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「なんてことをしてくれたんだ!…あぁ、私の学園生活が平穏で終わる気がしない。」


私の叫びを聞きながらニコニコとしている男を睨む。


「そんな顔をしても可愛いだけだ。フローラ、諦めてくれ。俺の婚約者となって、注目されないわけが無いだろう?」


分かっていたかのように言うセラは、昔の可愛げが無くなったと思う。


数刻前ーー

いつも通り、学園生に交じって訓練を受けていた。教師の指示を聞きながら魔法を放つ。皆段々と慣れてきていて、真剣な表情は崩すことは無いが、冷静に対処出来ている。


「今日はここまで!」


そう言った教師の声に攻撃が止む。ティナとユリオと合流し、世間話をしていた時だった。いつもは現れない姿にその場にいた誰もが驚いた。


私は嫌な予感がした。きっと顔が引き攣っていただろう。

そんな私の考えなど関係ないというように、真っ直ぐに私の前まで歩いてきたセラは、私の手を取って微笑んだ。

その瞬間、周りがざわざわとしたのを覚えている。


「ノルディアス辺境伯様、どうかされましたか?」


教師が戸惑いながらもセラに声をかけると、視線を私に向けたまま言い放つ。


「婚約者を食事に誘いに来ただけだ。」


私は思わず取られている反対の手を額にあて、宙を仰いだ。


「…そ、そうでしたか。」


動揺しながらもそう答えた教師をセラはスルーし、私に笑いかける。


「フローラ、君のために用意したんだ。どうかな?」


セラの言葉に引き攣った顔を取り繕うことが出来ない。視界の端でティナもユリオも驚いていることが分かる。そんな私の様子をわかっていながら、笑みを深めたセラは続けた。


「あぁ、君も楽しみか。じゃあ行こうか。」


私の返事など気にもせず、取った手を引いて歩き出した。そうして呆然としている間に、食事が始まり今に至るのだ。


食事が終わり談話室に連れてこられた私は、ティナとユリオになんて説明をしようと考えていた。そんな私を拗ねたような顔で見るセラは、私の隣に座ると、こっちを見ろと言わんばかりに顔を触ってくる。


「な、なに?」


「いいや?俺以外のことを考えているなんて、少しだけ妬けるなと思ってるだけだよ?」


なんでもないことのように言うセラに、ドギマギしてしまう私は可笑しいのだろうか。


「は、はぁ…?」


セラは曖昧な相槌を打つ私の前髪をサラっと流すと、少しだけ眉をあげる。


「フランの時は可愛らしかったが、今のお前は綺麗だな。…分かってて隠しているのか?」


感心したように言うセラに首を傾げた。


「何がだ?私はただ目立たないようにしているだけなんだけど?」


そう言うとセラは満足そうに頷き笑った。


「フローラが可愛いってことだよ。…綺麗だ。」


私の頬を親指で撫でながら微笑んだセラに、少しだけドキッとしてしまい言葉に詰まる。


「フッ。赤いよ?どうしたの?…もしかして、意識してくれてる?」


軽く笑って、分かっているかのようにセラは続けた。ぐっと物理的にも距離を詰めてきたセラに、無駄だと知っていながら抵抗する。


「ち、近くないか…?」


「婚約者だろう?それに、これでも口付けたいのを俺は我慢している。フローラもこれくらいは我慢するべきじゃないか?」


ニヤリと笑っているセラは、私の反応を見て楽しんでいる。


「…フローラ、抱き締めてもいいか?」


急に男の顔をしたセラが問う。


「この間は何も言わずに抱き締めたじゃんか。」


照れ隠しにも程があると思うが、私の心臓も限界なのだ。文句の一つでも言わなければ、叫び出してしまいそうだった。

そんな私のことを分かっているかのように、セラはクスクスと笑い手を伸ばす。セラは私を自分の足の上に横向きに乗せると、そのままぎゅっと抱き締めた。


「…あの、なにもこの格好じゃなくても…。」


「い、や、だ!」


子供のようにダダをこねるセラに苦笑してしまう。


「…ずっと、こうしたかったんだ。…少しくらい、いいだろ?」


セラのずっとは、きっと私が思っているよりも重たい。何も言えなくなった私に縋るように、セラは抱き寄せる。悲しさの滲んだ声に、つい背中に手を回してしまう。


「…ごめんな。そんな大切に思ってくれてたなんて、思ってなかったんだよ。」


「…いいんだ。分かってる。…でも、もう俺はお前を諦められないんだ。…ずっと、愛してたんだ。…お前がいなくなってからも。」


震える声に背中に回した腕に力が入り、宥めるように頭を撫でる。


「…そうか。」


「フローラ、愛してる。」


「………私は、今は同じ温度で返せないけど、いつか心から言える気がしてるよ。」


私がそう言うとセラは、バッと勢いよく顔を上げた。少し恥ずかしくて目が見れないでいると、顎を掴まれる。


「嘘は言うなよ。」


泣きそうな顔をするセラは、信じられないようだった。


「嘘じゃない。私は嘘をついたことないだろ?」


誤魔化すことはあっても嘘はついたことはない。ちゃんと理解したセラはポロポロと泣いていた。


「あーあー、二十八にもなって泣き虫だなぁ。」


笑いながら拭ってやると手を掴まれる。


「お前に関することだけだ。」


そう言いながら泣いているセラに、泣き止んで欲しくて額に口付けた。涙の止まったセラを見て私はなんだか満足した。

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