第2話
――前回のあらすじ――
余命一年を宣告された高校生・河西仁。
過去に家族や大切な幼馴染を失い、「死」をどこか受け入れていた彼は、静かな絶望の中で日常を過ごしていた。
そんなある夜、かつて願いをかけた伝説の山を思い出しながら眠りについた仁。
「もし、もう一度人生があるなら――」
その小さな願いを胸に抱いたまま、彼の運命は大きく動き出そうとしていた。
その瞬間だった。
世界が、ぐらりと、大きく揺れたのは。
凄まじい目まいに襲われ、三半規管が狂い、意識が激しく揺さぶられる。
「……っ!?」
慌てて目を開いた。
だが、そこに広がる光景は、見慣れたアパートの安っぽい天井ではなかった。
頭上に広がるのは、濃密な群青色の夜空。
しかし、それは知っている日本の空ではない。
見たこともない巨大な天体が重なり合い、星々が宝石をぶちまけたように狂おしく輝いている。
仁は、呆然としながら上半身を起こした。
手のひらに触れるのは、湿った草の感触。
下には古い石畳が続いている。
視線を遠くへ巡らせれば、そこには雲を突き刺すような巨大な城がそびえ立っていた。
白亜の塔がいくつも立ち、魔法の光のような淡い輝きを放っている。
「……どこだよ、ここ。夢、にしては……」
草の匂いも、肌を刺す夜風の冷たさも、あまりに生々しい。
混乱する仁の背後から、不意に鈴を転がすような声が響いた。
「ほう……。天から人間が降ってくるとは、珍しいこともあるものじゃ」
心臓が跳ねた。
振り返った仁の瞳に、ひとりの少女の姿が飛び込んでくる。
月光をその身に宿したような、輝く金髪。
年齢は自分と同じくらいに見える。
だが、その佇まいは明らかに「普通」ではない。
細かな刺繍が施された贅沢なドレスを纏い、腰には装飾の施された短剣を下げている。
少女は、サファイアのような瞳で仁をじっと観察し、やがて満足そうに唇を吊り上げた。
「おぬし、名は?」
「……河西、仁」
圧倒され、反射的に本名を答えていた。
少女は一つ頷き、自らの胸に手を当てて、凛とした声で宣言した。
「わらわの名はキュア。この王国の第一王女じゃ」
仁は言葉を失った。
王女。
異世界。
ファンタジー。
頭の中の辞書にない単語が、現実として目の前に立っている。
「それで、仁よ」
キュアは楽しそうに笑い、一歩、仁の方へ歩み寄る。
その瞳には、退屈を吹き飛ばすような強い光が宿っていた。
「おぬし、わらわの護衛になれ」
「……は? いや、意味がわからない。俺はただの病人で……」
「案ずるな」
キュアは仁の言葉を遮るように言った。
金色の髪が夜風に踊る。
「わらわが、おぬしの止まった時間を動かしてやろう。その瞳の曇りを晴らし、とびきり面白い人生を見せてやる」
その言葉は、まるで運命の契約のように、仁の心に深く突き刺さった。
余命一年の少年と、孤独な異世界の王女。
色彩を失ったはずの仁の視界に、金色の光が差し込む。
二人の、そして世界の運命を変える物語は、この眩い星空の下から始まった。
――次回、第3話予告――
異世界に迷い込んだ仁を待っていたのは、強引すぎる王女キュアの「護衛任命」!?
戸惑う仁をよそに、物語は一方的に動き出す。
巨大な城へと導かれ、現れる謎多きメイドたち。
しかしその矢先――仁の体に異変が走る。
忘れていた“余命”という現実。
そして、それを見つめるキュアの瞳に宿る、ある決意とは――。
「おぬしは、わらわの護衛じゃ」
運命に抗う少年と、何かを知る王女。
二人の距離が、少しだけ近づく。
――その出会いは、偶然か、それとも必然か。




