第4話
――前回のあらすじ――
余命一年の宣告を受け、絶望の中で眠りについた高校生・河西仁。しかし、目を覚ますとそこは見たこともない星空が広がる異世界だった。困惑する仁の前に現れたのは、自らを王女と名乗る金髪の少女・キュア。「わらわの護衛になれ」という彼女の強引な誘いに戸惑いながらも、仁は圧倒的な存在感を放つ巨大な城へと連れられていく。
城に到着した仁を待っていたのは、医療従事者のような雰囲気を纏ったメイドたち――メディシナ、クリニカ、セラピー、メディカだった。彼女たちから不審な目で見られながらも、キュアは「こいつには素質がある」と仁を護衛に任命する。
その直後、仁を激しい胸の痛みが襲う。異世界に来ても「余命一年」という過酷な現実は変わっていなかった。苦しむ仁の姿を見たキュアは、どこか悲しげな表情を浮かべながらも、「おぬしならきっと強くなる」と力強く宣言する。見知らぬ世界、見知らぬ少女。しかし仁は、キュアの言葉や仕草に、なぜか懐かしい既視感を覚え始めるのだった。
メイドたちの視線が一斉に仁に突き刺さる。仁は慌てて両手を振った。
「いや、違います。俺はただ、目が覚めたらあそこにいて……」
「何が違うのじゃ」
キュアがむっとしたように頬を膨らませる。
「いや、勝手に決めないでくれ。
俺にそんなスキルはない」
すると、先ほどの眼鏡の女性が、一歩前に出て静かに頭を下げた。
「私はメディシナと申します。姫様のお世話と、この城の管理を任されております」
続いて、他のメイドたちも次々とぺこりと頭を下げた。
「わたしはクリニカです。お食事の管理を担当しています」
「セラピーと申します。姫様のお心のケアを」
「私はメディカ。怪我の手当ならお任せください」
仁は唖然とした。
メディシナ、クリニカ、セラピー、メディカ。
この城は一体、何を目的としている場所なのだろう。
メディシナが、探るような視線でキュアに尋ねた。
「姫様。この少年が護衛とのことですが、剣も杖も持っていないようですが」
「これから鍛えればよい。素質はあるはずじゃ」
「あまりにも無茶な……」
メディシナの呆れ声に、仁も同意しようとした。
「そうですよ、俺は……」
その時だった。
「っ……!」
突然、胸の奥を熱い杭で打ち抜かれたような衝撃が走った。
ドクン、と心臓が暴力的に跳ねる。
「はっ、……く……」
肺から空気が消え、視界が急激に暗転していく。
仁はたまらず、冷たい石畳に膝をついた。
「仁様!?」
いち早く異変に気づいたメディカが駆け寄ってくる。
仁は荒い呼吸を繰り返しながら、自分の胸元を強く掴んだ。
忘れていたわけじゃない。
ただ、この世界の美しさに一瞬だけ麻痺していたのだ。
自分は――あと一年で死ぬ、病人なのだということを。
「……大丈夫だ。いつもの、持病みたいなもんだから」
絞り出すような声で、仁は苦笑した。冷や汗が頬を伝い、地面に落ちる。
キュアが、仁のそばにしゃがみ込んだ。
さっきまでの勝ち気な表情は消え、そこには悲痛なほどに心配そうな、年相応の少女の顔があった。
「……仁。おぬし、どこか悪いのか?」
彼女の問いに、仁はうまく答えられなかった。
キュアはしばらく、黙って仁の顔を見つめていた。
その瞳の奥には、憐憫とは違う、もっと深い、静かな色が浮かんでいる。
「そうか。……おぬしも、そうなのじゃな」
ぽつりと漏らした声は、夜風に消えてしまいそうなほど寂しげだった。
だが、次の瞬間。
彼女は力強く立ち上がった。
「やはり、決めたぞ」
「……何を、さ」
「おぬしは、わらわの護衛じゃ」
仁が反論しようとするのを、キュアは鋭い視線で制した。
「拒否権はない。おぬしをこのまま放り出すわけにはいかぬ」
「……なんで、そこまで俺に構うんだよ。出会ったばかりだろ」
「なんとなくじゃ。だが……」
キュアは少しだけ目を細め、遠い記憶の断片を辿るように微笑んだ。
「おぬしなら、きっと強くなる。わらわにはわかるのじゃ」
その言葉。その微笑み。
仁の胸が、先ほどの痛みとは違う意味でざわついた。
初めて会ったはずなのに。
この少女の声も、その勝気な性格も、どこかで知っているような気がしてならない。
キュアが振り返り、月の光を浴びて白く輝く城を指差した。
「ようこそ、わらわの国へ」
次回(第5話)は本日の22時頃に投稿します。




