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辺境伯家の屋敷、装飾の綺麗な鏡の前で、私は何故かドレスを着せられていた。


「ほんとにいつも急だよね!」


化粧をされている私はセラに文句を言う。


「仕方ない。フローラはよく逃げるからな。」


その言葉にぐっと言葉が詰まった。大人しく化粧を施され、綺麗に整えられる。


「…それで、今日はなんなの。」


「デートだ。もうすぐお前は王都へ帰ってしまうだろう?その前に恋人らしいことをしようと思ってな。」


実地訓練はあと一週間も無い。確かにもうすぐ帰るのだが、会えない訳では無いし、長期休みは来いと言われている。二月くらいじゃないかと思ったが、不満そうな顔に言葉を飲み込んだ。


「うん、綺麗だよ、フローラ。」


支度が終わり、頬を撫でながらセラは言う。相変わらずとても甘い。


「…セラも素敵だよ…。」


そっぽを向きながら言ってもセラは嬉しそうにする。差し出してくれる手をとって、懐かしい辺境伯領を歩くことにした。


****


「十七年も経てば、変わるなぁ。」


しみじみと呟けば苦笑が返ってくる。顔馴染みだった店も残ってはいるが、今のこの顔では話しかけることはかなわない。


「…俺がいる。俺は分かっている。」


セラにぎゅっと手を握られそう言われる。心配そうな顔のセラは、私の言いたいことが分かっているようだった。


「そんな顔をするな。俺はお前の笑った顔が好きだ。」


「…うん。ありがとう。」


セラの言葉に、なんだか安心してしまった。気を取り直して楽しむことにした私は、セラの手を引いて気になった所へ歩き出した。


色々見て周り、少し疲れた私たちは、カフェで休憩をすることにした。


「紅茶とケーキ、あとコーヒー。」


私に聞きもせず注文をするセラは、好みは変わってないだろう?と言っているようだった。運ばれてきたものは完璧に私の好みで、ジトっとセラを見てしまう。


「どうした?可愛い顔して。食べないのか?」


「…あま。」


「ん?そんなに甘いのか?」


セラの言動に対して言った言葉だが、本人には自覚はないようだ。


「セラの言葉だよ。よくそんな恥ずかしく気もなく言えるよな。」


すると、フッと笑ったセラが、懐かしいというように話す。


「昔は、お前の方が恥ずかしく気もなく、キザなセリフを言っていたじゃないか。」


「…いや、あれはごっこ遊びのようなものだし…。」


ムッと唇を尖らせた私に、置いていたフォークを差し出す。


「ほら、好きだろう?」


受け取って食べようとすると、ひょいと避けられる。


「…おい。それじゃ食べられないだろ。」


「そのまま食べたらいい。食べさせてやるよ。」


テラス席に座っているせいか、注目されている気がする。


「…なぁ、見られているぞ?氷雷の騎士様だろ?いいの?」


「何がだ?」


ケロッと答えるセラは何も気にしていないようだ。


「いや、こんな甘いとこ見られて平気なのかって…。」


「好きな女に甘くして何が悪い?大体勝手にそう言ってるだけで、俺が呼ばせたわけじゃない。俺はお前にしかこんな事はしないからな。勘違いでもしてるんだろ。」


堂々と言い切るセラはフォークを口元に寄せてくる。腹を括って食べると、嬉しそうなセラが見えて私の方が恥ずかしくなった。

仕返してやろうと、フォークを取り返してケーキを掬う。


「ん。」


セラは、私が差し出したケーキを見て、不思議そうな顔をする。


「お返しだよ。食べさせてくれたからね。」


私がそう言うと、予想に反してニコッと笑ったセラは、私の手を握ってケーキを食べる。


「ふっ。間接キスだな。」


「…っ!」


優しく笑うセラに、顔が染まるのがわかった。思わず俯くと、クスクスと笑い声が聞こえる。


「…なんだよ。手慣れすぎてないか。」


小さく呟いたはずなのに聞こえていたらしい言葉は、セラに否定される。


「慣れてるわけないだろ?俺がこうするのはお前にだけだと言っただろ。…それにお前は存外こういうのが好きだろ?王子様とか。」


顔を上げると、頬杖をつきながらこちらを見ているセラと目が合う。


「…よく読んでいたじゃないか。恋愛小説。」


バレていたことに驚き、恥ずかしさで何も言えなくなる。


「案外可愛い趣味だと思っていたんだ。」


「……自分には無縁だったけどな。」


からかっている訳では無いと分かっているけど、拗ねたような言葉が自分から出てきてしまう。


「俺じゃダメか?」


「…何言ってんの。」


私の手を握って聞いてくるセラをジロっと見る。


「俺じゃ役不足か?」


「………ダメだったら、こんなに照れるわけないだろ!」


可愛くない物言いをついしてしまう。ぷいっとそっぽを向きながら言うと、セラから「そっか」と嬉しそうな声が聞こえた。私の手を握って指をスリスリと撫でるセラに、高鳴った心臓がうるさかった。

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