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第14話

――前回のあらすじ――


昼間の特訓と、裏庭で交わした重い過去の独白。


心身ともに疲弊しているはずの仁だったが、冴え渡る意識の中で、王女・キュアの残像を拭えずにいた。


そんな静寂の夜、廊下に響く怪しい足音。


仁が扉を開けると、そこには忍び足で逃げようとする、挙動不審な金髪の少女の姿があった。



「な、なな、なぜ起きておるのじゃ!?」


動揺するキュアが腕に抱えていたのは、昼間に屋台で買った甘い焼き菓子。


厳しい健康管理をかいくぐり、夜食を貪ろうとする王女の「密かな愉しみ」を、仁は見事に暴いてしまう。



「王女というのも、不自由なものなのじゃぞ」


観念したキュアと共に、月明かりの窓辺に腰を下ろす二人。


昼間の「運命の誓い」とは打って変わった、どこか可笑しくも穏やかな夜が更けていく。


だが、この何気ない日常の裏側で、仁の命の火は静かに、けれど確実に削られ続けていた――。

カサリ、と袋を開け、中から丸い焼き菓子を一つ取り出す。


「仁」


「ん?」


「……食べるか? 一人で食べるよりは、毒見役がいた方が安心じゃ」


「それ、ただの誘いだろ」


仁は苦笑しながら、彼女の隣に腰を下ろした。


差し出された菓子を受け取ると、まだほんのりと温もりが残っている。


一口かじれば、優しい甘さが口いっぱいに広がった。


「……うまい」


「じゃろう? 秘密の味は格別なのじゃ」


キュアは嬉しそうに目を細めた。


夜の静かな廊下。


月明かりの下で肩を並べて菓子を食べる。


そこには王女と護衛という垣根を超えた、奇妙な連帯感があった。


しばらくして、キュアが遠くの星空を見つめたまま、ぽつりと問いかけてきた。


「仁。……ここに来たこと、後悔しておるか?」


その問いに、仁は少しだけ考えた。


余命一年の命。元の世界。失った日常。


けれど、今の自分を突き動かしているのは、絶望ではなかった。


「……してないよ。むしろ、こっちの方が面白い」


「本当か?」


「本当だ。元の世界じゃ、ただ死ぬのを待つだけだったから。……それに、キュアにも会えたしな」


その瞬間、キュアの菓子を運ぶ手が止まった。


「……そうか」


彼女は小さく呟き、伏せた瞳を僅かに震わせ

た。その横顔には、月光よりも淡く、切ない微笑みが浮かんでいる。


だが、その平穏を打ち砕くように、仁の胸に

「それ」が走った。


「……っ、……あ、ぐっ……!」


焼け付くような、鋭利な激痛。


肺が潰されたように呼吸が止まり、仁はたまらず窓枠に手をついて崩れ落ちた。


「仁!?」


キュアが弾かれたように立ち上がり、仁の肩を支える。


「大丈夫だ、ちょっと……胸が、つかえただけで……」


「嘘を申せ! 顔色が紙のように白いぞ!」


キュアの叫びは、静かな廊下に悲痛に響いた。


彼女の手が、仁の腕を強く、痛いほどに掴んでいる。


その瞳は、今にも涙が溢れ出しそうなほどに潤んでいた。


仁は、薄れゆく意識の中で少しだけ驚いた。


「……なんで、そんな顔するんだよ。たかが護衛が、ちょっと具合悪くしただけだろ」


「たかが……じゃと?」


「俺のこと、そんなに心配か?」


キュアは一瞬だけ絶句した。


そして、月明かりの下で、絞り出すような声で言った。


「当たり前じゃ。おぬしを失うことなど、わらわが許さぬ」


その声は、かつてどこかで聞いたことがあるような、絶対的な誓いの響きを持っていた。


「おぬしは……、わらわの、ただ一人の……」


キュアは言いかけて、唇を噛んだ。


そして、無理に作ったような震える笑みを浮かべる。


「……わらわの『護衛』じゃからな。主を一人にするなど、許さぬぞ」


「……へいへい。わかったよ、姫様」


仁は、ようやく落ち着いてきた呼吸を整えながら、力なく笑った。


だが。


自分を支えるキュアの小さな手は、いつまでも、いつまでも、激しく震え続けていた。


――次回公開――

3/21(土)10:00〜


※土日祝は6本投稿します。

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