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冒険者ギルド

 冒険者ギルドは、街の中心にあった。

 石造りの建物は思ったよりも大きく、正面に掲げられた剣と盾の紋章がやけに目立つ。


 扉の向こうからは、ざわめきと金属音、笑い声が漏れてきていた。


「……ここ、か」


 一度、深呼吸をしてから扉を押す。

 中に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。


 酒と汗、鉄と革の匂い。

 あちこちに立つ冒険者たち。

 壁一面に貼られた依頼書――クエストボード。


 それはまるで、かつてぼくが好きだった小説や漫画の中の世界、そのままだった。


(……すごいな)


 思わず、口元が緩む。

 現実感がないのに、不思議と胸が高鳴る。


 ここは、物語の始まる場所だ。

 そんなことを考えながら周囲を見回して歩いていると、不意に肩に衝撃が走った。


「……あっ、ごめんなさい」


 反射的にそう口にする。

 視線を上げると、そこに立っていたのは一目で分かる熟練の冒険者だった。


 傷の入った鎧、使い込まれた剣。

 背は高く、無駄のない体つき。

 男は一瞬だけぼくを見てから、興味なさそうに言った。


「クエストの依頼なら、あっちだぞ」


 そう言って、ギルドの奥にあるカウンターを指差す。


(……あ)


 村人か、依頼人だと思われたらしい。


「い、いえ……違います。冒険者になりに来ました」


 慌てて否定すると、男は動きを止めた。

 値踏みするような視線が、頭の先から足元までをなぞる。


 その目に、敵意はない。

 ただ、現実を知る者の冷静さだけがあった。


「……悪いことは言わねえ。遊びなら、帰った方がいい」


 諭すような声音だった。


「冒険者は、そんなに甘くねえぞ」


「……遊びじゃありません」


 自分でも少し意外なほど、はっきりと言葉が出た。

 男は一瞬だけ目を細め、それから小さく溜息をつく。


「そうか」


 さっきとは違うカウンターを指差し、ぼくの横を通り過ぎる。


 すれ違いざま、軽く肩を叩かれた。


「無理はすんなよ」


 それだけ言い残して、男はギルドの奥へと消えていった。

 その背中を見送りながら、ぼくは胸の奥に残った言葉の重さを、まだ正確に掴めずにいた。


 指示されたカウンターで、冒険者登録を行う。

 受付嬢は慣れた手つきで説明を始めた。


 冒険者には等級があり、最初は紙等級。

 仮登録のようなものだという。


 見習いみたいなもので単独行動は禁止と言われ、手渡されたのは、薄い紙のライセンス証だった。


(……紙、か)


 破れやすく、燃えやすい。

 なんとなく、自分に似ている気がした。


 続いて、クエストボードについての説明を受ける。

 その途中、ふと視線を上げると、ボードの前に立つ男の姿が目に入った。


 ――さっきの冒険者だ。

 彼は依頼書を眺めながら、ちらりとこちらを見る。

 視線が一瞬だけ交わり、すぐに逸らされた。


 何も言われていないのに、胸の奥が少しだけざわついた。


「最後に説明です」


 受付嬢の声で我に返る。


「紙等級の冒険者が受けられるクエストは、認定試験のみになります」


 認定試験。

 冒険者として最低限の力があるかを確かめるためのものらしい。


「それと……この試験は、パーティでの参加が必須です」


 パーティ。

 その言葉に、心臓がわずかに跳ねた。


「ちょうど、同じタイミングで登録された神官の方がいらっしゃいますが……ご一緒にいかがですか?」


 人と組む。

 関わる。

 支え合う。


(……できるだろうか)


 人との繋がりは、正直得意じゃない。


 それでも――。

 この世界で、生きていくなら。


「……お願いします」


 そう答えていた。


 受付嬢はにこりと微笑み、奥に向かって声をかける。


「ソフィアさーん!」


 その名前を聞いた瞬間、記憶が蘇る。

 昔好きだった異世界漫画。

 お気に入りのヒロイン。


 神官で、同じ名前。

 銀色の髪に、碧色の瞳。

 あどけなさの中に、強い意志を宿した少女。


(……まさか、ね)


 そう思った直後。

 受付カウンターの向こうから現れた人物を見て、ぼくは言葉を失った。


 そこに立っていたのは――。

 まるで、その漫画から飛び出してきたかのような少女だった。


 銀色の髪。

 澄んだ碧色の瞳。

 柔らかな表情の奥に、確かな芯を感じさせる眼差し。


 偶然にしては、出来すぎている。


「はじめまして。ソフィアです」


 差し出された手を前に、ぼくは一瞬だけ固まり――。

 それから、ゆっくりと手を伸ばした。


 物語は、確かに動き始めていた。

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