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【恋愛 異世界】

消えた王子とその護衛

作者: 小雨川蛙
掲載日:2024/10/08

 

 月星が闇夜に美しく輝いている。

 刻限が近づいていた。

 宮廷の中、王子はため息をついて外を眺めた。

 闇の中にあってさえ、王子の目は世界をありありと捉えていた。

 窓の外から見える生まれ育った景色は今もまだ寸分も違わない。

 事実、この国を生きる人の大部分にとっては、此度の政争は何の意味もないものなのだ。

 平たく言ってしまえば内輪もめだ。

 数日前に父である王が死んだ。

 スープに毒が仕込まれていたらしい。

 王子の家系は皆、とある食べ物に耐性がなく、一口食べてしまえば毒の症状が出て死に至る。

 それを知らぬ料理長ではないはずだ。

 異物混入などありえない……だが、起きてしまったことより重要なことがある。

 つまり、王の後継者についてだ。

 継承者は王子の兄である第一王子。

 兄の方が先に生まれたのだから仕方ない。

 いや、自然なことなのだ。

 故に王子はそのようなことを気にしていない。

 そもそも王になどなりたいと思ったことがなかったから。


 しかし、厄介なことに王子の身に流れる血は兄のそれにより『強く、濃い』ものだった。

 それこそ、くだらない『大義』を掲げれば多くの血が流れるほどに。

 故に、自分は死ななければならない。

 理不尽だと思わなかった。

 これは自然なことなのだ。

 国を作るのは王ではなく、人なのだから。

 父である王は常日頃から語っていた。

『我らのような王が支配する時代は終わった。これからは人の時代なのだ』

 その言葉に王子は納得していた。

 いや、実感していたと言った方が正しいかもしれない。

 かつて、偉大であった王家の血筋は今や僅かな差異を残して人間のものと大差ないのだから。

 事実、王子もその兄もほとんど人間と変わらない。

 そして、兄の方がより人間に『近い』存在として生まれた。

 故に王子は自分が死ぬことを気にしていない。

 いや、気にしないようにしていた。

 どうせ、気にしたって無駄だから。


「王子」

 不意に呼ばれてそちらを見ると慣れ親しんだ護衛の女騎士が居た。

 幼い頃からの付き合いだ。

 親友と呼んでも良いかもしれない。

 そんな彼女の手には銀の剣が握られていた。

 血はまだ付いていない。

「もうか」

「はい。せめて私の手で、と」

「兄上の嫌がらせだな」

「ええ。私もそう思います」

 父である王が死んでからの兄の行動は早かった。

 あっという間にこの宮殿も、この宮殿に生きる人間も全て兄の物に変わってしまった。

「すまないな。君にこんなことをさせて」

 王子はそう言うとすたすたと歩いて女騎士の前に跪く。

 彼女の意思がどうであれ、最早宮殿は鼠一匹逃がさない警備が張られている。

 仮に王子と女騎士が結託したところで逃げることは叶わない。

「さて。それじゃあ、お願いするよ」

 女騎士は頷く。

「お許しください」

 言葉と共に王子の首を刎ねた。

 そして、新たな王の命令通りその四肢を切断した。

 全てが終わった後、女騎士はバラバラになった物体を集めて王の下へ運んだ。


 血に塗れて虚ろな表情をしている弟のバラバラになった身体を見て新たな王は満足気に笑う。

「面白いと思わないか?」

 未だ青い顔をしている女騎士に向かい王は言った。

「父は私の一族を『不死身』だと言ったがそんなことはない。今、お前が証明したように私達もまた殺されれば死ぬのだ」

 その言葉が挑発であると女騎士は知っていた。

 怒りに任せて斬りかかれば自分もまた親友である王子と同じ末路を辿る。

 そう分かっているからこそ、女騎士はその場に伏せて王へ願った。

「せめて、埋葬は私の手で」

「好きにしろ」

 上機嫌な王を尻目に女騎士は物言わぬ死体となった親友を丁寧に布に包んでその場を去った。

 そして、二度と宮殿には戻らなかった。


 ガタガタ揺れる馬車の中、最早騎士ではなくなった女性が外を見ていると布の中から声がした。

「作戦は成功かい?」

「ええ。新王は私を殺す価値もないと判断したようです」

「当然だ。何せ君は後ろ盾もないからな」

「田舎者と馬鹿にされ続けましたが、こんな形で役に立つなんて思いませんでしたよ」

 そう言って笑う女性の隣で布がガサゴソと動き出したので彼女は慌てて布を抑えた。

「いけません。まだ動かないでください」

「御者は信用出来ない相手なのかい?」

「いいえ。違います」

 そう言って女性は馬車の中にまで降り注ぐ陽光を浴びながら答えた。

「まだ昼なのですよ」

「うわ、本当かい?」

 布の中に包まれていた王子の死体は。

 いや、吸血鬼の血を引く少年は思わずびくりと震えて言った。

「この状態で太陽光を浴びる勇気は流石にないな」

「ええ。ですから、そのままじっとしていてください。村に着きましたら私が体を縫いますから」

「君、以前に針仕事が苦手だから騎士になったとか言っていなかったっけ?」

「うるさいですね。陽光に当てますよ?」

 背後から聞こえる声を全て知らんぷりしながら、莫大な料金もとい口止め料を受け取っていた御者は名前さえもないほど辺境にある村に向かって馬車を走らせていた。

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