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影の弾正台と秘密の姫  作者: 月夜野 すみれ


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28/49

秋 九

 具体的にどうするものなのかは知らないが、入内させたいという願い出があると陣定(じんのさだめ)という公卿達の合議に掛けられてそこで認められてはじめて決まるらしい。

 却下されることがあるのかどうかは分からないが合議するからには認められないことがあるのかもしれない。


 ちなみに陣定というのは太政官(だじょうかん)――左右大臣(太政大臣は政務に関わらない)と今は内大臣がいるので内大臣、それに大納言と中納言、参議――による話し合いである。


 多分、絶対に通るというわけではないから先に根回しをするのだろう。

 それで通りそうだとなってから願い出をして陣定が行われ、そこで認められると陰陽師に入内する日を占ってもらう。

 だから根回しを始めた段階ならすぐに入内という事にはならないはずだ。

 とっくに決まっている内大臣の姫ですらまだなのだし。


 ただ願い出が通ってしまってから「やっぱり()めます」というわけにはいかないだろうから申請前に大姫と両想いになる必要がある。

 となると急がなければならない。


 大姫とつつじの君が同一人物だとしたら、大姫がダメだったからつつじの君に乗り換えるという事も出来ないから後がない。


 貴晴は立ち上がった。


「どうした?」

「内大臣と話してくる」

 貴晴はそう答えると食事を下げに来た侍女に内大臣に面会したいと伝えてくれるように頼んだ。


「なにかな」

 内大臣が訊ねた。

「本当の理由を教えていただきたい」

「なんのこ……」

「姫が狙われているのは入内が決まっているからではないと仰っていたでしょう」


 入内が決まっているから狙われていると言っても良かったはずだ。

 なのに作り話をしたのは本当に入内とは関係ない理由があるから、うっかり口を滑らせたのではないか。


「だから、それは……」

「群盗との戦いで死ぬかもしれないと言う時になんの役にも立たない御伽話は結構です」

「……少し考えさせてくれ」

「分かりました。では話す気になったら使いを寄こしてください。由太、牛車を……」

「待った!」

 内大臣が声を上げた。


「貴殿は検非違使ではないな?」

「違います」


 弾正台なんでな……。


 貴晴は心の中で付け加えた。


「確かに姫を差し出す約束をしたというのは嘘だ。だが頭を知ってるのは嘘ではない」

「……つまり内大臣(あなた)が頭の顔を見てしまったから口を封じようとしていると?」

「その通りだ!」


 姫を狙う理由になってないだろーが! 間抜けが!


 貴晴が声に出さずに(ののし)る。


 顔を知られて困るとしたらそれは内大臣の知っている人間――つまり上級貴族だが、身分の高い者がそんなことはしない。

 高貴な者は下賎(げせん)な犯罪などしないとかそう言うことではない。


 盗みで手に入るのは端金(はしたがね)なのだ。

 群盗でも持ち出せるのは手に持てる物だけである。

 だが領民が貴族に収めるのは複数の倉庫に入れるくらい大量なのだ。それが毎年。


 官職の収入はその職に就いている間だけだが皇族や貴族は官職とは別に官位に応じた収入もある。

 その官位に応じた収入というのは位階が高くなるほど多くなる。


 他にも色々と正規で金を稼げる方法があるし、その手段は官位が高くなるほど多くなる。

 どの方法も盗みで手に入るよりも遙かに多額の金になるから盗賊というのは上級貴族がやるには効率が悪すぎるのだ――金を稼ぐ目的では。


 だが金以外の目的があるなら話は別だ――例えば暗殺とか。


 特に今は大赦で複数の群盗が都を荒らし回っている時だ。

 邪魔者を群盗の襲撃に見せ掛けて暗殺すれば――。


 確か祖父が大赦をしたのは帝の病状が皇后や前の春宮の症状と似ていたから暗殺を疑ったと言っていたはずだ。

 ただ、内大臣は狙われる側である。


 仲間割れでもしたのか……?


 それもかなり早い段階で。


「内大臣の姫が狙われる前に群盗に殺された貴族はいるか?」

 貴晴は部屋に戻ると隆亮に訊ねた。

「そりゃ、沢山いるさ」

 隆亮が答える。


「……公卿の中には?」

「公卿? 大臣と大納言の中にはいないと思うが……」

 隆亮が考え込む。


 大臣は三人(今は内大臣がいるから四人)しかいないし、大納言も四人。

 それくらいなら入れ替わりを覚えていられるだろうが、六人の中納言と八人の参議も公卿なのである。

 中納言や参議は合わせて十四人もいる上に入れ替わりが激しいからいちいち覚えていられないのだろう。


「群盗ではなく他の死因では?」

「え?」

「あと、公卿本人ではなく家族は? 特に子供達。息子でも娘でも」

「そこまで範囲が広いとなるとすぐには……調べてみるよ」

「すまない」

「気にすんな。今度、歌を詠んでくれればいいから」

 隆亮が貴晴の背を叩いた。


「……熱い友情の歌を詠んで欲しいのか?」

「いや、このまえ石見に詠んだみたいなのとか」

「歌で罵倒(ばとう)されたいのか? 変わった趣味だな」

「なわけないだろ。ヤな奴にイヤミを言いたい時だよ。もしくは行事に出る時の代詠とか」

 隆亮の言葉に貴晴は頷いた。


 罵倒はともかく、年賀の挨拶や出産などの慶事の時などのお祝いに歌を詠むことがある。

 使う言葉は決まってるから適当に組み合わせておけばいいのだが、そういうありきたりの歌は皆が詠むから目立てない。

 勅撰和歌集(ちょくせんわかしゅう)や、私撰(しせん)でも歌集に載せてもらえるような歌を詠んで注目を集められれば出世の糸口になることがある。


 出世の理由が年を取った母親が詠んだ歌って言うのは恥ずかしいしな……。


 しかもそれが昔の逸話(いつわ)として残ってしまっているから、きっと影で「母親に歌を詠んでもらって出世した人」と噂されていたに違いない。

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