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影の弾正台と秘密の姫  作者: 月夜野 すみれ


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羈旅

羈旅は「きりょ」と読みます。

 随身が猫を捕まえ、糸毛車が動き出そうとしたのを見た貴晴は思わず牛車の外に飛び出した。


「貴晴!?」

 隆亮が驚いたような声を上げる。

 貴晴はそれには構わず糸毛車(いとげのくるま)に駆け寄ろうとして足を止めた。


 隆亮が出世できなくなったら困るか……妻達が。


 貴晴は牛車の中の隆亮を振り返った。


「お前はそこにいろ! 出てくるなよ!」

 と言ってから、

「そこの車、止まれ!」

 と青糸毛(あおいとげ)の牛車を止めた。


「誰だ、お前は!」

 郎党が刀の柄に手を掛けて誰何(すいか)する。

「この車に乗ってるのがどなただと……」

「私は弾正台だ!」

 貴晴がそう言うと、青糸毛の前簾(まえすだれ)(わず)かに動いた。

 乗っている者が外を(のぞ)いたのだろう。


「そいつの狩衣は黄丹(おうに)よ! 春宮でなければ着られない色を着るとは不届きな! やってしまいなさい!」

 青糸毛の中から女性の声がした。


 郎党達が一斉に斬り掛かってくる。


 貴晴は抜刀すると太刀を横に払った。

 郎党が叫び声を上げて転がる。


 続いて背後で絶叫が上がった。

 振り返ると隆亮が郎党を斬り捨てたところだった。


「おい! 出世できなくなるぞ!」

 貴晴が隆亮に声を掛ける。


「私はお前の手伝いを命じられてるんだから、これは仕事だ」

 隆亮は嬉々としてそう言いながら別の郎党を斬り付ける。


「これは仕事じゃ……」

「お前、弾正台だって名乗っただろ」

 隆亮が更に別の郎党を斬る。


 失敗した……。


 隆亮が側にいない時にするべきだった。


 あの女御だと気付いて咄嗟(とっさ)に牛車を止めてしまったが……。

 私が全ての責任を(かぶ)れば隆亮はお(とが)めなしにしてもらえるだろうか……。


「春宮になりたいのでしょうけど、そうはいかないわ! 春宮になるのは私の子よ!」

 女御が叫ぶ。


 あんたも素性が分かるようなことを言うな!


 貴晴が心の中で女御に突っ込む。


「お前達! お前達は何故ぼーっと突っ立ってるの!」

 女御が随身達を叱責する。

 郎党達と違い、随身達は動こうとしないからだ。


 随身達は顔を見合わせると、

「黄丹の狩衣を着ている弾正台がいると……」

 一人が女御に答えた。


 祖父――と言うか、帝――が話を通したと言っていたが、それは隆亮が随身をしているという事になっている右大将だけではなく、他の近衛の官人達にも伝えられていたようだ。


「何を言っておる! そんなの出任(でまか)せに決まっておろうが!」

 牛車の中から初老の男性の声がした。


 その時、知らせを受けた検非違使達が駆け付けてきた。

 検非違使を目敏(めざと)く見付けた郎党の一人が貴晴を指差した。


「いいところに来た! こいつらが女御と左大臣の乗っている車に無礼を働いて……」

 郎党が検非違使に声を掛ける。


 だから、乗ってる人間の素性を言うな!


 貴晴が再度心の中で突っ込む。

 検非違使が貴晴達に目を向ける。


「我々は弾正台だ」

 隆亮が言った。


 お前は違うだろ!


 貴晴が口に出さずに突っ込む。


「中に左大臣が乗ってる。〝鬼〟を使ってたのは左大臣と一緒に乗ってる女御だ」

 隆亮が続けた。


(かしこ)まりました。おい!」

 検非違使は隆亮に答えると部下に合図をした。

 部下達が青糸毛を取り囲む。



 数日後――



 貴晴は祖父に呼ばれた。


「検非違使から報告があった。〝鬼〟を操っていたのは間違いなく女御と左大臣だったそうだ」

「それで? 二人はどうなるのです?」

陣定(じんのさだめ)で決まるが……おそらく左大臣は流罪、女御は……里に帰されるだろう」

 祖父が言った。


「母親がこのような事をしたのだ――廃太子の理由の一つにはなるだろう」

 祖父はそう言うと貴晴に顔を向けた。


「選べ。春宮か、官位官職のない地下人(じげにん)か」

 と選択を迫った。


「は!? 春宮にならないなら弾正台でもなくなるということですか!? それどころか官位も取り上げると」

 貴晴が聞き返すと、

「そうだ」

 祖父が答えた。


 では、身分の高い者の非違(ひい)(ただ)すというのは本当にただの口実で、本気で弾劾(だんがい)する気はなかったのだ。

 ただ、貴晴を引っ張り出すために持ち出しただけなのだろう。

 貴晴の性格なら、非違を糾す職掌(しょくしょう)(仕事)――だといえば話に乗ってくるだろうと。


 だが検非違使は実際に仕事をしているからお飾りの長官を置いては色々差し障りがある。


 そこで弾正台が選ばれたのだ。

 かなり昔に実権は検非違使庁に移行していて弾正台にはなんの権限もなくなり長官((いん))は親王の名誉職になっていた。

 親王がいない時などは大納言が兼任していたりする役職だから、いても邪魔にならない。


 その上、女御も処分できたから春宮を廃太子する理由も出来た。

 貴晴は春宮を廃太子するために、とことんまで利用されたのだ。


 ただ、今の春宮を廃太子したいというだけの理由で。

 というか、元々春宮に冊立したくなくて帝が拒んでいたから最近まで春宮位が空位だったのだろう。

 だが貴晴のことを黙ったまま、いつまでも春宮不在というわけにはいかないから仕方なく冊立したのだ。


 その時点で諦めて春宮を認めればいいものを……。

 二人の間に一体何があったんだ……。


 貴晴は深い溜息を()いた。

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