第3話
――前回のあらすじ――
余命一年を宣告され、絶望の中で眠りについた河西仁。しかし、目を覚ました彼を待っていたのは、見慣れたアパートの天井ではなく、見たこともない星々が輝く異世界の空だった。
混乱する仁の前に現れたのは、月光のような金髪を持つ少女、第一王女のキュア。 彼女は突如として仁に「わらわの護衛になれ」と命じる。 病に侵され、生きる目的を失っていた仁だったが、キュアの強引な誘いと「とびきり面白い人生を見せてやる」という言葉に、運命の歯車が動き出すのだった。
夜風が静かに草原を揺らしていた。
ざわざわと波打つ草の音だけが、世界の広さを強調するように響いている。
その真ん中で、河西仁は呆然と立ち尽くしていた。
目の前には、月光を反射して輝く金髪の少女。
自分のことを「王女」だと名乗った少女――キュア。
彼女は、まるで「明日の天気は晴れだ」とでも言うような気安さで、とんでもないことを口にした。
「おぬし、わらわの護衛になれ」
「……いや、ちょっと待て」
仁はこみ上げてくる頭痛を抑えるように、片手で額を押さえた。
「まず、状況を説明してくれ。ここはどこだ。君は誰だ」
キュアは不思議そうに首をかしげる。
「状況? 見ての通り、わらわが助けてやったところじゃが」
「そうじゃない。俺はさっきまで、日本のアパートで寝てたんだ。四畳半の、狭い部屋で」
「にほん?」
「そう、日本。……つまり、ここじゃない別の世界だ」
キュアはしばらく、形の良い眉をひそめて考え込む仕草を見せた。
やがて、ポンと手を打つ。
「ほう。なるほど、異世界から来たのか」
「理解が早いな!?」
仁は思わず声を荒らげてツッコんだ。
普通、そんな話をされたら狂人扱いするか、少なくとも激しく混乱するはずだ。
だが、キュアはそれどころか、宝石のような瞳を細めて楽しそうに笑っている。
「面白いのう。まさか、本当におぬしのような者が来るとは思わなんだ」
「……本当に来るって、どういう意味だ?」
仁が眉をひそめて問い返したが、キュアは答えなかった。
代わりに、重厚なドレスの裾を翻してくるりと背を向け、遠くにそびえる城の方へ歩き出す。
「ついてこい。話は歩きながらでもできる」
「いや、まだ何も納得してないんだけど」
「護衛なのじゃろ? ならば主の後ろを歩くのが道理というものじゃ」
「なってないってば!」
しかし、キュアは振り返りもせず、凛とした足取りで進んでいく。
「安心せい。わらわはおぬしを気に入った。悪いようにはせぬ」
月明かりに揺れる金髪。
その背中には、年不相応な、どこか不思議な威厳があった。
結局、仁は毒気を抜かれたように、その後ろを追いかけるしかなかった。
「……俺、何やってるんだろ。夢なら早く覚めてくれよ」
近づくにつれ、城の全貌が明らかになっていく。
それは想像を絶する巨大さだった。
空を突くような高い塔、幾重にも重なる堅牢な門。
ファンタジー映画のセットを何十倍にも豪華にしたような光景に、仁は息を呑んだ。
巨大な門をくぐると、すぐに数人の女性がこちらへ駆け寄ってきた。
「姫様!」
「ご無事でしたか、キュア様!」
全員、統一されたメイド服のような服装をしている。
しかし、仁が知っているそれとは少し雰囲気が違った。
フリルや飾りは控えめで、清潔感のある白が基調。
どこか医療従事者のような、静かで落ち着いた空気を纏っている。
その中の一人、眼鏡をかけた知的な雰囲気の女性が、仁を見て目を丸くした。
「……姫様。そちらの方は、どなたでしょうか。あまり見かけない装いですが」
キュアは誇らしげに胸を張った。
「わらわの護衛じゃ」
第4話は本日22時、もしくは明日の18時頃に投稿します。




