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確かに、誇らしかった

御言の言葉が落ちた直後、ソフィアとマリアは一度だけ互いの顔を見合わせた。


ほんの一瞬。

だが、そこに迷いはなかった。


「よろしく頼むよ」


マリアが先に、いつもの調子で言う。


「こちらこそ、よろしくお願いします!」


続いて、少しだけ声を弾ませたソフィアが頭を下げた。


あまりにも自然な受け入れ方だった。

拍子抜けするほど、あっさりと。

それがかえって、御言の胸の奥をくすぐる。


「じゃあさ、受けるクエスト変えないとな!」


マリアが早速、クエストボードの方を振り返りながら言った。


「この討伐とか、ちょうどいいんじゃない?」


「……いえ」


被せるように、ソフィアが首を振る。


「まずは、先ほど見ていた依頼で連携の確認をしましょう。組んだばかりですし」


「慎重だなあ」


「慎重で悪いことはありません」


性格は正反対だが、衝突することもない。

そのやり取りを眺めながら、御言は不思議な心地よさを覚えていた。


(……こんなに、すんなり決まるものなんだな)


最終的に選ばれたのは、畑を荒らす害獣の駆除。

野生の猪の狩猟だった。


「手続きしてくる!」


そう言い残して、マリアはカウンターへと小走りで向かう。

残されたのは、御言とソフィアの二人。


一瞬だけ、空気が張りついた。


「……急に誘って、迷惑じゃなかった?」


思わず、御言が口にする。


「全然大丈夫です」


ソフィアは即答だった。


「むしろ、嬉しかったです。御言さんと組めるなら」


少し早口で言い切ってから、はっとしたように口を閉じる。


「……あ、すみません」


「いえ」


短く答えながら、御言は胸の内で安堵していた。

ほどなくしてマリアが戻り、三人はギルドを後にする。


街を抜け、畑へ向かう道中。

自然と話題は、それぞれの役割に移っていった。


「私は前衛だな。今は剣と盾だけど、得意なのは斧だから戦士ってやつ」


マリアが自分の胸を軽く叩く。


「私は神官です。後衛で回復と補助を」


「……御言は?」


問われ、御言は一瞬だけ言葉に詰まった。


「……クラス、無いんだ」


「無い?」


「そもそも、条件もよく分からなくて」


恐る恐る言うが、二人は顔を見合わせるだけだった。


「クラスって、自分で決めるもんでしょ?」


マリアが首を傾げる。


「得意な役割を名乗るだけだよ。剣と盾なら騎士、魔法なら魔法使い、みたいな」


御言は腰に下げた剣に、無意識に触れた。


(使える、とは言えない)


ただ、不死に任せて振り回しているだけだ。

技量でも、誇れるものでもない。


「……自分で名乗れるようなものが、無い」


そう告げると、二人は気にした様子もなく頷いた。


「まあ、実戦で分かるって」


「今はそれで大丈夫ですよ」


拍子抜けするほど、軽い反応だった。

やがて依頼主の農家に到着し、話を聞く。


猪の出没地点を確認し、三人は物陰に身を潜めた。


しばらくして、草を踏み荒らす音。

現れたのは、大きな野生の猪だった。


マリアが静かに回り込み、合図を送る。

同時に、御言は姿を現した。


「――っ」


猪が驚き、突進してくる。

御言は、避けなかった。

身体全体で受け止める。


衝撃。

牙が、掴み損ねた右手を貫いた。

だが、御言は眉ひとつ動かさない。


その間に、マリアの斧が振り下ろされる。

猪はそのまま、地面に崩れ落ちた。


「御言さん!」


ソフィアが駆け寄り、回復魔法をかける。

光が手を包むが――傷は塞がらない。


「あれ? また⋯⋯」


「ごめん」


御言は静かに言った。


「思想反転:メメント・モリ」


御言が呟くようにスキルを発動する。

穿たれた掌が何もなかったように、いや――穴も、血も本当に何もなかったことになった。


もとに戻った御言の掌を、二人は言葉を失ったまま見つめていた。


先に動いたのはソフィアだった。


「……え……?」


震える指先で、恐る恐る御言の手に触れる。

さきほどまで確かに貫かれていたはずの場所に、傷跡はおろか、血の滲みすら残っていない。


「回復……じゃ、ない……?」


呟くような声。

ソフィアの視線が、御言の顔へと上がる。


「今のは……何を……」


「スキルです」


御言は簡潔に答えた。


「正確には……死を、なかったことにする、みたいな」


言葉を選んでいるつもりだったが、説明としてはあまりに投げやりだった。


マリアが、無言のまま御言の手首を掴む。

ぐい、と引き寄せ、ひっくり返し、角度を変えて覗き込む。


「……冗談、だよな?」


「冗談なら、よかったんですけど」


御言は困ったように笑った。


「回復魔法が効かないのも、そのせいで。傷は治らない。でも――」


言葉を切り、掌を開く。


「最後に、これを使うと、全部消える」


「全部って……」


マリアの声が低くなる。


「さっきの突進、正面から受け止めてたよな。牙、思い切り刺さってた」


「刺さってましたね」


御言が所在なさ気な表情で答える。


「……痛くなかったのか?」


御言は一瞬考えたあと、首を横に振った。


「苦痛は完全耐性があるので⋯⋯最初から、感じません」


ソフィアが、息を呑む。


「じゃあ……怖いとかは……」


「それも、恐怖に対して完全な耐性が⋯⋯」


沈黙が落ちる。

風が草を揺らす音だけが、やけに大きく聞こえた。


マリアは御言の手を離し、後頭部をがり、と掻いた。


「……なるほどなぁ」


深く息を吐き、いつもの調子に無理やり戻す。


「そりゃ、あんな無茶な壁役もできるわけだ」


「マリアさん……」


ソフィアの声には、責める色と、不安が滲んでいた。


「でも、それって……御言さんが……」


「大丈夫です」


御言は、遮るように言った。

その声音は落ち着いていて、感情の起伏は少ない。


「死なないので」


その言葉が、逆に二人の胸を締めつけた。

マリアは御言の背中を、いつものように叩こうとして――やめた。


代わりに、少しだけ力を込めて、肩に手を置く。


「……なあ」


「はい」


「それ、もっと早く言えたよな」


「……たぶん」


「でも、言いづらかったんだろ」


御言は答えなかった。

否定もしなかった。


ソフィアが一歩前に出る。


「……教えてくれて、ありがとうございます」


「驚かせて、ごめんなさい」


「驚きましたけど……」


ソフィアは一瞬だけ視線を伏せ、それから真っ直ぐに御言を見る。


「でも、黙られてるより、ずっといいです」


その言葉に、御言の胸の奥が、ほんの少しだけ軽くなる。


「……とりあえずさ」


マリアが空気を切り替えるように言った。


「今はクエスト完了だ。帰って報告しよう」


「……そうですね」


御言は頷いた。


「詳しい話は、そのあとで」


三人は、倒れた猪から討伐証明の牙を剥ぎ取り、街道へと歩き出す。

不死という異質な真実は、まだ完全には飲み込まれていない。


だが、それでも――拒まれてはいなかった。

御言は、その事実を静かに噛みしめながら、二人の背中を見つめていた。


依頼達成後、感謝を受けてギルドへ戻る道すがら。

御言は、再度自分のスキルについて話した。


死なないこと。

傷が癒えない理由。


気味悪がられると思っていた。

だが――


「んー、よくわかんないけどさ、すごいじゃん」


マリアはあっけらかんと言った。


「そりゃまぁ、最初は驚いたけどね」


そう言って、御言の背中を叩く。


「……それなら」


ソフィアが、少し考えるようにして言う。


「御言さんのクラスは――勇者、ですね」


死を恐れず、仲間の盾となる者。

御言は、その言葉を胸の中で反芻する。


過分な評価だ。

だが、不思議と否定する気にはなれなかった。


しかし、その響きは確かに、誇らしかった。

第10話をお読みいただきありがとうございます。

自分の正体を明かし、それすらも受け入れられた御言。

「死にたい」と願っていた彼が、初めて自分を「誇らしい」と感じ、この世界に居場所を見つけた瞬間です。

おかげさまで累計PVも150を超え、少しずつこの物語が誰かに届いていることを実感できております。

温かい評価やブックマーク、本当にありがとうございます。

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