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第12話

――前回のあらすじ――


メイド・セラピーによる死線ギリギリの特訓に明け暮れる仁。逃げ場のない運命に抗うように木剣を振るう彼のもとへ、嵐のような王女・キュアが再び現れる。

「修行は終わりじゃ! 遊びにも全力なのじゃ!」

連れ出された先は、城の最奥にひっそりと佇む、鏡のような池がある裏庭。琥珀色の夕闇に包まれた静寂の中で、二人は束の間の休息を得る。

ふとした拍子に、仁は心に秘めていた「元の世界」の記憶を語り始める。それは、病に倒れた幼馴染の少女と、果たせなかった「山に登る」という約束の物語。

「……結局、俺一人で登ることになったんだ」

仁の独白を、静かに聞き入るキュア。その脳裏に浮かぶ面影と、現在いまの二人が重なり合う。語られた過去の傷跡は、異世界で交差する二人の運命に、さらなる波紋を広げていくのだった――。

キュアが、ドレスの裾をぎゅっと握りしめる。


「山から降りて、急いで病院に戻った。でも……、そいつはもう、どこにもいなかったんだ。白いシーツだけが、冷たく残ってて。それが、最後だった」


静寂が降りる。池の波紋が消え、世界はより深い静寂に包まれた。


キュアがぽつりと、掠れた声で問いかけた。


「……仁。その幼馴染のこと、好きだったのか?」


「さあな。ガキの頃の話だ。恋だったのか、それともただの執着だったのか。……でも、俺にとっては、一番大事な奴だったよ。あいつがいない世界なんて、想像もできなかったくらいには」


キュアは深く目を伏せた。


その長い睫毛が、夕闇に濡れているように見えた。


「……そうか。おぬしにとって、そんなに……」


その時、唐突に「それ」がやってきた。


「……っ、……ぁ……!」


心臓を焼けた鉄串で貫かれたような、鋭利な激痛。


視界が急激に色を失い、仁はたまらず胸を押さえて前屈みになった。


呼吸が、肺の手前で止まってしまう。


「仁!? 大丈夫か、仁!」


キュアが悲鳴に近い声を上げ、仁の肩を支えた。


「はっ、……ふぅ、……大丈夫だ。ちょっと、疲れが……出ただけだ」


仁は震える手で地面を掴み、無理やり微笑みを作った。


だが、額には冷や汗が滲み、唇は青ざめている。


余命一年のカウントダウンは、無慈悲にその速度を上げているようだった。


キュアは何も言わず、仁の隣に寄り添うように座り直した。


そして、柔らかな手で仁の背中を、まるで壊れ物を扱うようにさすった。


「仁、無理はするな。……わらわが、そばにおるから」


その声は、いつもの傲慢な王女のものではなかった。


染み通るような慈愛に満ちた、どこか切ない響き。


(……なんだ。この感覚)


仁はふと、隣の少女を見つめた。


「なあ……。俺たち、前にどこかで会ったこと、あるか?」


キュアの身体が一瞬、硬直した。


時が止まったような数秒の後、彼女は困ったように、小さく笑った。


「……ないぞ。おぬしのような無礼な男、一度会えば忘れぬわ」


「……だよな」


「じゃが」


キュアは空を見上げた。


一番星が、群青色の空に鋭く輝き始めている。


「もし、どこかで会っていたとしたら。わらわは、絶対に忘れておらぬ。……たとえ世界が変わっても、おぬしのことだけは、見つけ出してみせる」


その言葉は、誓いのようでもあり、祈りのようでもあった。


次回公開

3/20(金)21:00〜

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