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第三話 ケモノたちの能力!

 一瞬彼女が何を言っているのかクインは分からなかったが、思い出したように意味を理解する。


「貴女は実験のプロトタイプだったのか……!」


「プロトタイプ……?何ですか?それ。」


「まだ戦争があった頃の実験体の事だよ。貴女も元人間だという事です。」


「まあ、戦争ばっかりでニンゲンの生活が嫌になってこの実験を受けましたからね。」


 ノナのように人類強化実験を受ける人間は少なくない。しかし、それは今の時代の話ではある。

 戦争が終結した五年前頃は実験を受けても成功する確率が少なかった。失敗すると異形の存在となり【ある命令】だけを伝えられてゴミ捨て場という大穴へと廃棄させられる。

 その為成功率の低い実験最初期の実験体はケモノの要素を含んでいることが多い。そして何より特殊な能力、技能に目覚めるものが多いのだ。

 アドラは【鼻】の力、クインは【眼】の力を強くさせている。

 新人類となれば旧人類では理解できないほどの超能力を使うことができるようで、研究者も被験者もそこを目指している。

 クインはノナの能力が気になり訊ねる。


「貴女の能力は何になりますか?」


「わたしの力は【耳】の強化能力で、その人に関連するものなら少し前の過去の音声を拾うことができます。」


「アドラと似たような能力だな。そう思うだろ?」


「そうだな。俺とはアプローチが違うけど、貴重な能力だ。つ、つつつ使ってみて、くくくれるかな……?」


 未だにノナに対し吃音が治らないアドラにやれやれとため息を吐きながら、クインはノナに能力の行使を許可する。

 それを見たノナは深呼吸をして目を閉じる。

 時間にして三秒も経たずに彼女は耳を押さえてうずくまった。


「いっ……!」


「大丈夫ですか!?……耳から血が出ていますね……。」


「きっと、能力の使いすぎだよ。俺も使いすぎたら鼻血出るもん。」


 彼女は痛みのあまり喋ることが出来ず、そして能力の副作用で二人が何を話しているのか聞こえていなかった。

 それを見たアドラは手帳に文字を書いてノナに見せる。

 

[何が聞こえた?]


 ノナはそれを見て、話そうとするが声がうまく出ないのか二人は首を傾げた。

 クインはノナに手帳とペンを渡し、筆談で会話をする事に決める。

 ノナは自分の能力で見たものを書いていく。


[わたしが聞いたものは、何かが擦れる音と口論していた店員と客の声です。]


[何を言っていた?]


[今日発売のニンジンコーヒーが売り切れていた事に腹を立てて……。]


[立てて?]


 アドラがその後を聞いても答えが返ってこなかった。

 恥ずかしそうに顔を隠しているノナにクインは助け舟を出す事にした。


「アドラ、お前はこの事件どう見ているのか聞かせてもらえないか?」


「俺の見解では事件の線がビンビンに張っているな。でもうさぎちゃんは犯人じゃない。」


「それはどうしてだ?」


 クインはアドラの自信の持った回答に疑問に思う。

 二人にとってはいつもの事であるようだが、アドラは基本的に自信のない回答はほとんどしない。


「だって、うさぎちゃんから悪いニオイがしないからね。」


「はあ……って事は冤罪になってしまうのか……。」


「ドンマイ!まあ、事件の全貌が分からないからなんとも言えないんだけど、事故じゃなければ見せかけたものだと思う。あとなんかガス臭いんだよなこのお店。」


 クインはアドラのニオイについて調べる事にした。

 店の釜戸や裏のキッチンを二人で手分けして探す。

 ノナは耳の回復をするために現場の端で座って待つ事にした。

 もっとも逃げてしまうと足輪が彼女の足を切断するので大人しくしていた。


(アドラさんは何だかんだ女性に対して気にかけてはいるのよね……。すんなり引いてくれるし……。)


 そう思ってアドラの動きを追っていた。

 アドラとクインは鑑識が入る前の現場をできるだけ散らかさないように証拠品を物色すると、アドラは何かを見つけたのか声を上げた。

 クインはそれを聞いて駆けつけると、細い管のようなものだった。


「なんだそれは……?」


「ふっふっふ、クイン君まだまだ甘いね。これは小麦粉をあのタンクから出すためのホースだよ。きっとうさぎちゃんの言っていたシューって言う音はこれのことだ。」


「それと事件は関係あるのか?」


「粒子の細かい粉が引火すると粉塵爆発を起こすよな?今回の爆発はそれが原因だと俺は思う。」


「……。火の強さが足りないし、このホースから粉が落ちても小さな粉が舞わないだろう。」


 アドラは推理にずっと否定的であったため、クインに向かって人差し指を立てて「チッチッチ」と舌を鳴らす。


「クイン君、頭が固いよ。この機械は粉が詰まった時にガスを使用して詰まりを解消する機構があるんだよ。まあ、このガスは非可燃性ガスだから燃えはしないけど、解された粉が空中を舞って粉塵爆発の素にはなる。」


「それは知らなかった。じゃあ、あとは火の元だな。俺の【眼】ではこのライターが反応したから発生源はこれで決定なんだが……。」


 アドラは悩むクインの肩に手をポンと置く。

 そして自信のある笑みを浮かべて鼻に指を指す。


「俺の【鼻】の出番って事だよな!」


 アドラの能力【鼻】は、かなりの高精度である事をクインは知っている。

 一嗅ぎすればそのものの少し前の過去のニオイを知る事ができると言う能力である。

 精度を上げるために複数回嗅ぐ事で正確に動きが判明する。

 デメリットとしては能力の酷使は鼻血が出てしまうことと、しばらく鼻呼吸ができなくなってしまう。

 そのことからクインはアドラの能力をあまり使用してほしくない思いでいたが、自分の誤認逮捕で迷惑を被っているためアドラの能力の行使を許可する事にした。


「今日はやけに素直に許可出してくれるじゃん。」


「うっせ。わかるんならやってくれよ。」


「ほいほい。それじゃ、行使するよ!」


 アドラは鹿撃ち帽を外して鼻に力を集中させる。

 ノナはそれを息を飲んで釘付けになって見ていた。

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