表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

2

「…やっちゃったー!」


「完全に素が出てたね。フローラ。」


ニコニコと赤茶色の瞳を細めるティナを睨む。

すると後ろからポンと頭に手が乗った。


「フローラって睨んでも怖くないんだよな。それよりもお前、剣も振れるんだな。」


感心するように、紺色の肩につかないくらいの髪を揺らしながらユリオが言う。

この二人は私より爵位は上だが、堅苦しいのが好きではないらしく、たまたま私の素を見られ仲良くなった。


「…まぁね、体格的に剣を主体で扱うのは難しいから。身体強化に魔力を使うのはもったいないかなって。」


「ふーん、まぁ確かにな。」


適当な理由で誤魔化したが、疑問に思われなかったようだ。


「それにしても…。」


ティナの言葉でそっと辺りを見渡すと、視線が突き刺さっているのを感じる。先程の生徒は教師に怒られているが、それよりも私の素の方が注目度が高いようだ。


「困ったなぁ…。」


ざわざわと生徒たちが話している。けれども、それよりも困ったことがあった。先程の視線、確かにセラだった。彼は過去にあった出来事から、無謀な行動が嫌いだという。


(さっきのアウトかなぁ…?)


冷たく鋭い視線を思い出す。『氷雷の騎士』そのものだった。


彼が『氷雷の騎士』と呼ばれるのは、魔法の適性が上位属性である氷と雷だから、というだけでは無い。氷のように冷たく冷静な態度。雷のように厳しく刺々しい物言いから、そう呼ばれるようになったと聞いている。

そして、そうなった彼の背景には、一人の人物が関係していたと噂なのだ。その人物は幼い頃に愛を誓い合っただとか、彼の初恋の人だとか、まことしやかに囁かれている。


(そんな人がいたなんて知らなかったけどなぁ…。)


ともかく、彼に嫌いな行為をしたと目をつけられれば、この辺境伯領で働くことは不可能になってしまう。

学園を上の中くらいの成績で卒業し、またノクターン騎士団に入ることが目標なのだ。


一月ある実地訓練の残りの日数は、出来るだけ大人しくしていようと決めて、集合をかける教師の元へ急いだ。


****


目が覚めて知らない天井が目に入る。


「あぁ、そうだった。ノルディアス領だった。」


ノルディアス領の安全地帯に建てた臨時テント。貴族とはいえ軍に着くことの多い生徒は、野営も経験しておくことになっている。とはいっても、テントの中には簡易ベッドも設置され、十分暮らしやすいと前世の感覚で思う。

いつも通り早めに起きた私は、日課の素振りをしようと他の生徒を起こさないよう、そっとテントを出る。念の為人目につかないところに移動し、剣を振る。

筋肉の付きづらいこの体は、身体強化をかけなければ剣を振ることも難しい。こればかりは前世の方が良かったなぁと思いつつ、回数をこなしていく。


「こんなもんかぁ。」


呟いた声は誰にも届かないーーはずだった。ガサッと言う音で振り返り、咄嗟に剣を構え驚いた。立っていたのは、セラフィム・ノルディアスだったから。


「何をしている。」


ハッと我に返った私は、ドレスでないため騎士の礼をとり挨拶をする。


「お初にお目にかかります。クローデリア子爵家が第四子、フローラ・クローデリアと申します。魔法騎士を志望しております故、鍛錬のためと日課の素振りをしておりました。」


貴族らしい口調を意識しつつ挨拶をするが、冷や汗が止まらない。すると、目を見開いたセラは少し震える声で言い放つ。


「その騎士の礼、どこで習った。」


その言葉でハッとした。騎士の礼は普通両膝を地面につけてとる。当時、家族のように思っていたセラに、片膝をつき物語に出てくる王子様の真似をしていた。片手を胸に当て、手を取る仕草をしてからかっていた私は、前世の癖で片膝をつき胸に手をあてていた。


(しまった……。)


焦った私は何も言えなくなってしまう。落ち着こうと思えば思うほど、頭が働かず地面が回っているかのようだった。


「も、申し訳ありません。」


謝ってすぐに礼を取り直そうと思った。しかしグッと顎を掴まれ、上を向けられる。


「そうじゃない。何故その礼を知っている。」


鋭く光る青い瞳に見つめられ、自分の手が震えていることが分かる。


「…お、おとぎ話で、出てきた登場人物です。」


これ以上答えることが出来なかった私の声は、酷く弱々しかったと思う。その言葉に眉間の皺を深くしたセラは、私を離すと「すまない」とだけ残し去っていった。

腰が抜けた私はしばらく立つことが出来ずに、探しに来たユリオに手伝ってもらい、テントに戻った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ