夢
「待ってた。」
きみは昔と変わらない笑顔で笑う。
「ねぇ、三田、よしや、名和さん借りていい??」
「え、」
「名和さん行くよ。」
ぎゅっと握られた手が熱い。
「どこいくの?」
「今日塾あるの??」
逆に聞かれた。
視線を自動販売機からそらさないきみ。
「ないよ。」
ぼくを見る前に笑顔になって、ぼくに向かって嬉しそうに微笑む。
「本屋。」
それだけ言うときみはまた視線をそらして
「あついなぁ…。」
そういった。
電車でいくつか乗った先に大きなターミナル駅がある。
副都心の異名を持つ、日本でも有数の大ターミナル。
「どこの本屋行くの?」
「んー…、Libros かなぁ…、あんまり時間ないし。」
電車の中は涼しくて、気持ちがいい。
けどきみはそんなことより外に興味があるようで、窓ばかり見てた。
ぼくも外をみる。
「…ここの風景ってさ、なんだか悲しいよね。」
きみの目は見えない。
どうして?
その言葉は誰の耳にも届かない。
ぼくを逃がさないように握られていた手は、電車に乗ったときに開放されてた。
さっきまでのぬくもりはもうない。
「人多すぎ。」
きみのつぶやきにぼくも一言。
「普通だよ。」
「しってる。」
きみのふくれつら。
「…なつかしいなぁ。」
「名和さん。好きな本ある?」
「んー…、ひみつ。」
「なんで?」
きみの黒い瞳がぼくを見つめる。
「言ったらひくから。」
ひかないよ。
きみの声が響く。
「ひかないよ。」
ほら言った。
「おねがい。教えて。読みたい。」
「わかったいいよ…」
「今日はありがとう。たのしかった。」
いつもみたいにきみがぼくを改札まで送る。
「たのしかった。」
きみはぼくの目を見ない。




