表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/14

第8話

前回のあらすじ


過酷な「地獄の修練」を終え、夕闇に包まれた王城の中庭で休息をとる仁とキュア。

メイド・セラピーの鬼気迫る指導に心身ともに削られた仁だったが、隣に座るキュアと語らう中で、話題は再び聖なる山『星祈峰せいきほう』へと及ぶ。

「自分のに対する願いは叶わず、相応の代償を払う」というこの世界の山のルールが、かつて仁がいた世界の言い伝えと奇妙なほど一致していることに気づく二人。

驚きを隠せない仁は、重い口を開き、自らの過去を告白し始める。それは8年前――まだ幼かった彼が、何かを捨ててでも叶えたいと願い、あの山へ登った夜の記憶だった。

キュアが、弾かれたように仁を振り向いた。


「本当か? おぬし、あの山に……」


「ああ。小学生だった頃さ」


仁は自嘲気味に、記憶の断片を手繰り寄せた。


「たった一人の幼馴染が、重い病気になってさ。

ずっと、窓のない病院のベッドにいたんだ。俺は

学校をさぼって毎日お見舞いに行った。でも、どれだけ祈っても病気はちっとも良くならなくて」


子供の純粋さは、時に残酷なほどの行動力を生む。


「本気で信じてたんだ。山に登りさえすれば、あいつが助かるんじゃないかって」


仁は空を仰いだ。星が一つ、また一つと瞬き始めている。


「必死だった。息を切らして、転んで膝を血まみれにして。泣きながら、それでも頂上まで登りきった。そして――願ったんだ」


「何を、願ったのじゃ」


キュアの声が、震えているように聞こえた。


「『あいつが幸せに、笑顔になりますように』って。ただ、それだけ」


キュアの指が、ドレスの裾を強く握りしめた。


その震えに、仁は気づかない。


「でもさ、結局願いなんて、ただの気休めだったよ」


仁は肩をすくめた。


「幼馴染は死んだ。病気が治ることもなく、静かに。……俺が代償に何を差し出そうとしたって、現実は何も変わらなかった。だから、もう」


仁は、決別するように山から目を逸らした。


「願いなんて、信じてないんだ。奇跡なんて、この世にはない」


キュアはしばらくの間、石像のように黙り込んでいた。


そして、今にも消えてしまいそうなほど小さな、けれど確かな意志を孕んだ声で呟いた。


「……そうか」


キュアの瞳が、星祈峰を見つめる。


そのサファイア色の瞳には、冷徹なまでの決意と、深い慈しみが同居していた。


「仁」


「ん?」


「もし」


キュアは、真っ直ぐに仁の瞳を射抜いた。


「もし、本当に願いが叶うとしたら。今の、おぬしは何を願う?」


仁は、淀みなく答えた。


「何も。俺に、願う資格なんてないしな」


迷いのないその答えに、キュアは悲しそうに、けれど慈しむように笑った。


「そうか……。おぬしは、本当に、どこまでも優しいのう」


「?」


「なんでもない」


キュアは勢いよく立ち上がり、ドレスを翻して城の方へと歩き出した。


「そろそろ戻るぞ。メディシナが夕食を冷まして待っておる」


「おう」


仁も立ち上がり、彼女の隣に並んだ。


二人の後ろ姿を、遠くの星祈峰が冷ややかに、けれど静かに見下ろしている。


次回公開は

3/19(木)21:00〜

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ