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「聞かなきゃよかった」―栃木県のとある施設にて―

作者: 空暮

 これは私が栃木県の施設で働いていた時の話です。


 その施設は、夜に2時間ごとに懐中電灯を持って施設を巡回しなければならず、私は後輩のK君と交代で巡回していました。

 ある時どちらが先に言い出したか覚えていませんが、私たちの2人しかい居ないはずの施設で、「赤いシャツを着てる人、見えません?」と話題になりました。

 確かに、いるんです。巡回をしていると視界の端のほうに、赤いシャツを着ている人がいるんです。でも、その人はいつも後ろを向いていたり横向きでしゃがんでいたり、視界の端を歩き抜けたりするので、正面が見えなかったのです。

 私は自分の気のせいかと思っていたのですが、K君も見えると言うし、何より外部の業者の人が、


 「さっき赤い人いてませんでした? 修繕中に人がいてビックリしましたわ」


 と言うので、いよいよ赤い人がいるという事になり、私たちはその謎の人物を、


 アカイさん


 と、名付けました。以降、巡回後に、

 「今日はアカイさん、A棟の二階の給湯室にいたわ」

 とか、

 「三階で窓の方見てました」

 とか、ちょっとした同居人というか、K君とのコミュニケーションツールのようになっていました。

 ある日。

 施設の利用者の中で、地元の年配の方が私を捕まえて急にこんな話をしてきました。


 「これはね、噂なんだけど、この施設が出来る前は何があったか知ってる?」

 「いえ、存じ上げてないですが」

 「ここはね、昔、工場だったのよ。それで、ここの社長が借金してね、それが払えずに飛び降りして亡くなったのよ。それでこの土地がずっと荒れてるのをここの事業所が買い取ったのよね」


 その方はニヤニヤと笑っていました。ここに来る方は噂好きな人が多かったので、まぁそんなモノだろうと思いましたが、少し、アカイさんが可哀そうに思えました。きっと、アカイさんはその自殺した社長で、未だにこの場所に縛り付けられて苦しんでるんだろうな、と。

 K君にもその話をしたら、


 「きっとそうですよ! アカイさんかわいそうですよ!」


 となり、2人でその日、お線香を買ってきて供養してあげようという事になりました。

 その日の夜勤が終わってから、K君と2人でお線香を上げ、2人で手を合わせました。


 次の日。珍しく所長が顔を出したので、「〇〇さんがこんな噂をしてましたよ。元は工場だったんですか?」と聞くと、急に笑い始めてこう言いました。


 「おまえ、それ騙されてんぞっ。ここは元々、何も無ェ田んぼだよ! 〇〇さんもう歳だから適当な事言ってんだよ!」


 なんだそうか、と和やかな空気になり、「全く、俺達ってバカだな、騙されただけだよ~」とK君に話を振ると、彼は、目をギョロギョロ動かしてソワソワと、挙動不審な動きをしていました。

 

 「どうしたのよ?」


 あまりにもおかしいというか、私の方を見てもすぐに目を逸らすので、訊ねました。すると彼は、「あの、その……」と口ごもりながらこのような事を言っていました。


 彼が言うには、昨日、お線香を上げてからアカイさんがこちらを向き始めた。その顔は、凄い形相で自分を睨んでいて、しかもそれは並大抵の怒りではなく、

 「目がつり上がって、力が入りすぎて皺くちゃでどこが顔か分からない」

 だとか、

 「髪の毛が静電気で立ち上がってるみたい、身体も少し浮いてる」 

 だとか、そんな話をしていました。私は正直、私を驚かせるために言っているのか、そうじゃなくても「その程度」の事で、と思い、

 「そんな事かよ」

 と言ったら、K君は恐る恐る私を見て、こう言いました。






 「だって、昨日から、ずっと先輩を後ろから睨んでますよ」


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― 新着の感想 ―
[一言] こっわ 背後に居て他人に指摘されるとか怖っ! 振り返る動悸が口から聞こえそうで怖っ! 何かの跡地ってしっかり調べてもまぁ、心持ちって感じ? 「修羅の国日本。敗戦国家だぞ?その辺で無念で…
[良い点] 怖すぎる……! 夜中に読むんじゃなかった……!(;´д`) お線香、余計なお世話って思われちゃったんですかね……。
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