観光裏事情 抜粋
世界各国に突如として現れたのは、地球とは異なった土地に通じる”門”であった。世界各国は”門”の向こうの世界と交流を行い始め、そしてそれは日本でも同じ事が言えたのだ。そして世界的に現在、”門”の向こうへの旅行が一大ブームを巻き起こし、私ことかがやまちは、異世界専門添乗員として、とある小さな旅行会社で働いているのである……
船に乗るまでも私はきっちりとツアー参加者の皆さんの安全を、しっかりと確保しなくてはならなかった。
ツアー参加の皆様に、ホテルに戻ってから、このあたりの諸島の統治者である総督の、誕生日のお祝いに招待されたとお知らせすると、そりゃもう、一体どんな人脈の結果なのだと大騒ぎになった。わかる。
普通はそうだ。総督という立場上、単なるツアーの参加者を招待するなんて、警備上穴抜けになりそうな事はしないだろう。
それは私もそう思う。なんでそうなったと細かく突っ込みたくなる。
しかしながら、招待を受けてしまったので、参加するのは決定系だ。
お誕生日パーティなんて、と難色を示した人達に関しては、参加しないのはご自由にと言う事だが、本日のお夕飯はそちらでとる事になったと伝えた。
理由もきちんと伝えた。隠しておく方が傷になるのだから。
無論、参加したくない人達は、なんでそんな色々な貴族が集まる日の日程もわからないんだと責めてきた物の、私はツアーの添乗員であって予定を組む人間ではない。そう言った事は私の管轄外である。
しかしツアー客のお叱りを受けるのが私の仕事なので、平身低頭とにかく謝り、ホテルの方でのルームサービスが可能なように調整した。
ホテルの人達は、提督のお誕生日のお祝いに直々に招待してもらったのにホテルのルームサービスの食事の方がいいなんて変わっているな、と言う表情をとった。事実であろう。
提督の誕生日という事ならば、あちらでは、滅多に食べられないものだったり、腕によりをかけたりした物が出てくるのが普通なのだから。
「添乗員さんが、島の支配者のお誕生日を知らないのは、まあしかたがないのかもしれないが、それなら何で、我々を招くんだ」
そう言う疑いを持つ人もいた。裏があるのではと言う奴だ。
私は苦笑いをしないように、表情筋を駆使して
「提督はこの旅行会社のツアーに関して、広い心と理解をお持ちでいられるらしく」
と曖昧に誤魔化した。それは事実の一つでもある。自分の島のあれやこれやをじろじろ無作法に見て回るツアー客に対して、広い心と理解がなければ観光許可は、こちらでは出さない。
実際問題として、他の旅行会社の人々は、なかなかワルド国の他の地域での観光許可をもらえず、ホテルもまともなところを取れず、商機を逃したりする事もあるそうだ。
個人での観光は、完全な自己責任になるため、それがどういう内情になっているかはさすがに知らない。行方不明になった人のあれこれまでは、私まで情報が回ってこない。
個人で観光し、帰ってきている人ももちろんいるけれども……世界的に見ても。異世界に向かった個人での観光客が帰ってくる数は、結構低いのが実情だ。
そのため、日本では異世界に行く際にはうちのような、添乗員付きのパッケージプランで行く事を推奨せざるを得ないのだ。他の国の人々がどういう事をおすすめしているかは分からない。
だがその点、この島の提督は地球の人間に対しての理解と許容する心があって、平和を乱さずに、知らない場所を見て回る冒険心が有るのだろうと、移住は今のところはノウハウがないのでよろしくないが観光ならば、それなりに居て良いと言ってくれるのだから、旅行会社的にとてもありがたいわけである。
結構な割合の地域の統治者達が、観光許可を貰いに来た、多種多様な人々に対して冷淡で、よそ者を嫌う事の方が多いのだから、そう考えるとこの諸島の統治者の頭の柔らかさには頭が下がる……とツアーを企画した担当が言っていた。この諸島の観光許可がもらえる前、彼等彼女らは他のワルド国の、観光ツアーになりそうな建造物や風景のある場所を、未開拓かつスマホなどの電子機器無しに探し回る、命がけの開拓を行っていたらしい。
どこもかしこもけんもほろろな態度で、許可なんて下りなくて、眠れぬ夜を過ごしたとか。しかしこの諸島の統治者が許可を出した事で、やっと眠れるようになったらしい。
この諸島の統治者が許可を出した、と言う情報はあっという間に地球では広まって、そのためこの諸島はパッケージツアーの群雄割拠と言ってよい。
そして諸島も異世界である地球からの客人が落とすお金で財政が潤い、その潤い方を見た他の地域の統治者達がじわじわと動き出しているそうだ。
私が添乗員を務めるツアーは、その先駆けと言って良いらしく、事実この諸島から船で進んだ先にある大陸の、風光明媚な港町の観光も出来るのである。
……その港町の町長達に口利きしてくれたのが、この諸島の提督なのは、ツアー参加者の皆様には言っていない裏事情ではあるが。
「なるほど、考えの柔軟な方なんですね」
疑問に思っていた人達も、私の言葉にちょっと納得した様子で、私達はきちんとマナー違反にならない見た目をホテルの人にも確認して貰い、迎えの馬車に別れて乗った後、船着き場で人数の確認を繰り返した後、確実に大型と言って良い船に乗って、提督の本館がある三の島に向かった訳だった。
ここまででもどっと疲れたが、疲れた事を隠し通さなければならないのが添乗員。これは気合いを入れておくしか方法がない。
「かがやさん、二の島に観光客の泊まるホテルが集中しているのはどうして?」
不意に聞いてきたのは宮子さんで、私は知識を総動員して答えた。
「このディック諸島は気候も温暖で過ごしやすい事から、提督が統治する様になって一気に、あらゆる国の貴族の冬のリゾート地になったと聞いています。二の島から大陸の一番近い港町までの航路は、海流の関係で非常に荒れる事が少なく、そのため貴族が知り合いを招くためのプライベートホテルなども作ったと。ディック諸島内では海流の関係で向かえる島が限定されていて、大人数を乗せた船はどうしても七つの島全てに自由に行き来出来ません。いざという時の事もあるため、大陸と一番行き来できる二の島に、ホテルというホテルが集中している……というお話でしたよ」
「自然に左右されるのですね」
「そうですね。自然を無視した航路は、いたずらにエネルギーを使うため、異世界ではあまり流行らないそうです」
「じゃあ小さな船だったら……」
「小さな漁船などは、自由に走っている様な物だと聞いていますよ。この地域の漁船ほど海流に強い船はないそうです」
宮子さんは頷いて納得していた。二の島から三の島までは三十分程度で到着できる。それは航路が海流の動きと合致している事が大きい。逆らったら五倍の時間はかかるだろう。
「すごいお屋敷が見えてきたわ!」
観光客の誰かがはしゃいでいる。確かに、夕方の空に見える、提督の本館はとてつもない豪華さと偉容を誇っているだろう。
こんなのは見た目で圧倒した方がいい、と言っていた誰かを、私は頭の中で思い出した。
船はするすると進んでいき、色々な船のひしめく港ではない場所に向かい始める。
「あっちじゃないのか?」
「こっちは人が少ないぞ」
甲板に出ている人達が、船を動かす関係者に問いかけている。彼等はこう言った。
「こっちが提督のプライベートな船着き場になる。この船は提督の私的な船だから、あっちの公的な港には留めないんだ」
「へえ……でもただの観光客をそんな特別扱いする物なのですか?」
誰かが関係者に聞く。彼等は船の調整を行いながらこう言った。
「提督が口止めしているから、詳細は言えないが……この旅行会社に提督は思い入れが有るそうだ」
分かったような分からないような。だがそれ以上言えないと言う姿勢の彼等に、ツアーの参加者の皆さんは深く聞けず、悪いようにはならないだろうと言う事で、船着き場に着いてから、先導する人について行き、外側の立派さとなんら劣らない、豪華な内装の本館内に進んでいったのであった。




