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影の弾正台と秘密の姫  作者: 月夜野 すみれ


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秋 七

「危ない!」

 由太の声に振り返ると別の敵が向かってくるところだった。

 急いで太刀を引くが骨に食い込んでしまっていて抜けない。

 貴晴は太刀から手を放して死んだ男の手から刀を奪うと、こちらに向かってくる敵に駆け寄る。


 男が振り下ろした刀を片足を引き(たい)を開いて()けると刀を横に振り抜いた。


「ぐっ」

 刀は男の腹を()くことなく刃で強打しただけで止まった。


「ちっ」

 貴晴は舌打ちすると腹を押さえて(うずくま)った男の後ろから心の臓に刃を突き立てた。

 男が微かに呻いて絶命する。


 由太が無事か確かめようと辺りを見回そうとした時、

「若様!」

 声が聞こえた。


 そちらを見ると周りを大勢の男達に囲まれていた。


 一体どこの大貴族の姫なんだ……。


 貴晴は思わず童女の方に目を向けた。

 童女一人にこれだけ沢山の刺客を送り込んできたのは確実に仕留めるためだろう。


 そう思った時、

「そいつよ!」

 久美がそう言って貴晴を指した。


「え……」

 貴晴が久美に目を向ける。

 由太も驚いた様子で久美を見てから、

「どういうことですか!」

 と問い(ただ)す。


「恨むなら母上をお恨みください」

 久美は(あざけ)るようにそう言うと身を(ひるがえ)して逃げていく。


「待て!」

 と言ったところで立ち止まるわけがない。

 第一、話を聞くよりこの場を切り抜ける方が先だ。


 とはいえ、由太と二人でこれだけの人数を相手にして切り抜けるのは……。


 そう思った時、男達の背後で声が上がった。

 そちらに目を向けると男が二人ほど倒れたところだった。


 倒れた男の向こうに上等そうな狩衣を着た貴族の青年が立っていた。

 手に持った太刀は血に濡れている。


「大丈夫か! 加勢するぞ!」

 青年はそういうと更に一人を斬り捨てる。


 突然の援軍に男達が浮き足立つ。


 この隙に乗じるしかない……!


 貴晴も一番近くにいた男に駆け寄って袈裟に斬り下ろす。

 そのまま隣の男を逆袈裟に斬り上げる。


「おっ! お前、なかなかやるな」

 青年が声を掛けてくる。


 そういうお前は随分(ずいぶん)軽いな……。


 貴晴は心の中でそう突っ込みながら次の男を切り倒した。

 由太も他の男と戦っている。


 男達の足並みが乱れた隙に一人でも多く倒して人数を減らしてしまえば三人でもなんとか――。


 いや、四人か……。


 青年の従者らしい青年も一緒に戦っている。


 これなら……。


 そう思った時、敵の援軍が駆け付けてきた。

 ざっと見ただけで二、三十人はいそうだ。


 貴晴が舌打ちする。


「伏せろ!」

 不意に遠くから声がした。


 よく分からないまま貴晴は童女を庇うように地面に突っ伏した。

 由太が更に貴晴の上に伏せる。

 青年と従者も貴晴達の近くに来て身体を低くした。


 と、同時に周囲に矢が降り注いできた。


「ーーーーー!」

 矢に射貫かれた男達が悲鳴を上げながら次々に倒れていく。


 矢が立て続けに降ってくる。

 牛車の影にでも隠れたいところだが、強弓(こわゆみ)の矢というのは厚みのある板でも簡単に貫いてしまうので盾があったところで防御の役には立たないのだ。


 姿が見えなければ狙いを付けるのが難しくなると言うのはあるが、それは狙われている時の話であって今、矢を射掛けてきている相手は貴晴達を狙っているわけではないようだから目隠しに意味はない。

 近くに矢は刺さっていないところを見ても一応当たらないように配慮はしてくれているようだ。


 やがて矢の雨が止んだ。


 思わず息を()いてから童女を見下ろした。

 童女は貴晴の腕の中で泣いている。


 重傷を負った男達の呻き声と周りに充満する血の臭い。

 幼い女の子には相当怖いだろう。


 なんとか安心させてやりたいが、どうすればいいか分からない。

 助けを求めるように青年を見たが、彼も困ったような顔をしている。


「お小さいようですし、歌でも歌って差し上げては」

 青年の従者が言った。

「歌ねぇ……」

 青年が腕組みをする。


 歌か……。


秋萩(あきはぎ)に 鹿ぞな鳴きそ 妻を恋ふ 涙の(つゆ)で 枝が折れなむ」


(泣かないで、涙の重みで萩の枝が折れてしまうから)


 貴晴は歌を()んだ。


「違うだろ!」

 青年が突っ込んでくる。


「え……?」

「こういうときの歌って言ったら子守唄とかだろうが!」

「そこまで小さくないだろ」

「歌のやりとりするような年でもないだろ!」

 貴晴と青年は同時に童女に目を向けたが御簾を被っていて顔が見えないから年は全く見当が付かない。


()……様……」

 童女が微かな声で呟く。

「え?」


「つ……(つゆ)散らす 萩の()ゆらす 玉垂(たまだれ)に (おぼ)ゆる人を うつらましかば」


(萩の枝に宿っている露が懐かしい人を写して見せてくれればいいのに)


「…………」

 貴晴は驚いて童女に目を向けた。

 まさか返歌が返ってくるとは思わなかった。


 それもこんなにすぐに……。


 もしかして子供じゃないのか?


 しかし着ているのは丈の短い子供の衣裳――汗衫(かざみ)だ。

 ただ裳着(もぎ)を済ませていなければ汗衫を着ていることはある。

 貧しくて裳着が出来なかったりするといつまでも子供の衣裳のままなのだ。


 もしかして本来なら子供という年ではないとか……?


 そんな事を考えていると、こちらに(ひづめ)の音が近付いてきた。

 馬上の男達は冠を被り顔の両脇に(おいかけ)(顔の横の辺りにある半月状の飾り)、衣裳は位襖(いおう)という武官が着用する束帯(そくたい)と言う出で立ちだった。

 当然だが背負っている胡簶(やなぐい)(矢を入れる装備)の中に矢は一本も無い。

 先頭の一人は浅緋(あさきあけ)(赤色)、その後ろに従っている者達は深緑の位襖(いおう)

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