化物になったら、全米を恐怖で震撼させられるんじゃないか?』
「もう、ひどい」
『ごめん、そろそろ映画に集中したいから、電話切ってもいい?』
「あぁ、うん。特に用があったわけでもないから。明日も仕事頑張ってね。映画に熱中し過ぎて夜更かしして遅刻しないようにしなよ?」
『うん。悪いな。愛してるよ』
「ふふっ、私も。じゃあね」
『酷いのね。嘘ばっかりじゃない』
「え? 何のことだか」
『とぼけちゃって。本当嫌な男』
「何と言われ様が知らないね。俺は誰も傷付けてないじゃないか」
『……ねぇ、嘘っていうのはね、いつか絶対にバレるものらしいわよ?』
「そうかな。俺はもう彼これ一年こうして過ごしてるけど、バレたことはおろか、浮気がバレそうになったこともないよ」
『バカね。彼女の方がずっと気付かないフリをしてて、貴方を泳がせてるのかも知れないわよ?』
「そんなまさか。彼女は鈍感で純情なんだ。俺が浮気をしてるなんてきっと夢にも思わないよ。俺が好きだと言ってやれば愚直にその言葉を信じるに決まってるさ」
『……貴方を見てると、男って本当に馬鹿なんだなって実感するわ』
「そんな馬鹿な男に惚れたのはお前だろ?」
『……ふふっ』
『定時連絡?』
「そんなとこだね」
『お前も変わってるよな。そんな馬鹿な男、早く切ればいいのに。面倒なだけだろ?』
「だって、彼と結婚すれば将来安泰だし。給料もいいし、会社もいいしね。離婚とかになっても、慰謝料ふんだくれるし。私にとっていいこと尽くめだもん」
『悪い女だな。そいつ、お前がこんな女と知らずに付き合ってるんだろうな……』
「そうじゃないと困るよ。ずっと鈍感で純情な女の子演じてきたんだから。好きって言ってもらえるだけで、満足しちゃう馬鹿な女をね」