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「ねぇ!フローラ、どういうこと!?」
「そうだ、説明しろ。」
私は今ティナとユリオに挟まれ問い詰められていた。
「いや、そんなこと言われても…。私だって急で意味がわかんなかったんだよ。」
私が嘘が下手なことを知っている二人は、本気でそう言っていることを理解してため息をついた。
「はぁ、お前は納得してるんだな?」
「…まぁ、そうだね?どの道、ここの騎士団に入りたかったのは事実だし。」
ユリオの問いかけに正直に答える。
「まぁ、ならいいんじゃない?『氷雷の騎士』って聞いてたから驚いたけど、少なくともフローラに対しては違うようだし。」
ティナの意見にユリオは「まぁ、そうだな」と呟き、話題を変えた。
「それより、いいのか?髪。」
「…あぁ、これね。目立たないようにって言ったんだけど、『俺がいるから必要ない』って戦闘の時、邪魔になるだろうからって。まぁ、確かに邪魔ではあったんだけどね。」
私がそう苦笑しながら言うと、ティナが少し考えて残念なものを見る目をした。
「いや、ただ顔が見たいだけじゃ…。いっか、フローラに言うだけ無駄か。」
「え?なにが?」
疑問に思って聞いてもティナは教えてくれなかった。それを見て苦笑したユリオは、私の頭に手をポンポンと乗せる。
「婚約の手続きはどうなんだ?」
「なんかもう家に手紙を送ってるらしい…。帰ったら文句を言われる未来しか見えないんだよー!」
ユリオに縋り付きながらそう言うと、後ろから足音が聞こえた。ぎょっとするユリオに、何だろうと振り返ろうとすると、私の後ろから腕が回りユリオから離される。
「え?」
思わず見上げると、無表情のセラが私を抱きしめるように立っていた。
「…あー、誤解ですよー。」
そう言いながら両手を顔の横に上げたユリオを見ている。
「……フローラ、俺というものがありながら。何?浮気か?」
「いや、今の見てそうなる!?」
セラの言葉に思わずつっこんでしまう。私の気安い態度を見てティナもユリオも驚いているが、きっとそれを許しているセラに衝撃を受けているのだろう。
「…俺はこんなにもお前だけを愛しているのに、他の男に抱きつくな。」
「…いや、抱きついた訳じゃなくてね。」
なぜ自分が浮気を見られたときの、言い訳のようなことを言っているのか分からない。つい遠い目をしてしまった私に、セラは子犬のような表情で責める。
「だから俺は心配なんだ。こんな可愛い顔をして、俺にどうして欲しいんだ。」
つい、死んだ魚のような目をしてしまう私は、悪くないだろう。段々と人が集まってきて、注目されているのがわかる。これ以上目立つ前におかえり頂こうと、セラを見る。
「そろそろお時間では?セラフィム様?」
「どうしてそんなに素っ気ない態度をとる?いつもはセラと呼んでくれるじゃないか。」
わざと聞かせるかのような言葉に、言いたいことを飲み込む。仕方ないと思った私は、ちょいちょいとセラに手招きし、首に腕を回す。抱きつくような格好になったあと、耳元で囁いた。
「…それは二人きりの時でいいだろ?それに、セラの笑顔は独り占めさせてよ…。」
パッと離れると赤くなった顔のセラが見えた。
「では、ご機嫌よう。」
セラにお辞儀すると、ティナとユリオの手を引いて離れる。
「…フローラ、いいの?固まってるよ?」
「いいの!わざと見せつけるようにあんな事するんだから!」
ぷんぷんと怒っていると、ユリオが心底可笑しいというように笑い出す。
「あはは、それにしては顔が赤すぎる。なーんだ、両思いか。もう俺気にしねぇわ。」
するとティナまでクスクスと笑い出して、ますます恥ずかしくなった私は頬を膨らませた。
自分で気づいていた。意識していることも、弟だと思っていないことも。とりあえず訓練に集中しようと、ペシペシと頬を叩いて気合いを入れ直した。