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影の弾正台と秘密の姫  作者: 月夜野 すみれ


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秋 五

「だが、うちの娘は他の姫とは違う」

「それはそうでしょう」


 親なら誰だってそう言うだろう。

 春宮への入内を控えている娘となれば尚更。


「そういう意味ではない。姫が二度も狙われたのは入内が決まっているからではないんだ」

「というと?」

 貴晴の問いに内大臣が、

「実は――」

 と言って話し始めた。


 昔、内大臣の邸に群盗が押し入った。

 殺されそうになった内大臣は群盗の(かしら)に、

「娘が生まれたら妻として差し出しますのでどうか命だけはお助けください」

 と命乞いして助かった。


 その後、群盗は捕まって牢に入れられて内大臣は安心したものの一昨年の大赦で頭が出てきてしまった。

 そして内大臣に姫を要求してきたが春宮への入内が決まっていたので差し出すのが惜しくなってしまい断った。

 約束を(たが)えられたことで頭は腹を立てて姫を奪おうとしている。


「…………」

 貴晴は呆れて溜息を()いた。

「散位だと思われているようですが……いえ、散位だからこそ官職を得るために忙しいのです。警護のために一日中この邸に入り(びた)っているわけにはまいりません」

「夜だけで構わない。姫の寝所で番をして欲しいのだ」


 正気か!?


「これでも健康な男なんですが……」


 次の春宮の父親が帝以外の男だったらどうするんだ!


「もちろん、姫は別の部屋で寝かせる」


 まぁそうだろうな……。


「入内まで守り切ってくれたら官職を約束する」

『盗賊との約束を反故にしたのに信じろと?』

 と言い返しそうになるのを(こら)える。


「考えさせていただきます」

 貴晴はそう言うと立ち上がった。

「頼む……」

 内大臣の懇願(こんがん)には答えず隆亮を促して邸を後にした。



「引き受けないのか? 約束を反故にしたのは相手が群盗の頭だからだろ」

 牛車の中で隆亮が言った。

「そもそもあれは御伽話(おとぎばなし)だ」

「え?」

「子供の頃に聞いたことないか? ああいう話」


 何かと引き換えに何かを差し出すと言ったが後で惜しくなって約束を反故にする。

 物語によくある話だ。

 大抵の場合、相手の正体は神の類で約束を破ったことで全てを失うのである。


「え、じゃあ、あれ嘘なのか? だから断るのか?」

「いや、引き受けるさ。闇雲に探し回るより狙われそうな相手のところで待ち伏せした方が早いからな。向こうから申し出てくれたなら丁度いい」

「人が悪いなー」

 隆亮が呆れたように言った。

 だが一応先に祖父に確認しておきたいことがあったのだ。



 貴晴は祖父のところに来ていた。


「聞きたいことというのは?」

 祖父の問いに、

「二年前の大赦のことです。一体なにがあったのですか」

 貴晴が訊ねた。


「色々と悪いことが重なったのだ。春宮の薨去(こうきょ)に……」

「春宮の薨去は三年前でしょう」


 そう、三年前まで別の親王が春宮だったのだ。

 薨去した春宮は亡き皇后の産んだ唯一の親王だった。

 その春宮が三年前に薨去してしまったのである。

 恩赦のための手続きがあるにしろ薨去から大赦まで一年は掛からないはずだ。


「その一年後――」

 つまり二年前である。

(さき)の帝が崩御された」

 祖父が言った。


「普通、崩御で大赦まではしないでしょう」

 それも今上帝ではなく退位した(さき)の帝で。


 大赦で放たれるのは強盗や殺人、又はその両方を犯した凶悪犯である。

 治安が大幅に悪化するから大赦は滅多に行われないのだ。


 そもそも恩赦というのは牢から囚人を出すだけなのである。

 他人の罪を許すと自分も病気などが治ったりするという除病延年(じょびょうえんねん)という考えがあるから牢から出すがそれだけだ。

 金も仕事もない状態だから大抵の者は食い詰めてまた罪を犯す。


 大赦でなければ恩赦にならないような重罪人は特に。

 はっきりいって帝やその身内だけのために行われる恩赦というのは庶民にとっては利益より不利益の方が大きいのだ。


(さき)の帝はまだお若かく賢帝(けんてい)(ほま)れ高い方だった。それが左大臣達に譲位を迫られ退位した。いや、させられたのだ」

「こういってはなんですが、そういうのは珍しくないでしょう」


 帝が幼い場合、(まつりごと)は出来ないので外祖父が摂政になって代わりに政務を()る。

 そのため外祖父に当たる貴族が帝を退位に追い込んで幼い皇子を強引に即位させることが起きるようになった。


 大人で、しかも賢帝では貴族達の言いなりにはならないだろうから尚のこと目障りだっただろう。


 貴晴はそういうのがイヤで貴族社会に近付かないようにしていたのだ。


「今上帝が即位される時、(さき)の帝の内親王様が斎王になられたのだ」


 斎王は元は即位する帝の内親王がなるものだったが若くして即位することが多くなるにつれ娘(というか子供)がいないことが多くなった。

 そもそも摂政が必要になるような年では子供は作れない。


 それで譲位した帝の内親王や、場合によっては女王(皇族の姫)が選ばれるようになった。

 原則としては一人の帝に斎王は一人だが、斎王の近親者が亡くなった時は退下(たいげ)――つまり斎王を()めて都に帰ってくることが出来た。


 今上帝の斎王が(さき)の帝の内親王だったのなら、前の帝の崩御で退下して帰ってきているはずだ。


「そして(さき)の斎王は都の手前で襲撃を受け、行方が分からなくなったのだ」

「何故斎王が狙われるのですか!」

 しかも退下した斎王を。


「それは分からん。斎王とは知らなかったのかもしれぬし」


 父の崩御で帰ってくるのなら派手な行列などはない。

 質素な車でひっそりと都に入ってくるから金目の物を持っているようには見えないはずだ。

 ただ下簾を垂らしていれば女車だという事は分かっただろうから、不埒(ふらち)な目的で女性を(さら)おうとしたことは考えられる。

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