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影の弾正台と秘密の姫  作者: 月夜野 すみれ


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恋 一

 それに加えて息子は蔭位(おんい)もある。

 父(または祖父)の官位に応じた身分を最初から与えられるというものだ。

 上級貴族の息子は下級貴族が生涯かけてようやく辿(だど)り着くような官位から始められるからその分出世もしやすい。


 だから官位の高い一族が上の方を占めてしまっていて低い官位から始めなければならない下級貴族は更に出世が大変になるのだ。

 官職の数は限られているから上が詰まっていたら下にいる者ほど出世が難しくなる。


「だとしたら何故父が木っ端役人なんですか。罪滅ぼしにせめて出世だけでも……」

「子供が出来ると同時に出世したら目立つだろう」

「公卿の婿が木っ端役人の方が目立つでしょう」

「だが今までは気付かれなかった」

 祖父の言葉に貴晴は頭が痛くなってきた。


 他の男の子供を押し付けられ、出世の手伝いはしてもらえず――。

 父は一体何故祖父の婿になろうなどと思ったのだろうか。


 元服して人生これからって時に大人達の醜悪(しゅうあく)な話なんか聞きたくなかった……。


「それで、なんでそんな話を私に聞かせたのですか。私を春宮にしてくれるとでも?」

「そうだ」

 祖父が答えた。

「今のはイヤミですよ」

 貴晴が呆れて言った。


 春宮は一年前ほど前に薨去(こうきょ)していたが帝にはもう一人親王がいる。

 産んだのは皇后ではないが女御である。


 妃にも位があって皇后、女御、更衣(こうい)の順である。

 その他に尚侍(ないしのかみ)御匣殿(みくしげどの)という女官が妃に準じる扱いで、お手が付いて子供を産むと妃に格上げになることがある。

 そもそも更衣というのも元は女官だったのが妃の呼び名になったという経緯があるのくらいだ。


 何故か(さき)の春宮が薨去して一年経った今になっても次の春宮が冊立されていないとはいえ、女御が産んだ親王がいるのだから妃どころか女官ですらない女に産ませた息子の出る幕ではない。祖父の話が本当だとして、だが。


「帝は本気……」

「いい加減にして下さい! 今のは聞かなかったことにします!」

 貴晴はそう言って祖父の邸を後にして以来、二年間、顔を合わせないようにしてきた。


 母に手を付けて子供を作っておきながら女官にすらせずに知らん顔していた帝にも、父に母と自分を押し付けて出世の手伝いはしなかった祖父にも、何も知らない貴晴を殺そうとしてきた誰か――おそらく女御か女御の父だろうが――にも腹が立った。


 だから貴族社会で出世しようなどとも思わなかったし、隆亮以外の貴族と付き合わなかった。



 それが二年前のことだった――。



 それ以来、祖父とは口を()いていなかったから詳しいことは知らないが、おそらく今の春宮を押している勢力――多分、春宮の母親の女御やその父親――が、帝が隠し子を春宮に立てようとしているようだという噂と聞き付けて貴晴の命を狙ったのだ。


 迷惑な……。


 だから皇族も貴族も嫌いなのだ。


 (みんな)他人(ひと)の気持ちを考えずに勝手なことばかり……。


 弾正台に補すという話があった時、すぐに〝弾正宮(だんじょうのみや)〟にしてやるという意味だと察しが付いた。

 弾正台というのは親王がなる名誉職のようなものだからだ。


 だが親王宣下――親王の身分を与えること――の有無はともかく、貴族の腐敗を正す気があるというのならなってもいいかと思ったのだ。


 大納言の姫と釣り合う身分も欲しかったし……。


 そういえば、内大臣が中の姫の恋人のことを相談した女御は春宮の母親だと言っていたな……。


 貴晴を狙ったのと、内大臣の中の姫の恋人を殺したのが同じ女御だとしたらやたら殺意が高い女性だという事になる。


「きゃーーーーー!」

 不意に織子が悲鳴を上げた。


「つつじの君!」

 貴晴は慌てて立ち上がると、

「失礼します!」

 御簾を払った。


「あ、た、多田様、違います」

 つつじの君が慌てたように顔を隠す。

「え?」

「そ、そちらに……」

 つつじの君が震える指で貴晴の後ろを指す。


 振り返ると背後にヘビがいた。

 どうやら庭から()い上がってきたらしい。

 こういう事は(たま)にあるのだ。


 毒蛇ではない。

 貴晴がヘビを掴んだ時、郎党達が駆け付けてきた。


 ヘビを差し出された郎党は顔を引き()らせながらも受け取った。


「あ、あの、そのヘビ、殺さないで下さいね」

 つつじの君がヘビを持って出ていく郎党に声を掛ける。


〝ヘビは神様の使いなので()き殺すのは良くないと……〟


 そういえば、斎宮の御神体はヘビだったな……。


 ホントに斎王だったんだな……。

 幼い頃に都を離れたというのは斎王に選ばれて斎宮に行ったからか……。


 そして、それはつつじの君――織子が間違いなく内親王だということでもある。

 内親王なら内裏で育ったはずだし、親はもういないとしても内裏に帰りたいかもしれない。


「間違いなく内親王様のようですので改めてお迎えに参ります」

 祖父はそう言うと、

「お前ももう一度よく考えなさい」

 と告げて帰っていった。


 何を、とは言われるまでもない。

 だが――。



 夜――



 貴晴は庭に出た。


「とどかめと なげきを空に 墨染めの」


 全てはこの歌から始まったのだ――。


「桜は野辺の 煙なるかな」

 後ろから女性の声が聞こえてきた。

突っ込まれるかもしれないので先に書いておきますが、今上帝は織子の父の弟(織子の叔父)です。

なので、貴晴と織子は異母兄妹ではなく従兄弟です。

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